双葉、女になるッ!
この作品は、作者のブログ内で連載しているものですので、同一のものをブログに掲載しています。そちらの連載が終了しましたら、こちらにも投稿しますので、更新は遅めです。
結城双葉はどこにでもいるような普通の学生ではない。栗毛色の短くサラサラした髪に、大きな瞳、色白の肌と華奢な体、そしてその中性的な顔立ちのせいで、幼い頃から、女みたいだと馬鹿にされて生きてきた。
だからこそ、男らしく生きるというのが、彼の夢であり、自分を女扱いしてきた連中は、ことごとくぶちのめしてきたつもりだ。彼は華奢な体付きからは想像もつかないほどに強かった。
結城家、彼の暮らしている夕闇町で、この名を知らぬ者はいない。結城家とは、300年以上続く、暗殺を生業とする一族の末裔で、最も、殺しと言う意味では優れていた。そこの二男である双葉も、その暗殺術を継承しており、ナイフの扱いから、手刀で人を殺めるなど容易いことであった。
ある日のことである。いつも通りに学校から家に向かっていた双葉の元に、黒と白を基調とした、おとぎ話に出てくるような魔女の服に身を包んだ、ピンク色の長い髪をした少女が姿を現した。
「にゃはーん」
少女は猫のような声を上げると、手の平を双葉に向けた。
「おい、お前誰だ・・・・?」
双葉は変声期前の高めの声で訊ねると、少女はニヤリと口元を歪めて笑った。
「ちょっと、動かないでね」
少女の言葉とともに、手の平から金色に輝く光が放たれて、双葉の体を包んだ。
「え・・・・?」
何が起こったのか分からず、そのまま双葉は、衝撃で背後に吹き飛んでしまった。そして背中を強く壁に打ち付けて、意識を失った。
次の日の朝、カーテンの隙間から差し込む白い光が、眼に当たり、双葉は目を覚ました。
「んん・・・・」
ゆっくりと起き上がると、ボリボリと後頭部を掻いて、フラフラとベッドから離れて、鏡越しに自分の姿を見た。鏡の中には、栗色の髪をした、肩まで掛かる程度のセミロングの髪の少女が映っていた。そして何だか困惑したような表情で、双葉をじっと見つめていた。
「あっ・・・・」
双葉が驚くと、鏡の中の少女も全く同じリアクションで、眼を見開いていた。そっと鏡に触れると、少女も同じように触れてくる。肌が白く、大きく二重の瞳、果実のような唇は固く結ばれている。不安そうに伏せられた睫毛は長く、美しかった。清純な色気とでも言うのだろうか。鏡の中の人物は、女と言うよりもまだ少女と呼んだ方が相応しい外見をしている。しかし、そこには僅かな胸のふくらみがあって、少しずつ女になりつつある、発展途上の色気が感じられた。
「だ、誰ですか・・・・?」
異性に免疫の無い双葉なので、緊張して上手く声を発することができなかった。通っている中学校でも、これほどのレベルの少女は中々いないだろう。いわゆるジュニアアイドルとか、読者モデルの類なのか、彼女の美しさは、派手ではないが、全てのパーツが完璧だった。
「嘘だろ・・・・」
寝ぼけていた双葉が事実に気付くまで、そう長い時間は掛からなかった。鏡に映っているのは、今、この部屋で自分だけだ。彼女は昨日自分が着ていた、青い縞模様のパジャマを身に着けている。ただ、ブラを着けていないため、少し動くだけで、プルンと胸が僅かに揺れるのであった。
「うあああ・・・・」
日頃から女性と間違えられて、苦い経験を重ねてきた双葉だったが、まさか、本当に女になるとまでは思わなかった。鏡の少女は、自分の頬を抓ったり、髪の毛を引っ張ってみたりと必死だ。
「落ち着けよ俺、まさか、流石にこれは無いよな?」
