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双葉、なろう作家と絡む

「ふふふふ・・・・」

 真っ暗な部屋で、一人の若い男性がカップ麺を片手に、青く発光する電子画面の前に座り、怪しく笑っていた。そしてカチカチと何回かクリックし、真っ白な画面の真ん中で己を主張する文字を読んだ。

「作品を投稿しますか。もちろんだ」

 城所斗真、小説家志望の大学3年生である。彼は今日も、オンライン小説投稿サイト、その名も小説家になろうで活動していた。新作の投稿が終わり、一息ついた時、突然、ピンポーンと、インターホンが鳴った。

「ふん、ようやく来たか。しかも2分遅れか」

 斗真は不機嫌そうに立ち上がると、鏡の前で軽く髪をクシで解かした。彼は非常に端正な容姿の持ち主であり、黙っていれば、多くの女性が彼を放ってはおかないだろう。ワックスで塗り固められた髪は、ゴキブリのような光沢を放っていたが、それを差し引いても、若さと容姿の端麗さのおかげで、ちっともダサいという印象を相手に与えることはなかった。


 ピンポーン、再びインターホンが鳴った。斗真は鏡から離れると、小走りで玄関に向かった。

「くそめ、鳴らす頻度が速いんだよ。そのぐらい察しろ」

 斗真は一人で憎まれ口を叩きながら、玄関の隙間から来訪者の顔を見た。そこには制服姿の女子中学生が立っていた。髪はオレンジ色で、肩まで伸びているセミロング。瞳は大きく二重で、絵に描いたような可憐な美少女だった。

「予想以上の奴が来たな。白く細い腕に、シュッと引き締まった体、そして何より、適度に膨らんだ胸も良い。あまりにデカいのは読者が引くからな。おっと、早く出てやらんと」

 斗真はドアを開けた。そして憎まれ口は何処へやら、上辺だけの笑顔を少女に向けた。

「どうぞ、良く来たね」

「あい、お邪魔しまーす」

 見た目に似合わぬぶっきらぼうな口調で、少女はズカズカと、彼の暮らしているマンションの一室へと入った。それを後ろから見ていた斗真は、小さく舌打ちをした。


「イメージと違うな。図々しい女だ。第一、少しぐらい警戒しろよ」

 斗真は玄関のドアを閉めると、少女を適当な座布団に座らせて、自分はパソコンの前の、ローラー付きの回転する椅子に腰かけた。

「で、君が結城双葉さんかな?」

「ああ、もう面倒くさいからさ。さっさと終わらせようよ」

「ふん、こっちもそのつもりさ。早速着替えてくれ。僕は席を外すから」

 斗真が立ち上がろうとすると、双葉も同時に立ち上がった。

「一つ確認だけどさ。本当にコスプレして写真撮らせたら、お金くれるの?」

「ああ、もちろんだ。約束だからな。3万円やるよ」

「うわ、太っ腹」

「小説の資料にしたいんだ。僕はヒロインを書くのが苦手でね。おかげでお気に入り数はおろか、PV数が一桁なんだよ。最も、ファンタジーも転生モノも苦手な僕は、このサイトでは底辺作家として、誰にも相手にされないがね」


「はい、しつもーん」

 双葉は小学生が授業中に手を上げるような動作で、瞳をキラキラと輝かせていた。

「あなたは、作家先生なんですか?」

「あ、まあな」

「へ、へええ、あの、もしよろしかったら、俺、いや私にサインください。実は生まれてから一度も有名人に会ったことなくて」

 双葉は恥ずかしそうに言った。それを見て、斗真の顔が少し明るくなった。

(何だこいつ、可愛いじゃないか。容姿も悪くないし、ひょっとすると、ヒロインとしてモデルにするには、十分すぎるんじゃないか。)

 かくして、二人の奇妙な一日が始まった。

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