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神崎稔、休暇を楽しむッ!

 市内の某中学校の女子生徒が、自身の同級生であり、クラスメイトの女子3人をナイフで斬殺する事件が起こった。犯人の名は高田潤。気弱で自分の意見を伝えるのが下手で、学校内ではいじめの対象であったらしい。殺された3人の女子生徒も彼女をよくいじめており、その方法が非常に苛烈だったために、彼女のクラスメイトによると、その3人は高田から特に恨まれていたらしい。今回の事件、動機は高田の怨恨と見てまず間違いはないだろうが、彼女が自殺してしまった以上、これ以上の詮索は無駄であると、警察も検察も判断した。


「物騒じゃのう」

 双葉の父、厳は新聞を畳むと、それを膝の上に置いた。隣では双葉と若葉が何やら揉めているようで、朝だというのに、落ち着きなく怒鳴り合っていた。

「だから、俺はそんな物着ないって言ってるだろうが」

「何でよ。妹の頼みでしょ」

「よし分かった。お前の兄を辞めるわ」

 若葉は自分でも履かないようなフリフリのピンクのスカートを片手に、双葉を追い掛け回していた。厳は箸を思い切りテーブルに叩きつけると、何処から取り出したのか。日本刀の鞘を抜いて、それを双葉と若葉の間を抜けるように投げた。

「ひっ・・・・」

 思わず青ざめる二人。刀は壁に突き刺さったままピンっと伸びている。

「朝から喧しいぞ。次騒いだら、爪を全部剥すからな」

「す、すいません・・・・」

「ごめんねパパ」

 

 二人の娘は急にしおらしくなると、静かに畳の上に腰を下ろして、朝食を再開した。双葉は箸を取ると、急に大きく溜め息を吐いた。

「何じゃ。朝から陰気だのう」

「だって、うちの中学校の生徒が4人も死んじゃったんだぞ。それもいじめを苦に、いじめの首謀者連中を殺して、自分も自殺するなんて、どう考えたっておかしい」

「もし、双葉と若葉をいじめる奴が現れたら、ワシが地獄を見せてやるわい」

「大丈夫だ。いじめる奴なんていないから」

 しばらく無言で食事を続けていると、今度は若葉が溜め息を吐いた。

「今度はお前か・・・・」

「違うよ。もう、お姉ちゃんを見てよ」

 若葉は青いパジャマ姿の双葉を見て、首を左右に振っていた。何か呆れているような様子だ。

「何だよ」

「お姉ちゃんさ。確かにお姉ちゃんのおっぱいは小振りだよ。せいぜいCカップが関の山だし。でもね、ブラは付けなきゃダメ。それじゃあ、無防備過ぎるよ。学校の制服の下にも絶対着けてないでしょ」

「ったりめーだろ。俺は男だからな」


 何の根拠もないのに胸を張る双葉を見て、今度は松葉が絡んで来た。彼は壁に刺さった日本刀を抜くと、それを鞘に入れ何故か帯刀していた。

「どうしたクソ兄・・・・」

「許せん。ノーブラで学校だと。それじゃあ、ニキビ面の思春期真っ只中エロ妄想男子の格好の餌じゃないか。も、もし、俺の双葉に欲情してみろ。性的な眼で見てみろ。必ず殺してやるからな」

 松葉は瞳をメラメラと燃やしながら、一度も会ったことないであろう、双葉の同級生達の姿を想像し、怒り狂っていた。

「ダメだよお兄ちゃん。お姉ちゃんだっていつかはボーイフレンドを作るんだから」

「ボーイフレンド・・・・?」

 松葉の瞳孔が開いた。

「許さん」

「うるせえ」

 双葉は箸をテーブルに置くと、若葉と松葉を交互に見ながら怒鳴った。

「朝から喧しいって親父が言っただろうが」


 双葉は同意を求めるように厳の顔を見た。しかし厳の反応は双葉の期待するものとは大分違っていた。寧ろ、別物と言っても良いかも知れない。彼は両手で自分の膝を一回叩くと、急に顔をクシャクシャにして泣き始めた。

「嫌じゃあ。双葉はワシと結婚するんじゃあ」

「何言ってんだ親父。双葉は俺と結婚するんだ。近親相姦ならば兄の方が有り得るだろ」

「両方ねえよ」

 双葉は一喝すると、厳と松葉の頭をげんこつでポカッと殴った。それを見ていた若葉が突然立ち上がると、階段をやけに急いで上がり、松葉の部屋に入ると、彼の机の引き出しにゴソゴソと手を突っ込んだ。

「あったよ」

 若葉は茶の間に戻って来ると、両手の指の間に何枚もの写真を挟んで、それを畳の上に、紙吹雪のようにばら撒いた。厳と双葉は口を開けたまま呆然と見ていたが、ただ一人、松葉だけが顔を青くしていた。

「何だよこれ・・・・」

「ああ、お姉ちゃんは見ない方が良いよ」

 見るなと言われても、写真に写っているのは全て双葉である。それも彼女が望んで被写体になったわけではない。いわゆる盗撮。それも全て風呂場での一幕であった。

「おい、クソ兄。弟の風呂盗撮して楽しいか?」


「楽しいさ。だって見ろよ。まず一枚目が、髪の毛を洗う双葉。そして脇を洗う双葉。アレを洗う双葉・・・・」

「止めんか」

「まだまだ。これは激レア品だ。シャワーで気持ち良くなってる双葉だ」

 最後の写真を見た双葉の顔が凍り付いた。

「おい、見てたのか。まさか・・・・」

「見てたさ。シャワーを体に当てて、妙な声出しやがって」

「うるさい、喋るな馬鹿野郎があああああ」

 双葉はクルリと回転すると、強烈な回し蹴りを松葉の首目掛けて放った。

「当たるか」

 松葉は蹴りを避けると、大きく仰け反った双葉を無視して、さらに話を続けた。

「どうりでいつも風呂が遅いと思ったら。このドスケベさんが」

「うう・・・・」

 両手を畳の上に突いて落ち込む双葉。若葉と厳は無言で写真を見つめていた。


 双葉達の通っている中学校は生徒による連続殺傷事件の影響により、しばらくの間休校となっていた。神崎稔は新聞を読みながら、トーストをかじっていた。

「ちょいと遊び過ぎたかな。大学で心理学科に所属していたからな。人を洗脳するのは容易い。さてと、久々の休暇だし、僕は選別でもするかな」

 選別、聞き慣れない言葉であるが、これは稔の昔から持っている異様な趣味の一つであった。稔は双眼鏡を片手に窓を見た。窓の外には楽しそうに談笑している女子大生が4人横一列で歩いている。

「殺人鬼がこんなに身近にいるというのに、短いスカートなんぞ履きやがって。今日はどいつを殺ろうかな」

 稔の瞳が赤く光った。しかしすぐに自分の頭を二回ほど叩くと、再びトーストを片手に新聞を読み始めた。

「イカン。悪い癖が出るところだった。今は殺人事件が起きた直後で、警察もPTAも警戒している。選別は後だ。くそ、自分で蒔いた種だけに・・・・」

 稔は震える手を反対の手で押さえた。

「僕は病気だ。幼少期から異様な性癖を持っている。今までずっと苦しかったが、あの赤い核を拾ってから全てが変わった。僕にも幸せになる権利はあるはずだ。そのために、今は我慢だ・・・・」



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