神崎稔の秘密ッ!
「それでは、第4回双葉ちゃんファンクラブの活動を始める」
昼休み、ほとんど使われることの無い文芸部の部室で、4人の男女が机を付けて神妙な面持ちで、互いに向かい合っていた。
「まず、今日の報告だが。私は今日、双葉ちゃんに掃除をサボらせてしまった」
「今日の彼女はどうでした?」
勤は髪を整えながら綾香の方を向いた。
「うん。今日も可愛かった。これで化粧でもしたらどうなるんだろうと思った」
綾香の言葉に、公平と小山田が椅子から転げ落ちた。
「ちょっと待てよ。化粧した双葉ちゃんとかヤバいだろ」
「彼女がアイドルでスカウトされないのは変だよね」
「いや、アイドルデビューはなるべく避けたい。双葉ちゃんはやはり私達だけのアイドルでいて欲しい」
「彼女の魅力について、ポエムにして来たのですが、発表してもよろしいですか?」
勤は突然立ち上がると、ポケットから白い紙を取り出した。誰も咎める者はいなかったので、そのまま彼は読み始めた。
「オレンジ色の肩まで伸びたセミロングの髪。そしてクルリと丸まった愛らしい毛先。小振りな鼻、上品そうな顎、小さな唇、大きな瞳、太陽のような声色。何故、君はこんなにも輝いているのか。君はエルフの化身なのかい?」
何とも微妙なポエムである。寧ろラブレターに近いのかも知れない。こんなものを双葉の前で発表したら、ほぼ確実に嫌われるだろう。
「素敵なポエムね。それにしても、双葉ちゃんたら魅力的な上に、本当に隙だらけよね。私は心配だわ」
「確かに、それは問題ですね。僕らで守ってあげないと」
謎の集会は5時間目のチャイムが鳴るまで続いていた。
放課後、神崎稔は職員室で作業していた。いわゆる小テストの丸付けである。そこに一人の女子生徒が、稔のデスクを訪ねて来た。
「神崎先生」
「ん、君は高田さんじゃないか。どうしたんだい?」
「実は私・・・・」
高田は腕や足に青痣をいくつも作っていた。どうやらクラスの他の女子達に暴行を受けたらしい。元々引っ込み思案な彼女のことだったので、それも無理はなかった。稔は赤ペンを置くと、ぐるっと椅子を動かして、彼女の方を見た。
「ここではあれだから。生徒指導室に行こう」
稔は高田を連れて指導室に行くと、椅子に彼女を座らせて、自分は反対側の椅子に腰掛けた。
「私が、可奈子ちゃんの彼氏を奪ったって言われて。でも私、全然身に覚えがないんです」
「知っているよ。君のことはね。君はそんな阿婆擦れじゃない。高柳の言い掛かりだよ。きっと嫉妬していたんだろう。君の美しさと知性にね」
「え、そんな・・・・」
高田の顔が僅かに赤くなった。元々、稔は学校内ではイケメンとして人気があった。家族がいるにも関わらず、女子生徒の中には彼を慕う者も多く、PTAの間でも密かな人気があった。そんな彼から褒められるとやはり嬉しいのだろう。彼女の顔が少し明るくなった。
「僕は馬鹿な女と打算的な女が嫌いなんだ。その点、君は良い。僕の理想だよ。知性があって大人の会話ができる。あの猿どもとは違う」
稔は席を立つと、後ろから高田の襟足にそっと触れた。
「え、先生?」
「大好きだよ」
稔は背後から両手で高田を抱きしめた。さっきまで褒められて赤くなっていた彼女の顔が、恐怖と緊張で強張っていた。
「止めて下さい」
「何がだい?」
「嫌です」
高田は急に立ち上がると、稔を突き飛ばして、右手でテーブルの上の鞄を掴もうとした。しかし、寸前で彼女の右手が、稔に掴まれた。
「あ、嫌ああああ」
「こら、静かに。周りに聞こえるじゃないか」
「もう、来ないで下さい」
高田は稔の手を振り払った。その拍子に稔のバックが床に落ちて、中の書類と一緒に、ゼニスの核が床の上を転がってしまった。
「ひい・・・・」
目の前でウネウネと動いている悍ましい物体に、高田は顔を両手で押さえた。
「何ですか、それは・・・・」
「これは、何でもないよ」
稔は決まり悪そうに頭を掻いた。高田は何やら勝手な勘違いをしたらしく、さらにパニックを強めていた。
「まさか、人の臓器?」
高田の顔が蒼白になり、乾いてカサカサになった唇を僅かに動かしていた。
「クソ、君とは一緒になれると思ったのに。君を殺さなければならなくなった。これ以上騒がれたら、私の今後に関わるからね」
「そんな・・・・、私、何も言いませんから」
「そんな言葉を信用するほど私は馬鹿じゃない。大の男と10代前半の少女、どう見たって僕が不利だろう。この核のことを周りに話されては、後々面倒なことになるんでね。悪いが死んでもらうよ」
稔はバックから黒のゴム手袋を出してそれを装着した。
「ははは、忘れていたよ。こんな物を着けなくたって、君を殺せる方法があった」
稔はゴム手袋を外すと、右手を開いて高田の顔に向けた。そして青白い閃光とともに電気のようなものを、高田の額に浴びせた。
「僕は人を自由に操ることができる。少し面白いことをしようか」
稔は舌なめずりすると、口をポカンと開いたまま、茫然と床に座り込んでいる高田に近付いて、耳元で何かを囁いた。彼女はロボットのように機械的に立ち上がると、フラフラと部屋から出て行ってしまった。




