双葉、学校で絡まれるッ!
朝、目覚まし時計のボタンを乱暴に押して、双葉は目を覚ました。大きく欠伸をして、鏡の前に立つ。見慣れない美少女が、髪の毛をあらぬ方向に立たせて、いわゆる寝癖の酷さが、髪に現れていた。
「未だに慣れないよな。この姿」
風呂に入る時も、双葉は目隠しして入っている。自分の裸体とは言え、女性の肉体を直接見るのは気が引けた。仕方なしにクシを持つと、それで爆発した髪の毛を解かした。
いつもと変わらぬ日常。洗面所で顔を洗って、ようやく頭の中がすっきりした頃には、もう学校に向かわなければならない時間帯となっていた。
「朝飯食べてる時間がないぞ。くそ、急がなきゃ」
「おい、双葉」
急いでいる双葉を知ってか知らずか、大学生で、午後からが授業である松葉が、優雅に新聞を読みながら、双葉を呼び止めたのだった。
「何だよ。クソ兄」
「クソ兄は止めろ。良いか、変な奴に付いて行くなよ。後、寄り道なぞせずに真っ直ぐ帰れよ」
松葉らしくない忠告である。双葉は不思議そうに首を傾げると。そのまま無視して鞄を肩に掛けて、学校に向かった。
「おい、親父」
松葉が新聞を畳むと、茶漬けを食べている父、厳の方を向いた。
「なんじゃ?」
「双葉の奴、学校にはどう伝えているんだ?」
「ああ、男の双葉は海外留学で、今の女双葉は、ワシの親戚で、しばらく預かっているということにしてある。まあ、余裕じゃな」
「しかし、俺は心配だ。双葉はあの容姿だ。はっきり言って可愛い。マジで、守ってやりたくなる。独占欲が湧いてくる。下手な男に引っかかっていなければ良いが」
松葉は眼鏡を外すと、右手で瞼を軽く揉んでいた。そこに、若葉がやって来た。まだ朝のせいか、髪型もツインテールではなく、普通にストレートの状態である。彼女は松葉の隣に座った。
「へへん、もし、お姉ちゃんに悪い虫が憑いたら」
松葉が眼鏡を掛けた。彼の眼鏡がキラリと光る。そして父の厳も茶碗を置いた。
「殺す」
満場一致だった。三人は見るからに悪そうな笑みを浮かべると、三人同時に立ち上がった。松葉はタンスの前に立つと、突然、タンスに指を突き刺した。
「この手刀で、妹を、元弟を護る」
次に、若葉が穴の開いたタンスを、何処から出したのか、鎖鎌でグルグル巻きにした。
「私の鎖鎌で、二度と、近付けないようにね」
タンスが宙に浮いた。そして今度は厳が、落ちてきたタンスに向かって、自らジャンプし、空中で蹴りを放った。タンスが跡形もなく砕け散る。三人は得意気に笑っていた。それを遠くからミリーが、震えながら見ていた事実には気づいていない。
双葉はそんなことなど露知らず、テクテクと学校への道のりを気怠そうに辿っていた。校門を抜けると、見慣れない生徒の姿に、生徒らの視線が集中していた。
廊下を歩いていると、反対側から金髪の、やたらと派手な男子が、左右に女子生徒を取り巻きのように侍らせて、双葉の前に現れた。
「・・・・」
双葉は無言ですれ違おうとするが、取り巻きの一人が何を思ったのか、わざと双葉に激突して、床に尻もちを突いてみせた。
「いったああい・・・・」
猫撫で声で、媚びるように金髪の男に視線を向けた。金髪の男はじっと彼女を見つめると、それを無視して、戸惑っている双葉の元に近付いた。
「君、平気かい?」
「あ、うん。ありがと・・・・」
双葉は金髪の男のことをさして気にも留めていなかったが、相手の方は違うらしい。双葉の手を取ると、彼女の手にチュッとキスをした。
「げえ・・・・」
双葉は無意識に男を張り倒すと、そのまま廊下を駆けて行った。気持ちの悪い奴だと、心底そう思った。