双葉、死神と闘うッ!
「何だよ、これ・・・・」
先程まで生き生きとしてた女子達は死神の姿を見て、蛇に睨まれた蛙のごとく全身を硬直させた。
「紹介するよ。僕の怨みを代わりに晴らしてくれる。言うならば執行代理人さ。名前はエリミネーターと呼んでいるよ」
エリミネーターは鎌を振り上げると、鎌を持っていない方の手で、一人の女子の首を掴んで固定させた。
「嫌、止めて・・・・」
「恵理子・・・・」
女子の一人が、今まさに襲われようとしている仲間の名前を呼んだ。しかしそれは消え入りそうなほどに小さく、ただ見守ることしかできなかった。
「コホォォォォォ」
エリミネーターは奇妙な呼吸音とともに、鎌で空を斬りながら女子の首を傷付けた。同時に、まるで蒸発でもしたかのように、全身から煙を出しながら、その女子生徒はその場から姿を消した。
「ご苦労さん」
黒木は、エリミネーターの方を向いて言うと、今度は別の女子の方に視線を移したが、既に他の女子達は、何処かに逃げた後だった。
「友人を見捨てたか。まあ良いよ」
黒木は地面を見ると、まるで小さな子供が蟻を捕まえるかのように、葉っぱを掴んで震えている、先程の女子を掴んで持ち上げた。
「縮んだね」
鎌で攻撃された女子は、ほとんど蟻と同じぐらいの大きさになっており、これこそがエリミネーターの力なのだと、黒木は実感した。
「驚いたかい。この鎌は人を殺すことはできないけど、代わりに斬った生物を小さくするんだ。僕が望む分だけね。こうなっちゃえば怖くない。ほら、いつもみたいに僕を怒鳴れよ」
女子はブルブルと震えていた。口を小刻みに動かすだけで、そこから音が発せられることはなかった。
「しばらく僕の玩具になってもらうよ」
黒木は透明な瓶を取り出し蓋を外すと、その中に縮んだ女子を入れて、再び蓋をしてしまった。
「もう何も怖くない。あの娘の言うことは本当だった。僕は最強になったんだ。もう誰にも苛められないし文句は言わせないぞ」
中途半端な人間ほど力を持つと恐ろしい。彼は瓶をポケットに突っ込むと、そのまま校舎の中に戻って行った。いつもは人気を避ける彼も、今日は争いごとに巻き込まれたくて仕方なかった。
「まず手始めに、僕を苛めてきた奴らを片っ端から、小さくしてやろう」
二日後、双葉達の通っている中学校限定で、生徒が行方不明になる事件が発生した。実際にはその前から、生徒の何人かは行方をくらませていたが、事件として公式に発表されたのは、その二日後の今日であった。警察が本格的に動き出し、当事者の黒木は、カタルシスに酔い痴れていた。自分の行動が周りへ影響を与えている。実際、この数日間、彼はやりすぎていた。能力を得た嬉しさに、自分の気に食わない人間達を、エリミネーターで縮ませて、瓶に閉じ込め、自分の部屋に保管していた。瓶の中から聞こえる悲鳴や、叫び声は、彼の安眠を大いに手伝ってくれた。
「なあミリー」
双葉は屋上でミリーと話していた。他の生徒に見つかるとマズいので、ミリーも学校の制服を着ていた。
「どうしました?」
「最近の行方不明事件。やっぱりあいつが原因なのか?」
「はっきりとは分かりません。ゼニスは人の欲望を糧に、その人の深層心理や願望を満たすような能力を与えるのです。つまり、その人によって、強さも能力も全く違うのです。だから、これがゼニスの影響かどうかまでは、私にも・・・・」
「そうだよな。だけどさ・・・・」
双葉は言い掛けたところで、突然、背後を振り返った。同時にミリーの顔も鋭いものに変わった。
「今、誰か見てたよな?」
「私も感じました」
双葉とミリーは屋上を出ると、すぐさま階段を降り、廊下を走った。昼休み中なので、生徒の出入りが激しく、何が何だか分からない状況だった。
「双葉、危ないのです」
ミリーは唐突に叫ぶと、双葉の肩を突き飛ばした。あまりに急なことだったので、双葉は受け身を取るので精一杯だった。慌てて、振り返るとミリーの姿は見えなくなっていた。代わりに、彼女の眼前には、黒いローブに身を包んだ。骸骨が鎌を持って、窓から吹く風に揺られていた。
「くっ・・・・」
死神に気を取られていると、物陰から別の人影が現れた。それはこの前に知り合ったばかりの黒木で、その手には、指人形ほどの大きさに縮んだミリーが握られていた。
「この娘は可愛いな。でも好みじゃない。何というか。こういうの、軽そうなのかな。キャバ嬢みたいな顔だな~」
黒木は以前の弱気な態度から一転して、別人のように堂々としていた。
「お前がやったのか?」
双葉はポケットのナイフに軽く触れた。黒木はニコッと笑いながら答えた。
「やっと出会えた。僕はあの日以来、君のことが好きで仕方なかったんだ。そしてこの力を得た時に、僕は欲しい者は全て手に入れると決めた。遠くから君を見ているのではなく、僕の物にするんだ」
黒木の隣にいた死神、エリミネーターが双葉に向かって襲い掛かってきた。そして鎌を彼女に振り下ろした。