双葉はパジャマを引っ張ると、胸元をチラッと確認した。自分の体なのに、無意識にごめんなさいと謝ってしまう。
「ああ・・・・」
そこには確かに存在していた。やわらかな発育途中のふくらみが、薄いピンク色の突起とともに、そこには、女性の胸があった。
「本物か・・・・?」
半信半疑の双葉は、恐る恐る指を胸元に突っ込んで、胸の僅かな突起に触れてみた。
「んん・・・・」
鼻からくぐもった卑猥な声が出る。
「やべ、気持ち良い・・・・」
気持ち良かった。
「今度はこっちだ」
双葉はズボンの中に手を突っ込んだ。無理して履いた男物のガラパンに、手を入れて、男のシンボルを確認した。
「嘘だ。俺のエクスカリバーが無い。あるのはダンジョンだ」
触れたことの無い感覚だった。有るべきものが無く、あってはならないものがある。双葉は股に手を突っ込んだまま叫んだ。
「ぬおおおおお」
家じゅうに響き渡るほどの大きな声に、隣の部屋にいた。結城家長男、結城松葉が部屋に入ってきた。
「おら、双葉うるせ・・・・」
言いかけたところで松葉はフリーズした。パジャマを着た美しい少女が、顔を紅潮させて、床にペタリと座り込んでいたのだ。驚くのも無理はない。
「た、大変だ」
松葉はすぐに階段を駆け下りると、慌ててリビングの扉を蹴破って、一家の主、父の厳を探しに行ってしまった。
「クソ兄に見られた。ヤバイぞ」
焦る双葉の目の前に、突然、青白い光とともに、長い三角帽子を被った魔女のようなシルエットが現れた。
「にゃはーん」
何処かで聞いたようなフレーズである。そこにいたのは、帰り道に会った怪しげな少女だった。
「お前は、確か・・・・?」
昨日の記憶があいまいな双葉は、少女のことを思い出せずにいた。
「私はミリー。とっても可愛い魔女っ娘でーす」
ミリーはピンク色の長い髪に、黒と白の魔女のような服に身を包み、頭には黒の三角帽子を被っていた。そして大きな瞳をパチクリとさせると、双葉の顔を凝視し始めた。
「な、何だよ・・・・」
「えへへ、実験は成功ですね。性転換の魔法、中々に面白いです」
少女の言葉を聞いて、双葉の顔色が変わった。筆舌に尽くし難い、怒りに満ちた鬼のような形相で、少女の胸倉を掴んだ。
「お前かぁぁぁ、俺をこんな風にしたのは」
双葉が少女に掴みかかると、まるで空気を掴むように、少女の姿が消えて、双葉の背後に出現した。
「い、いきなりびっくりするじゃないですかあああ」
「それは、こっちのセリフだ」
「でも、楽しんでたじゃないですか」
少女の言葉に、双葉は自分の胸を触って感じていた、己が醜態を思い出した。
「それは・・・・」
「大丈夫です。これは私の魔法の実験ですから、必ず元に戻します」
「本当か?」
「ええ」
少女の言葉に双葉も安心した。少女はそのまま窓の外に足を変えると、屋根の上から、「また来る」と言い残して、風とともに、何処かに消えてしまった。
「何だよ、あいつ」
取り残された双葉は、床に尻を付けて座り込むと、再び、自分の姿を鏡で観察してみた。
「別に、悪くはないよな」
自分の容姿を客観的に評価してみて、決して不細工ではない。それどころか、下手な女性にも負けない気さえしていた。
「ん・・・・」
無意識に胸元に手が伸びる。そして、再び小さな突起に触れてみた。
「んああ、気持ち良いよ。あん、これヤバ、絶対クセになるよぉ」
この後、家族に全てを打ち明ける羽目になり、女性生徒として学校に通わされたりと、彼の日常は、数奇な非日常へと変貌していくことになるのだが、それはまた別の話・・・・。