斗真、ゲームで闘うッ!
ミリーと斗真は食い入るように画面を見つめていた。青い光源が二人の顔を照らした。
「MASAって、名前の一部でしょうか?」
「さあな。プライバシーもあるし、万が一特定されてしまわないように、僕は無関係のユーザー名を付けているし、実際にそうする奴だって多いだろう」
「これで勝てば良いんですね」
「簡単に言うなよ。相手はネットでも有名な格ゲープレイヤーだぞ。エクストリームファイターに限らず、様々な格ゲーをやり込んでいる強敵だ。それに、僕の切断数を見て、対戦を避けられないかも不安要素だが」
MASAは、しばらく考え込んでいたが、対戦可能のボタンを押した。そしてすぐさま、キャラクター選択画面に移行する。様々な国籍のキャラクターから、斗真は金髪のアメリカ人女性エージェントを選択した。
「僕の十八番のキャラクター、ティナだ。テクニカルな性能だが、僕には最も扱いやすい」
対する相手は、ミリーと闘った時にも使用していた銀色の体を持つ、金属質のキャラクター、マスターを選択していた。
「これは。私もこいつにやられたんです」
「マスターか。防御力は紙同然だが、その分、高い攻撃力と強力なコンボを持つ、超上級者向けキャラクターだ。僕もこいつは苦手だが。負ける気はしないね」
ロード画面になった。斗真は神経を集中させるために深く呼吸をした。
「行くぞ」
第一ラウンドが始まった。画面内では二人のキャラクターが叫びながら組み合っていた。
「随分と消極的だな」
MASAは全然攻めて来ず、斗真の攻撃に体力をどんどん減らしていた。動画で見た相手とは違う、明らかに手を抜いていた。
「こいつ、舐めやがって」
斗真は強烈な蹴りの連打を浴びせた。相手の体力が見る見るうちに減少し、体力のゲージが真っ赤になっていた。しかしそれで、斗真の緊張が消えることはなかった。何故なら、相手のキャラクターの舌に表示されている、必殺技ゲージがマックスまで溜まっていたからである。
「気を付けて下さい。第一ラウンドは楽に取れますが、第二ラウンドから逆転されますから」
ミリーは心配そうに斗真を見つめていた。彼女の予想通り斗真は第一ラウンドを先取した。
カケルの家、大きなテレビ画面の前で、カケルはコントローラーを握ったまま不敵な笑みを浮かべていた。
(第一ラウンドはあげるよ。でもね、次からは僕のターンだ)
カケルは勝ち誇ったようにコントローラーをよい強く握った。すると、その横から双葉がひょっこりと現れて、彼のコントローラーを奪った。
「ちょっと・・・・」
突然の出来事に、カケルは驚き、口をパクパクと動かしていた。
「お前な。弱すぎるぜ。俺が手本見せてやる」
「待って、違う。今のはわざとで・・・・」
言い掛けたところでもう遅い。双葉はコントローラーを取ると、MASAという名前を汚すように盛大に負けた。すると、突然テレビ画面が青色に光り始めた。
「何だ・・・・」
「ダメなんだよ。負けたら。僕は勝った相手から、その人の大事なものを奪うことができる。その代わりに負けてしまったら、今まで勝負で手に入れた物を全て返さなきゃいけなくなるんだ」
カケルの言葉が終わらないうちに、既に双葉はそこにはいなかった。テレビ画面に吸い込まれ、元の場所へと戻って行ったのである。彼はカーペットの上に膝を突くと、ポロポロと涙を流していた。そんな彼の姿を、彼の母親が遠くから心配そうに見ていた。そしてカケルの大切にしていた、ゼニスの核は、窓から外に出て行ってしまった。




