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双葉、ゼニスを追い詰めるッ!

ブログの方である程度話を書け溜めてから、こちらにまとめて投稿する方針にしましたので、こちらに投稿する際は、一日に三話程度を連続で投稿する形になります。目安としては一つの事件を解決するぐらいです。なので少し更新が遅めになってしまいます。申し訳ありません。

「やばい。遅刻した-」

 双葉は鞄をブンブン振り回しながら、学校を目指して走っていた。その後をミリーが箒で空を飛びながら付いて行く。

「双葉、待ってください。お弁当」

「弁当?」

 双葉は一瞬だけミリーの方を振り返ったが、すぐに前を向いて全力疾走していた。どうやらよほど余裕がないらしく、ミリーもこのまま学校まで追いかけっこを続ける覚悟をした。

「着いたぞ」

 急いだ甲斐もあり、チャイムギリギリに校内に入ることができた。もし遅刻をすれば綾香にまた怒られる。双葉の頭はそれで一杯だった。乱れた髪を手で整え、男の時は存在しなかった丸く、くるんと円を描くような毛先を手で撫でた。

「ん?」

 いよいよ教室の扉を開けようとしたその時だった。教室の前に座っている一人の男子を見つけた。彼は髪が真っ白になっており、一体どれほどの苦労をすれば、こんな色になるのか、聞いてみたくなるほどに痩せ衰えていた。

「あの・・・・」

 双葉が恐る恐る声を掛けると、その白髪の男子は、皮の弛んだ瞼を開けて、双葉の姿をチラッと見たが、口を僅かにパクパクと動かすのみで、言葉を発することはなくそのまま眼を再び閉じてしまった。


「何だよこれ・・・・」

 よく見ると、彼以外にも廊下やトイレの周辺には、床にペタリと尻を付けて眠っているのか、起きているのか判断しづらいような、姿の年老いた人間がたくさんいた。彼らは皆、学校の制服を着ており、まるでこの学校の生徒のようにも見えた。しかし、見た目から判断すれば、最低でも60歳は越えている見た目をしている。双葉が考え込んでいると、ミリーが窓から廊下に入って来た。

「双葉、お弁当」

 頬を膨らませ、気の長いミリーも流石に怒っていた。しかし双葉の目線が別の方向に集中しているのを見て、さらに怒りを露わにいた。

「ちょっと、無視ですか。怒ってますよ私・・・・」

「馬鹿、見ろよ」

 双葉はミリーの首を強引に生徒達の方に向かせた。能天気な彼女の顔が真剣なものに変わる。

「これは・・・・」

「ゼニスの仕業だろ?」

 双葉は溜息交じりに言うと、ナイフをポケットから取り出して、背後を向くと同時に構えた。


「後ろから奇襲とは卑怯だね」

 二人の背後には、見覚えのある女性がニヤニヤと笑みを浮かべながら立っていた。比較的長身で、スタイルの良いその女性は、厚化粧の賜物である美貌を鼻にかけていたので、女子達からは評判が悪かった。双葉にとって、女子の評判などどうでも良いが、双葉がまだ男性であった頃、その女性からしきりにセクハラめいたことを言われたり、されていたので、彼女を苦手としていたのである。そのせいか、双葉の顔は今までにないぐらいに不快感を前面に押し出していた。

「あら、まだ老化させていない生徒がいたのかしら」

 その女性は艶っぽい声で言うと、爪を尖らせて、双葉達に襲い掛かろうとしてきた。

「誰です。あの人は?」

「あいつは松浦和子。英語担当の教師だ。くそ、よりによって俺の苦手な女に・・・・」

 和子は大きく跳躍し、天井を両足で蹴ると、そのまま双葉の首元に狙いを定めて飛び掛かってきた。

「当たるか」


 双葉はそれを背後に跳んで避ける。空振りして石造りの床に落ちた和子は、顔面をぶつけて苦しんでいた。

「おごおおお」

 和子はぶつけた右目の部分を両手で押さえ、その場に蹲った。

「おい、少し大げさじゃないの?」

 双葉はからかうように言うと、ナイフを和子に向けた。そして急に鋭い眼つきで、背後にいるミリーの方を振り向いた。

「おい、何かおかしくないか?」

「ええ・・・・」

 双葉の感じた異変をミリーも感じていた。顔をぶつけただけのはずの和子が、右目から黒いタールのような血液を大量に溢し始めたのだ。それどころか黒い血を床に吐いたり、苦痛で全身を揺らしていた。やがて全身から黒い渦のようなものを舞い上がらせると、全身が黒い煙に包まれて、赤い両目をした、巨大な黒いクマのような姿に変貌していた。それは前に見た、黒木の時と同じような変貌で、双葉はその時のことを思い出していた。


