双葉、闘うッ!
2年B組、それは双葉の所属しているクラスである。先程、双葉のことを写真で撮り、盛り上がっていた三人は、相も変わらずに、他愛のない話をしていた。
「でさ、絶対にC組の敏子、Dカップはあると思うんだよ」
「大げさだよ。あれはCだな」
ゲラゲラと下品な笑いが教室中に響いていた。すると、その中にいた一人の男子生徒が、突然椅子から立ち上がり、直立不動のまま、周りの男子をギロッと睨み付けていた。
「おい、どうしたんだよ。早乙女。ひょっとして勃っちゃったのか?」
先程、双葉にカメラを投げられた坊主頭の男子が、早乙女の肩に腕を乗せた。
「うるさいぜ・・・・」
「ん?」
声が良く聞き取れず、坊主頭の男子は、耳を傾けた。すると早乙女と呼ばれているその男子は、突然、普段の温厚な彼らしくなく、顔を真っ赤にすると。そのまま坊主頭の耳を手で摘んで、思い切り反対側の机の角に突き飛ばした。
「うげ・・・・」
机の角に額をぶつけた男子は、血を流しながら、床の上で痛みに悶えていた。周りの男子はもちろん、廊下にいた生徒も、早乙女の行動に恐れ慄いていた。普段はどちらかと言えば、苛める側よりも、苛められる側だった、彼のイメージが一変するほどの衝撃だった。
「早乙女、調子乗ってんじゃないぞ」
別の男子が早乙女の胸倉を掴んだ。教室内に女子の悲鳴が響き渡る。
「たく、お前もかよ。このチンポコ野郎が」
早乙女は机の引き出しから、カッターナイフを取り出すと、刃の先端部を、その男子の口の中に突っ込んだ。
「おら、今からこいつで、そのお喋りな口を、もっと大きくしてやっても良いんだぜ」
早乙女は、怯えて硬直している男子を見て笑うと、カッターナイフをポケットにしまい、自分の机を思い切り、右足で蹴って倒した。そしてそのままフラフラと教室を出ると、廊下の生徒の何人かの頭を打ちながら、鼻歌交じりに、何処かに行ってしまった。
騒ぎを聞きつけた双葉とミリーは既に、早乙女の後を追っていた。ミリー曰く、彼こそジェリースライムに憑依されているのだと言う。あの彼の、異様な変貌ぶりを目の当たりにした、双葉も流石に信じざるを得なかった。
二人は理科室の中に、早乙女が入って行くのを確認すると、すぐに中に入って行った。
「早乙女」
双葉は理科室の端っこで倒れている早乙女の胸倉を掴んだ。しかし、彼は眠ったように眼を瞑り、動かなくなっていた。
「おい、ミリー。早乙女が・・・・」
「恐らく、ジェリースライムは彼の体から出て行ったのでしょう」
ミリーは周囲を見渡した。理科室にはジェリースライムの好きそうな場所がいくらでもあった。
双葉とミリーは、周囲の様子を見て回った。すると双葉の背後にある蛇口から水滴が、ポトッと洗面器の中に落ちた。そしてその水が、透明から黄色に変化していた。
「双葉、後ろ」
ミリーは叫んだ。同時に蛇口の管が膨れ上がり、中から黄色いゼリー状の物体が飛び出してきた。
「うわああああ」
ゼリー状の物体は、双葉の体に巻き付くと、そのまま彼女の胸元や、スカートの中に、入って行った。
「うあ、このスケベ野郎。変な所に入るんじゃねえ」
双葉は全身を駆け巡る不快な感触に、真っ青になっていた。
「このままじゃ、双葉が憑依されちゃいます」
ミリーは叫ぶと、何もない空間から、銀色の鉄製の杖を出現させると、それで双葉の頭を叩こうとした。
「おい、馬鹿。止めろ」
双葉が攻撃を避けると、ミリーの杖が、机に置いてあった瓶をいくつか割っていた。
「動かないでください」
「無理言うな馬鹿」
双葉の体が突然、操り人形のように、フラフラと何処かに向かって歩き始めた。その先には、白いラベルにアルファベットが書かれていた怪しげな瓶だった。彼女はそれを掴むと、その瓶の蓋を開けようとした。
「何だ、手が勝手に・・・・」
「まずいですよ。これは・・・・」
恐るべきことに、双葉が開けようとしているのは、硫酸の入った瓶だった。