双葉、部活見学するッ!
「ねえ、結城さん。あなた、部活には入らないの?」
昼休み、校舎の屋上で双葉と綾香が話をしていた。
「部活か・・・・」
男の時は帰宅部だったので、当然、このままそれを貫こうと思っていたが、ここらで心機一転、部活動を始めるのも悪くないかも知れない。
「でも、入りたい部活ないよ」
「私が放課後案内してあげる」
「あ、ありがと」
双葉は心の中で、何故、綾香が自分に親切にしてくれるのか不思議だったが、男の時は分からなかった、彼女の一面を知ることができて嬉しかった。
「じゃあ、先に教室に戻るわね」
(やったわ。これで今日も、彼女と二人きりになれる)
「じゃあね」
綾香はスキップしながら教室に戻って行った。
放課後、双葉と綾香は手始めに、陸上部の練習風景を見ていた。そこでは、二人の黒いユニフォームに身を包んだ二人の女子が、競い合っていた。見たところ、二人とも長距離専門らしい。走り終わると、互いに健闘を立てるように肩を叩きあっていた。スポーツマンシップとはかくも美しいものなのか。双葉は退屈そうに見ていた。
「奈津子、速いわね」
「そうかしら」
奈津子と呼ばれた女子は、短く切った黒髪に小麦色の健康的な肌をしていた。足が長いため、陸上部としては見た目にも華が感じられた。対するもう一人の女子は、名前を清美と言い、少し背が低くて、奈津子と比べると、あまり容姿も魅力的ではなかった。だが、速さは彼女の方が、ほんの少しだけ上回っていた。最も、一秒を縮めることに、命を賭ける陸上にとって、ほんの少しの差は、大いなる差なのだが、二人は仲が良いようで、練習中もよく会話をしていた。
「清美、じゃあね」
すっかり、空が暗くなった頃、陸上部の練習が終わり、奈津子は清美と分かれると、首に掛けた白いタオルで、髪の毛を拭きながら、更衣室に向かって歩いた。そこに、他の部活見学を終えて、戻って来た双葉と綾香に遭遇した。
「あら、さっき私達のことを見ていた人ね」
「ああ、どうも」
奈津子は三年生で、二人の一個上である。双葉も綾香も慌てて頭を下げた。
「どうして見てたの?」
「この娘、結城さんが部活に入りたいみたいで、彼女、転校したばかりなんです。だから部活を色々と見せた上げようと思って」
綾香は早口にそう言った。
「そうなの。でも、うちは止めた方が良いわ」
奈津子は少し悲しそうな顔で言うと、近くの段差に腰掛けた。
「私、きっと大会には出られない。レベルが高すぎるのよ」
奈津子は悔しげに言うと、先程の彼女からは想像もできないような、憎悪を含んだ眼で、校門を出る清美の背中を見ていた。
「でも、奈津子先輩も速かった・・・・」
双葉は清美を見つめる奈津子の視線を塞ぐように、彼女の前に立って言った。すると、催眠術でも解けたかのように、奈津子は我に返ると、元の優しそうな顔に戻った。
「清美はね、天才なのよ。あの娘も元々は転校生で、彼女が来る前までは、私が大会に出るはずだったんだけどね。彼女が来てから一か月足らずで、私は記録を抜かれてしまった。私は彼女を応援しているし、うちの学校の看板選手として、頑張ってもらいたいけど、もう一方では、彼女さえいなければ、何て思っちゃうのよね。全く、スポーツ選手の風上にも置けないわ。私って・・・・」
双葉も綾香も何も言えなかった。この世界を知らない自分達が、外から意見をするなど、恐れ多くてできやしなかった。
帰り道、奈津子はいつもの通学路を歩いていた。すると、道路の端に、見慣れない紫色の布に包まれたテーブルと、その上に大きな水晶玉が置かれた、奇妙な店があった。ダンボールで作られた簡素な看板には、「占い」とだけ書かれていた。
「何よ。コレ・・・・?」
首を傾げる奈津子の背後から、彼女の肩を叩く者がいた。
「え、誰?」
慌てて振り返ると、そこには、銀色の長い髪をした、日本人離れした容姿の少女が立っていた。
「外人さん。綺麗・・・・」
吸い込まれそうな青い瞳に、奈津子は吸い込まれそうになった。銀髪の少女は、奈津子の手を引き、椅子に座らせると、反対側に自分が座り、水晶玉をじっと見つめ始めた。
「あたしは占い師の、ゼニーと申します。見たところ、あなたは悩みを抱えているようですね」
「わ、分かるんですか?」
「ええ・・・・」
奈津子の前に突然現れた、銀髪の少女は突然、水晶玉に手をかざした。そして、奈津子の顔を反射していた透明な水晶に、何か別のものが映り始めた。




