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ミリー、ゲームをするッ!

 ゼニスは肉体を失った。寧ろ、元々肉体などなかったのだ。真っ赤に発光する怪しげな核が、人間の欲望を求めて天空を彷徨っていた。そして、また一人の人間に憑り付き邪悪な力を与えるのである。

「おい、居候」

 双葉は足で部屋の戸を開けると、次世代ゲーム機の前で、眼を皿のようにして格闘ゲームをプレイしているミリーの頭を指先で軽く小突いた。

「あだっ」

 同時に画面の胴着を着たキャラクターが、断末魔を上げながらアスファルトの上に沈んだ。画面の前には、すっかり意気消沈して真っ白な灰となったミリーが座っていた。

「あ~あ」

「ふ、双葉のせいで負けました」

「人のせいにするなよ。それに元々は俺のゲームだぞ。何で、宇宙から来た魔法使いがゲームなんかやるんだよ」

「いえいえ、様々な惑星を冒険してきた私も、こんな近代文明に出会ったのは初めてですからね」

 双葉はミリーからコントローラーを取り上げると、ゲーム機の電源を落とした。

「ちょっと、何するですか?」

「馬鹿、お前やり過ぎだ。もう始めてから8時間経つぞ」

「あれ、そうだっけ?」


 ミリーは恍けたように首を傾げた。双葉はその姿を見て溜息を吐いていた。

「ああ、ゲームやらないと手が震えて」

「馬鹿」

 ポカッと双葉に額を軽くげんこつで小突かれ、ミリーは額を押さえて仰け反った。同時に消したはずのゲーム機の電源が突然点いた。そして赤色になっていたランプが、起動中を意味する緑色に変化していた。リモコンに触れていないとういうのに、勝手にテレビが点き、ゲームのメニュー画面に移行する。

「おい、止めろって言っただろ」

「違いますよ。勝手に始まったんです」

 二人が言い合いをしているうちに、画面にはゲームのタイトルが表示されていた。プッシュスタートの文字が金色に輝いている。いつもの画面であるが、何やら異様な雰囲気を放っていた。自動でオンライン対戦の待ち受け画面が選択され、そこに見知らぬプレイヤーの名前が出現した。


「何だ・・・・?」

 思わず身を乗り出して画面を食い入るように見る二人。そこにはMASAと書かれていた。

「相手プレイヤーの名前か」

「どうしてです。バグですか?」

 しばらく呆然としていると、テレビ画面の奥から電子音が聞こえてきた。変声機によって、男性か女性かも分からないような声で、ノイズとともに、ソレは話し始めた。

「僕はゲーム・・・・天才・・・・だ・・・・。僕と対戦・・・・しようよ」

 ぶつ切りで聞こえ難かったが、耳を澄ませれば一応理解はできた。ボイスチャット機能など付いていないはずなのに。テレビの中に人が入っているかのように、声が聞こえて来るのである。

「ミリー、おかしいぜ。テレビの電源が落とせない」

「ゲーム機の方もダメです」

「こうなりゃ、線引っこ抜くか」

 双葉は立ち上がり、テレビの回線に手を掛けた。すると、テレビからまたも声が聞こえて来た。

「だから・・・・僕と対戦・・・・しよ」


 テレビ画面の声を聞いているうちに、ミリーの顔付きが変わった。

「双葉、ゲーマーとしての血が勝負をしたがってます」

「はあ?」

「だから、対戦を挑まれて断るなんてできません」

「馬鹿か。これは罠だ。相手は人間じゃないんだぞ」

「もう遅いでーす」

 既にミリーはキャラクターを選択していた。先程と同じ、胴着を着たキャラクターを選択する。相手は銀色の液体状の体をした、何処かのミュータントのようなキャラクターを選択していた。

「ステージは自由の女神像の頭で良いですね」

 慣れた手付きでステージを選ぶミリーを見て、双葉はまたも溜息を吐いた。

(相当やり込んでいるな)

 ゲームが始まるまでには少しの時間がある。その間に、突然、テレビ画面が話し始めた。

「言い忘れた・・・・このゲームに・・・・負けた・・・・場合は・・・・君の・・・・大事なもの・・・・貰うよ」

 ぶつ切りの声はそこで収まった。

「大事なもの?」

 ミリーは画面の発した言葉に一瞬、複雑そうな顔をしたが、ゲームが始まると、すっかりそのことを忘れていた。


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