「こいつは、黒木の時と同じだ。ただ怪物になるわけじゃない」

「きっと、ゼニスの力が度重なる憑依によって強くなっているのでしょう。前よりも人の生気を吸うスピードが上がっています」

 ミリーは黒いクマに向けて両手を付きだすと、そこに巨大な炎の玉を放った。

「呪文・バーストリンク」

「馬鹿か。学校で何てものをぶっ放すんだ」

 双葉は思わず床の上を転がって丸くなっていた。しかし、予想とは裏腹に、呪文はクマの額に命中すると、ゴムに電気を流すように弾かれてしまい、全くの無駄だった。

「魔法が効かない・・・・」

 ミリーが固まっていると、今度は双葉がナイフを口に咥えてクマに向かって飛びかかった。

「魔法がダメなら物理だ」

 ナイフを手に持ち帰ると、その先端をクマの襟足に向けて突き立てた。しかしナイフの先は刺さるどころか、その体に触れた瞬間に弾かれて、床に落ちてしまった。

「ぐおおおおおむ」

 クマは咆哮とともに、口から体色と同じ黒色のブレスを二人に吐きつけてきた。


「ぐうううう」

「うあああああ」

 二人は同時に悲鳴を上げると服を僅かに焦がしていた。

「熱い・・・・」 

 双葉はナイフを拾おうと手を伸ばした。目の前にはクマが咆哮を上げて、空気を大量に吸い込み、次のブレスを吐く準備をしている。

「何だ・・・・」

 双葉は息を吸っているクマの体に注目した。クマの胸元に赤い核のような物を見つけたのである。

「ごおおおおむ」

 クマの口から黒いブレスが放たれた。双葉はそれをまともに喰らい、悲鳴すらかき消すほどの轟音で、彼女の柔らかい皮膚を削って行った。

「げほ、げほ・・・・」

 双葉は床の上にうつ伏せで倒れると、口から血と痰の混じった物を吐き出しながら肩で息をしていた。後頭部にじんわりと熱いものが広がる。呼吸するたびに肺が痛みを伴う。まるで肺まで火傷したみたいだった。


「大丈夫ですか?」

 ミリーは慌てて双葉の元に寄り添った。しかし、双葉は彼女の肩を掴むと強引に立ち上がり、ナイフを強く握りしめた。

「あ、あいつの弱点を見つけた・・・・」

 言葉が上手く紡ぎ出せず、喉の奥から血がこみ上げて来る。

「あいつの体内に、赤い核のような物を見つけたんだ・・・・」

 クマは再び空気を体内に入れた。これが次のブレスの攻撃の合図だった。同時に先程の赤い核が、より鮮明に表れた。

「良いモノをやる」

 双葉は赤い核目掛けてナイフを飛ばした。

「ぐおお・・・・?」

 ナイフは真っ直ぐと空を裂きながらクマの体内にある赤い核に見事突き刺さった。クマは吐き出すはずの黒いブレスをあらぬ方向に撒き散らして真後ろに倒れた。体がデカいだけに、倒れた際の振動も凄まじいものがあった。気が付くと、黒い煙が天井の方に集まって、憑依された和子は廊下の真ん中で大の字に倒れていた。


「今度は逃がさねえよ」

 双葉はナイフを素早く拾い上げると、黒い煙に向かって突撃した。よく見ると、黒い煙の中には銀髪の少女の影が映っていた。双葉はそこにナイフを投げた。

「え、あ・・・・?」

 攻撃されたことが意外だったのだろう。ゼニスは背中に刺さったナイフの先端を手でなぞっていた。そしてそれがナイフであると気付いた時、彼女は絶叫した。

「ぎやあああああ。この、猿がよくも・・・・」

 ゼニスは床の上に倒れると、背中のナイフを何とか抜いて、それを床の上に放った。

「勘弁しな」

 双葉は両手をポキポキと鳴らしながら、倒れているゼニスの元に近付いて行った。さらに背後で大人しくしていたミリーもそれに続いた。


「双葉、ナイスです」

 ミリーは嬉しそうに言うと、ゼニスの体に手の平を向けて何かを小声で唱えた。

「ぐうう・・・・」

 ゼニスの体に青い光が纏わり付いた。それは苦しいらしく、ゼニスは身をよじっていた。

「観念してください」

「観念だと。あたいに指図をするなんて、随分と偉くなったのねミリー。統制者の出来損ないのくせに。でも、私は諦めるわ。もう私じゃ限界のようね」

 ゼニスの体から突然、赤い核が飛び出した。そして窓を突き破って何処かに消えてしまった。ミリーはそれを見て叫んだ。

「しまった」

「何だ。どうしたんだ?」

 状況の読めない双葉は首をあたふたと様々な方向に振っていた。

「分かっていないあんたに大サービスよ。私達、統制者はね。魔法の研究を極めた挙句に、神の領域である不老不死の域に達してしまった者達の成れの果てよ。そしてその方法は統制者によって異なる。自分の魂を人形に移すことで永遠を手に入れた者もいれば、あたいのように肉体を捨て去ることで、不老不死を得る者もいる」

「何が言いたいのですか?」

「あたいの人格はこれで滅びるが、核の中にあるあたいの知識や力は生き続ける。あれを、邪悪な心を持った人間が手にすれば。ふふふ、楽しみだわ。この町には反吐が出るほどの腐った性根の持ち主がいるわ。あたいはその存在に気付いていた。飛ばした核は、その者のところへと放たれた」

 

 ゼニスはそこまで語ると、全身から黒い渦を放出しながら跡形もなく消えてしまった。双葉とミリーは互いの顔を見合わせて、核の行方を探すべく学校を飛び出した。



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