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双葉、探偵になるッ!

「どうぞ」

 双葉は茶の間に清美を案内すると、座布団を敷いて彼女をそこに座らせた。

「あなたは清美さんですよね。前に部活見学の時にお会いした」

「ええ、そう言えば奈津子と話していたのを見たような」

「結局、俺、いや私は、部活に入らなかったんだけですけどね」

「いえ、それよりも、あなたに言っても無駄かも知れませんが、実は奈津子が二週間学校に来てなくて。家にも言ったんですけど。お母さんが中に入れてくれないんです」

 双葉の顔が、清美の言葉を聞いて、鋭いものに変わった。そして彼女の背後の襖が開き、ピンク色の長い髪を腰まで垂らしたミリーが出てきて、同じく真剣な眼差しで、外を見ていた。

「聞きましたよ。嫌な予感がします。双葉・・・・」

「おう」


 清美には分からない何かが伝わったらしい。二人は立ち上がると、清美から道を聞いて、彼女にはここにいるように言い付けると、奈津子の家に向かった。


「立派な一軒家です」

「うん」

 双葉とミリーは、奈津子の家の前に着くと、インターホンを押した。

「はーい」

 遠くから女性の声が聞こえた。奈津子のものではない。恐らく母親だろう。

 ガチャッと玄関の戸が開かれて、エプロン姿の奈津子の母親が玄関の扉を開けた。彼女は、奈津子にそくりな容姿で、短く切った黒髪をしていた。

「あなた達、誰?」

 戸惑っている母親を前に、双葉がミリーに目配せした。

「りょーかいでーす」

 ミリーは母親のこめかみを両手でそっと触ると、そのまま瞳を赤く光らせ、彼女の瞳をじっと見つめた。すると、急にフワッと力が抜けて、母親が腰から崩れ落ちた。そのまま寝息をたてて眠った。

「少し、強引でしたが。これで入れますね」

「さっさと終わらせようぜ」


 二人は家の中に入ると、階段を上って、奈津子の部屋に向かった。

「鍵は掛かってないみたいだな」

 双葉はドアノブを掴むと、そのまま部屋の中に入った。ミリーも後に続いた。

「酷いな。散らかりっぱなしだ」

「埃もすごいですね。ごほごほ・・・・」

 二人はベッドに近付くと、奈津子らしき人物が、廃人のように毛布を足に掛けたまま動かなくなっているのを発見した。

「大丈夫か?」

 双葉は恐る恐る、奈津子に近付いて行った。もちろん、ポケットにはオリハルコンのナイフが入っている。

「来ないで・・・・」

 奈津子は涙を流しながら、枯れた声で叫んだ。双葉は思わず立ち止まってしまう。すると今度はミリーが、彼女の元に近付いて行った。

「来ないでって言ってるじゃない」

 奈津子は、電気スタンドを掴むと、それをミリーに向かって投げた。しかしそれは見当外れの方向に逸れてしまった。彼女の魔法がそうさせたのであって、奈津子が当たらないようにしたのではない。あくまでも奈津子は本気だった。近づいて欲しくない理由があったのだ。


「大丈夫だから」

 ミリーは強引に、奈津子の脚に掛かっている毛布を取り去った。そして、彼女が近付くことを頑なに拒んでいた理由が明らかになった。そしてそれは、ミリーも何処かで予期していたことらしく、当たって欲しくない勘が的中してしまったのだ。

「どうした。ミリー」

 双葉もミリーに続いて、奈津子の脚を見た。そして言葉を失った。それはあまりにもグロテスクで、人の精神を害するような光景だった。

 奈津子の脚は、丸焦げにでもなったかのように、真っ黒で、まるで小枝のように痩せ衰えていた。それこそ、少し力を入れれば、ボキッと折れてしまうほどに、それは衰弱していた。

「ミリー、どういうことだ?」

「奈津子さんは。ゼニスに憑依されていたのです。ゼニスは憑依した人間の欲望を満たす代わりに、人間の生気を少しずつ吸い取って行く。今までは、双葉や私がすぐに見つけたから。生気を吸い取られる前に、何とかゼニスを追い出すことができたのですが。今回は見つけるのが遅すぎました。既にゼニスは、彼女から離れて、新しい獲物を探して、何処かに行ってしまったと思います」

「彼女はどうなる?」

「治す方法はありますが。今は無理です。少なくともゼニスを倒さない限りは。彼女の目的は、人間達の生気を吸い取り、自分の肉体を強化するのが目的なのです。そして力を付けた後は、この星を滅ぼして。また生気を吸いに、新たなる星を探す」


 その後、双葉とミリーは、脚を必ず治すことを奈津子に約束して、家を後にした。双葉もミリーも、やるせない気持ちで一杯だったが、今回の出来事で、双葉はある行動に出た。

「よし、完成」

「なんじゃ?」

「何だ?」

「お姉ちゃん?」

 結城家の三人が、早朝から聞こえるトンカチの音に目を覚まして、外で何やら忙しなく動く双葉を見上げていた。彼女は梯子に上って、門の上に板に釘を打っていた。板にはテカテカと、結城家探偵事務所と書かれていた。

「何しとる?」

「清美先輩が、家を探偵事務所と間違えたからね。いっそ、探偵業でも始めようかと思って」

「ほう・・・・」

 寝ぼけて、頭が回らないせいか、ツッコミを入れる者は一人もいなかった。もちろん、ふざけているのではない。今回、もし清美が、間違えて結城家に足を運ばなかったら、もっと酷い結果になっていたのだから、そこからヒントを得て、ゼニスを見つけるための足掛かりとするつもりだったのだ。



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