表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/59

双葉、部活見学するッ!

「ねえ、結城さん。あなた、部活には入らないの?」

 昼休み、校舎の屋上で双葉と綾香が話をしていた。

「部活か・・・・」

 男の時は帰宅部だったので、当然、このままそれを貫こうと思っていたが、ここらで心機一転、部活動を始めるのも悪くないかも知れない。

「でも、入りたい部活ないよ」

「私が放課後案内してあげる」

「あ、ありがと」

 双葉は心の中で、何故、綾香が自分に親切にしてくれるのか不思議だったが、男の時は分からなかった、彼女の一面を知ることができて嬉しかった。

「じゃあ、先に教室に戻るわね」

(やったわ。これで今日も、彼女と二人きりになれる)

「じゃあね」

 綾香はスキップしながら教室に戻って行った。


 放課後、双葉と綾香は手始めに、陸上部の練習風景を見ていた。そこでは、二人の黒いユニフォームに身を包んだ二人の女子が、競い合っていた。見たところ、二人とも長距離専門らしい。走り終わると、互いに健闘を立てるように肩を叩きあっていた。スポーツマンシップとはかくも美しいものなのか。双葉は退屈そうに見ていた。


「奈津子、速いわね」

「そうかしら」

 奈津子と呼ばれた女子は、短く切った黒髪に小麦色の健康的な肌をしていた。足が長いため、陸上部としては見た目にも華が感じられた。対するもう一人の女子は、名前を清美と言い、少し背が低くて、奈津子と比べると、あまり容姿も魅力的ではなかった。だが、速さは彼女の方が、ほんの少しだけ上回っていた。最も、一秒を縮めることに、命を賭ける陸上にとって、ほんの少しの差は、大いなる差なのだが、二人は仲が良いようで、練習中もよく会話をしていた。

「清美、じゃあね」

 すっかり、空が暗くなった頃、陸上部の練習が終わり、奈津子は清美と分かれると、首に掛けた白いタオルで、髪の毛を拭きながら、更衣室に向かって歩いた。そこに、他の部活見学を終えて、戻って来た双葉と綾香に遭遇した。


「あら、さっき私達のことを見ていた人ね」

「ああ、どうも」

 奈津子は三年生で、二人の一個上である。双葉も綾香も慌てて頭を下げた。

「どうして見てたの?」

「この娘、結城さんが部活に入りたいみたいで、彼女、転校したばかりなんです。だから部活を色々と見せた上げようと思って」

 綾香は早口にそう言った。

「そうなの。でも、うちは止めた方が良いわ」

 奈津子は少し悲しそうな顔で言うと、近くの段差に腰掛けた。

「私、きっと大会には出られない。レベルが高すぎるのよ」

 奈津子は悔しげに言うと、先程の彼女からは想像もできないような、憎悪を含んだ眼で、校門を出る清美の背中を見ていた。


「でも、奈津子先輩も速かった・・・・」

 双葉は清美を見つめる奈津子の視線を塞ぐように、彼女の前に立って言った。すると、催眠術でも解けたかのように、奈津子は我に返ると、元の優しそうな顔に戻った。

「清美はね、天才なのよ。あの娘も元々は転校生で、彼女が来る前までは、私が大会に出るはずだったんだけどね。彼女が来てから一か月足らずで、私は記録を抜かれてしまった。私は彼女を応援しているし、うちの学校の看板選手として、頑張ってもらいたいけど、もう一方では、彼女さえいなければ、何て思っちゃうのよね。全く、スポーツ選手の風上にも置けないわ。私って・・・・」

 双葉も綾香も何も言えなかった。この世界を知らない自分達が、外から意見をするなど、恐れ多くてできやしなかった。

 

 帰り道、奈津子はいつもの通学路を歩いていた。すると、道路の端に、見慣れない紫色の布に包まれたテーブルと、その上に大きな水晶玉が置かれた、奇妙な店があった。ダンボールで作られた簡素な看板には、「占い」とだけ書かれていた。

「何よ。コレ・・・・?」

 首を傾げる奈津子の背後から、彼女の肩を叩く者がいた。

「え、誰?」

 慌てて振り返ると、そこには、銀色の長い髪をした、日本人離れした容姿の少女が立っていた。

「外人さん。綺麗・・・・」

 吸い込まれそうな青い瞳に、奈津子は吸い込まれそうになった。銀髪の少女は、奈津子の手を引き、椅子に座らせると、反対側に自分が座り、水晶玉をじっと見つめ始めた。

「あたしは占い師の、ゼニーと申します。見たところ、あなたは悩みを抱えているようですね」

「わ、分かるんですか?」

「ええ・・・・」

 奈津子の前に突然現れた、銀髪の少女は突然、水晶玉に手をかざした。そして、奈津子の顔を反射していた透明な水晶に、何か別のものが映り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