双葉、口説かれるッ!
「ええ~、今日から皆さんと一緒にお勉強する、結城双葉さんです。ええ~彼女はね。先日に海外留学のために、しばらく日本を離れることとなった結城双葉君と従姉妹同士だそうで、名前まで一緒なんで、少しややこしいですが、皆さん、仲良くしてあげてください」
眼鏡を掛けた中年の男性教員は、面倒臭そうに、結城双葉という文字を黒板に書くと、双葉の経歴について話した。最も、これらの情報は、厳の作り出した真っ赤な嘘ばかりなのだが、周りの生徒達は真剣に聞いていた。
「結城さん、席が二つありますが、どっちが良いですか?」
「ええと・・・・」
双葉は教室内を見渡した。空いている席の片方は、先程、双葉が吹き飛ばした金髪の男子生徒、名前を西園寺勤の隣であり、そこを選択すれば、周りの女子から袋叩きに遭うことは分かっていたので、迷わず別の席を選択した。
「あそこが良いです」
双葉が指したのは、高須公平の隣である。西園寺とは雲泥の差、神は何を考えて人間にここまでの不平等を科したのかと、文句を言いたくなるほどに、環境もルックスも西園寺の方が上回っている。
「ええ~、じゃあ結城さん。鞄を持って、席に座って下さい。にしても、結城さんは見る目がないですね。高須君の隣は、女子なら、誰もが嫌がるんですがね」
双葉が席に着くと、公平が後ろを向いて、周りの連中に何かをコソコソと呟いていた。
「おい、早乙女。この娘。西園寺よりも俺を取ったぜ」
「ああ、見ていたよ。これは恋愛フラグかも知れないぞ」
「くそ、しかし羨ましいな。髪とかサラサラだぞ。きっと良い匂いがするんだ」
双葉は男連中の話などどうでも良かった。最も、高須公平とは、まだ男性だった頃に、よくつるんでいたため、彼の性格については知っているつもりだ。だから、彼が何を考え、何を言うかは、大体見当がついた。
「ね、ねえ、君って彼氏とかいるの?」
「別に・・・・」
あまり喋るとボロが出ると考えた双葉は、学校ではあまり口を開かないようにしていた。だから敢えてぶっきらぼうにそう答えたのだ。
「おいおい、トイレ行こうぜ」
高須の興味は既に他に移ったようで、男子達と一緒に廊下に出て行った。
「やっと、落ち着ける・・・・」
双葉は静かに溜息を吐いた。しかし、まだ彼女の受難は終わらないようだ。彼女の机を取り囲むように、女子達が恐ろしい顔でやって来たのだ。
「ねえ、あなた。生意気よね。ちょっと可愛いからって、西園寺様を蔑ろにするなんて信じられない」
(隣に座ったら、座ったで、絡んでくるくせに)
双葉は心の中でそう思うと、立ち上がり、廊下に行こうとした。
女子達の視線をものともせずに、廊下に出ようとした、双葉の足に何かが引っかかった。誰かが彼女に足を引っかけたらしい。双葉はそのまま、バランスを崩すと、床にうつ伏せに倒れた。そして鋭い目で、自分を転ばせた女子を睨み付けた。
「あら、御免あそばせ」
女子は恍けたように言うと、双葉の後頭部に足を乗せた。
「うふふ、あなたみたいな軽い頭の女には、上履きを乗せるぐらいがちょうど良いわね」
直後に、女子達の笑いが教室中に響いた。双葉は避けようと思えば、避けられたが、そこで足払いを避ければ、余計に目立ってしまうと思い、敢えてそれを受けたのだ。しかし、足で踏まれるとまでは考えていなかった。
「何よ。文句でもあるの?」
「良いよ。上等だ。この喧嘩受けて立つ。でも、勘違いしないでね。先に仕掛けてきたのはそっちなんだから」
双葉の眼の色が変わった。愛らしい大きな瞳が鋭い、まるで鋭利な刃物のように尖っていた。流石の女子達もこれには驚いた。彼女らの失敗は、双葉を普通の鈍臭い女子だと勘違いしたことだろう。
双葉はスカートに付いた汚れを払い落とすと、そのまま廊下に出て行った。その姿からは気高さのようなものが感じられた。