双葉、決着をつけるッ!
次回からは特別編を始めます。特に外伝と言うわけではなく、普通に続きの話となっています。
「げほ、げほ、酷いことしてくれるわね」
双葉は血と焦げ跡で酷い顔になっていた。脳髄から鼻の先までチリチリと弾けるような痛みが走っていた。硝煙の匂いが辺り一面に立ち込めていた。
「次で決着を付ける」
「言ってくれるわね。でも、こっちにだって秘策はある」
双葉は日本刀を砂利の上に突き刺すと、手ぶらで稔の元へと歩いた。
「気でも触れたのか。大事な日本刀だろ・・・・」
「必要無いぜ。あんたを倒す秘策があると言っただろ?」
日本刀を手放したため、双葉は口調も姿も元に戻っていた。彼女は深く深呼吸をすると、拳を握りしめた。この秘策に必要なのはほんの少しの勇気だけだった。
「行くぞ」
「来い」
双葉は稔に向かってジャンプすると、彼の体を砂利の上に押し倒した。彼は慌てて全身を肉塊でコーティングする。そして顔だけを空気中に晒すと、そのまま肉塊を尖らせて双葉を串刺しにしようと試みた。しかし双葉は稔の首に手を回して、彼に接近すると、恐るべき行動に出た。
「ん・・・・」
「な・・・・に・・・・?」
双葉は突然、稔の鼻を右手で思い切り摘むと、そのまま彼の口を自分の口で塞いだ。
(こいつ・・・・まさか、俺を窒息させる気か・・・・)
「んん・・・・」
双葉は甘えた猫のように喉を鳴らすと、そのままずっと稔の唇を塞ぎ続けた。彼はその呪縛から逃れようと、双葉の口内に歯を立てると、彼女の舌や口内の側面部に噛み付いた。
「んぐぐ・・・・」
口一杯に鉄の味が広がっても、双葉は口を離そうとはしなかった。そして呼吸が限界に来たのか、稔の顔が青紫色に変化して、そのまま白目を剝いた。彼を包んでいた肉塊の鎧が少しずつ力を失くして、薄くなって行く。その時、双葉の眼がキラリと光った。
「ぷはっ・・・・終わりだ」
双葉は胸元からナイフを取り出すと、それで稔の心臓部を真っ直ぐに突き刺した。
「がは・・・・」
稔は馬乗りになった双葉を突き飛ばすと、そのまま刺さったナイフを手で抜こうとしていた。
「があああ、よくも、よくもおおおおお」
稔は血を吐きながら全身を跳ねさせて、まるで陸に上がった魚のようになっていた。双葉はそれを見て地面に唾を吐いた。
「ふん、犠牲がファーストキスだけで済んで良かったぜ」
「じ、じぐしょおおおおおおお」
稔は散々にもがくと、そのまま海の中に飛び込んだ。そして海の水が真っ赤に染まり、稔が大の字になったまま浮かび上がった。
「終わった・・・・」
双葉は慌ててミリーの元に駆け寄ると、彼女を起こした。
「双葉、良かった・・・・」
「もう終わったよ。全部ね」
双葉はニコッと微笑んだ。ミリーもそれにつられて同じように笑顔を浮かべていた。二人はそうやっていつまでも互いの顔を見つめ合っていた。
数日後、城所斗真の死体が発見された。彼は行きつけの喫茶店の近くの土の中に埋められており、既に警察が発見した時には白骨化していた。そしてもう一つ、驚くべきことが明らかになった。喫茶店から2キロ先にある河川敷に、彼と全く同じ姿をした水死体が発見されたのだ。警察は早速その死体を引き上げ調査したところ、何と両者の指紋が一致した。しかし不思議な現象は尚も続いた。霊安室で保管されていた城所斗真の死体の内の片方が、次の日に見に行ったところ、全く別の姿に変わっていたという。それは身元不明の女性で指紋も全く異なる形に変化していた。
その後、警察の懸命な捜査の結果、身元不明の女性は城所斗真の発見された喫茶店で働いていた大学生で、彼とは同じ学科を専攻していたという。事件はこのまま何の手掛かりも無く終焉を迎えると思われたが、殺された女性のメールには、一通だけ不可解な内容のものが残っていた。以下、そのメールの内容である。
「お母さん助けて、男の人追いかけて来る・・・・。か、顔を取られる」




