双葉と稔ッ!
「ついに見つけましたよ」
ミリーは河川敷にいる城所斗真の姿をした神崎稔を発見した。
「小娘が。お前一人で何ができる」
「私を馬鹿にしないでください」
ミリーは指先を稔に向けると、彼の足元に向かって光の矢を放った。
光の矢は稔の足元の砂利に突き刺さると、そのまま消えてしまった。
「今のは威嚇射撃です。次は当てます」
「ふん、やってみろよ。威嚇射撃なんぞする奴が、俺に本当に当てられるわけないだろう」
「試してみます」
「やってみろ」
犬の散歩をしていた老人が、河川敷で対峙している二人を見て、欠伸をしていた。こんな早朝に何をしているのか気になったのだろう。
「呪文・ライトニングアロー」
ミリーの指先から放たれた光の矢が、真っ直ぐに稔の胸を貫いた。
「ごふっ・・・・」
稔は胸を押さえて背後に倒れると、そのまま動かなくなった。
「や、やりました・・・・」
ミリーは指を降ろすと、稔の姿を見下ろした。彼は眼を閉じたままピクリとも動かない。どうやら変身を解くよりも早く死んでしまったようだ。ミリーは彼に背を向けると、双葉に早く知らせようと砂利の上を駆けて行った。しかし、ミリーが次の一歩を踏み出すことは無かった。
「ぐっ・・・・え・・・・?」
何かがミリーの体を背後から貫いたのだった。よく見ると、彼女の腹部にはピンク色の尖った肉塊が刺さっていた。ゆっくりと後ろを振り返ると、死んだはずの稔が立っていた。
「何故・・・・?」
「驚いているようだな。俺の能力は人を操り意のままに操ること、そしてそれを応用して大勢の人間に幻覚を見せることができる。そしてもう一つの能力が、殺した人間に化けることだ。指紋すら完璧にコピーしてね。しかしどうやって変身しているのか、君には見せていなかった。今見せてやる」
稔は顔の筋肉を両手引っ張った。すると日焼けした肌が剥けるように、彼の顔の筋肉がピンク色の肉塊となって剥がれ落ち、本来の彼の顔がそこから出てきた。
「俺は自分の肉を自由に剥したり、作り替えることができるんだ。そして剥した肉を硬化して槍のように鋭く作り替えることもできる。今君に撃ったのは、肉塊の槍だ」
「そんな・・・・」
ミリーは振り向きざまに、再び指を稔に向けようとした。しかしそれよりも速く、稔の指先から尖った肉の塊が射出され、ミリーの肩を抉った。
「ああ・・・・」
ミリーは河川敷に仰向けに倒れた。
「これで俺の存在を知る者は双葉だけか」
稔は倒れているミリーの元にゆっくりと近付くと、彼女に止めを刺そうと指を突き出した。その時だった。彼の背後にこの世のものとは思えぬ異様な空気が当たった。
「そこにいるのは誰だ・・・・?」
稔は背後から感じる異様な雰囲気に、蛇に睨まれた蛙のごとく硬直していた。
「神崎、ミリーから手を退けな」
「そ、その声は結城双葉か。丁度良い。今すぐ殺してや・・・・」
言い掛けたところで稔の後頭部に強烈な蹴りが入った。双葉が彼に跳び蹴りをしたのである。稔は顔ごと砂利の上に突っ込むと、すぐに立ち上がり、双葉を睨み付けた。
「このガキが・・・・」
「ようやく会えたわね」
「まるで別人だな。それに何だその刀は。銃刀法違反じゃないのか?」
「関係ないね」
双葉は日本刀を構えると、思い切り地面を蹴って稔の元に走った。
「死ね」
「馬鹿が」
双葉の刀が稔の首を横一文字に薙ぎ払った。しかし彼の首に到達する前に、彼の体をピンク色の肉塊が包み、刀の刃にも肉片がこびりついていた。
「これは・・・・スライムか何かか・・・・」
双葉は刀を強引に引き抜くと、そのまま背後へ飛んで、稔から距離を離した。
「無駄だよ。俺の肉塊はどんな衝撃にも耐える最強のクッションさ。例えば核爆弾がここに落ちたとしても、この中にいれば、僕だけは生き延びることができる」
「ちっ、グロテスクな能力ね」
「悪いけど。君はもう終わっているんだ」
稔は双葉の日本刀の刃先を指差した。何とそこには彼の肉塊が、小さな綿ほどの大きさになって付着していた。そして稔は右手を挙げると、指をパチンと鳴らした。
双葉の体を白い光が包み込んだ。そしてその場で小さな爆発が起こった。彼女の上半身が爆風に巻き込まれ、そのまま黒い煙に包まれてしまった。彼女は日本刀を砂利に突き刺すと、それを杖代わりに体を支えていた。
「驚いたようだな。これは爆発する肉塊と俺は呼んでいる。小さな丸い肉塊を付着させ、指を鳴らすことで、その場で肉塊を爆発させることができる。小型のプラスチック爆弾だと思ってくれて構わない。最も殺傷能力は今一つだが、大量に付着させれば、君をバラバラにすることもできるんだ」




