双葉、廃墟の霊と対峙するッ!
三人は廃墟ビルの前に到着した。文字通りの荒廃したビルにはカラスが何羽も留まっていて、不気味な鳴き声を上げていた。俗に言う廃墟マニア達はこのような建物の腐敗しているところにノスタルジーを感じるのだろうか。今の双葉には理解できなかった。屋上に繋がる非常階段は錆びていて、今にも崩れそうだった。
「さあ、二人とも、レディーファーストだ」
斗真はミリーと双葉を前に突き出すと、自分は二人よりも少し下がった。双葉もミリーも憎まれ口を叩く気すらなく、トボトボと廃墟の階段に足を付けた。
実際に足で確かめてみると、意外に階段は丈夫だった。流石に非常階段を名乗るだけはあると感心していると、突然、フワッとした空気のようなものが、双葉の尻を撫でた。
「ひゃあん。て、てめぇ・・・・」
双葉は振り返ると、下から上って来た斗真の顔に蹴りを喰らわせた。
「ごふ・・・・」
顔の真ん中に真っ赤な靴跡を作って、斗真は階段から落ちそうになった。
「危ないだろ・・・・」
「それはこっちのセリフだ。いきなり俺の尻を撫でるなんて、お前は痴漢か?」
「言いがかりだ。誰が君なんかの尻を撫でるか・・・・」
二人が喧嘩していると、今度はミリーが大声を上げた。
「ああ、今、おっぱいを誰かに触られました」
「まさか幽霊?」
「幽霊だと。小説の題材になるやも知れない」
斗真は嬉しそうに言うと、二人を追い抜いて屋上まで駆け上がって行った。
屋上から見る景色は別段変わったものではなかった。自殺した少女達はここで何を思ったのだろうか。しばらく辺りを見回していると、突然、双葉は金縛りにあったかのように、自身の体に何か重い圧力のようなものが掛かっていることに気が付いた。
「おい、二人とも・・・・」
声を出そうとしても掠れたようなものしか出なかった。そして見えない糸で操られているかのように、背中からフェンスに自ら激突した。
「ぐう・・・・」
背中を強く打ちつけたために、呼吸が一瞬止まりそうになる。そしてそのままフェンスに背中を付けたまま、どんどん体が上へとスライドして行った。
「双葉」
異変に気付いたミリーがフェンスをズルズルと上って行く双葉を抱き止めた。しかしそれを阻むように、フェンスの網目になっている素材の一部が剥がれて、まるでエアガンのように、ミリーの足や脇腹などに弾丸よろしく発射された。
「ふ、双葉・・・・」
フェンスの破片が体に突き刺さり、ミリーは出血しながらコンクリートの地面に倒れた。




