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双葉、人を連れ込むッ!

「呪文・ガーディアンズオーラ」

 ミリーの指先から光の矢が放たれた。そして怪物化した勤の胸を貫通し、虚空へと消えていった。

「ぐああああ」

 勤はそのまま仰向けに倒れて動かなくなった。彼は死んだのだろうか。双葉は信じられないという顔つきで、ミリーを見た。

「おい、まさか、殺したのか・・・・?」

 ミリーは双葉の方を向くと、ニコッと微笑んだ。

「殺してませんよーだ。ほら、見て下さい」

 勤の体から黒い煙が立ち込めていた。そしてそれらは、いつの間にか形を成して、一人の少女に変化していた。


「く、ミリー・・・・」

 現れたのは、銀色の髪の幼い少女だった。眼はルビーのように赤く美しかったが、その表情は怒りに満ち溢れていた。

「あいつは?」

 双葉はミリーに支えられて立ち上がると、目の前にいる外国人のような風貌の少女を訝しい目で見ていた。

「ふん、私の名はゼニス。せっかく、このガキを手駒にして、お前達を始末しようと思ったのに。大失敗だ。もう良い。帰る」

 ゼニスは黒い煙を纏うと、そのまま消えてしまった。

「あれが私の敵です。彼女を連れ帰ることが私の目的」

「でも、あいつ逃げたぞ」

「ええ、しかし必ず捕まえてやります」

 双葉とミリーは、倒れている勤を双葉の家、つまり結城家へ連れ帰ると、双葉の部屋のベッドに彼を寝かせた。


「ところでミリー。お前達は本当に何者なんだ?」

 双葉は茶の間に会った煎餅をかじりながら、茶を啜っていた。

「私達は、宇宙から来ました。さっきも話しましたが統制者と呼ばれています。この統制者は、かつては皆、高名な魔法使いでした。長い研究の末に、神の領域にまで達し、いわゆる不老不死になった魔法使いたちを統制者と呼びます。私達は絶大なる魔力により、宇宙を自由に移動できる。そして好きな星に行き、文化を伝えたり、壊したり、とにかく好き放題しています。最も、私達だけが、宇宙にいるわけではりません。他にも、「機関」と呼ばれる宇宙のバランスを守るための組織や、星の神々と呼ばれる、強大な存在が宇宙には生息しているのです。あなた達は、それらを知らずに生きて来れて幸せだと思います。だって、宇宙には、あなた方が何百年、何千年と努力を重ねても、絶対に到達できない領域にいる我々と関わらずにいられるのですから」


 双葉はしばらく黙って話を聞いていたが、何か思うところがあったのか、先生と生徒のように手を上げた。

「じゃあ、質問。幸せと言ったが、お前達は、既に俺らの星に来ているじゃないか。それって知っちゃったことにはならないの?」

「我々の存在を知る者は、あなたや、そこの彼ぐらいのものでしょう。人類が我々の存在を深く認知することはありません。そんなことになるのであれば、星の神々が、とっくにこの星を消しているでしょうから」

「後さ、どうして俺に、妙な魔法を掛けたんだ。おかげで家でも大変だったじゃないか」

「あれはですね。ゼニスとあなたを間違えたんですよ。恥ずかしくて実験と言いましたが、小柄だったんで、ついね・・・・」

「こいつ・・・・」

 双葉は立ち上がって、ミリーの頭にげんこつを落とそうとしたその時だった。ベッドの上で眠っている勤が意識を取り戻した。


「ん、ここは・・・・?」

「ようやく起きたか。ここは俺の部屋だよ」

「え、君の?」

 勤は起き上がると、ベッドを見て、顔を赤くした。

「ぼ、僕は君の使っているベッドで寝ていたのかい?」

「ああ、まあな。別に汚くないよ」

 双葉は嫌がられたと思ったのか、頬を小さく膨らませながらぶっきらぼうに答えた。すると、勤の瞳がキラキラと輝いた。

「そうか、ここで君はいつも、あんなことやこんなことをしているわけだ」

「あんなことや、こんなこと?」

 身に覚えのない双葉は、何度も首を傾げていた。すると、勤が突然、双葉の手を引いて、彼女をベッドに押し倒した。


「な、何しやがる」

「言うな。分かっているよ。君は意外に大胆だな。自分の部屋に僕を連れ込むなんて。はっきり言ったあげよう。僕に抱かれたいんだろ?」

 勤は言いながら、双葉の耳に息を吹きかけた。同時に、双葉の体に悪寒が走る。

「気持ち悪いんだよ。この・・・・」

 双葉は勤の胸倉を掴むと、そのまま壁に叩きつけた。


 その夜、一人の男子生徒がビルの屋上にいた。その傍らにはゼニスがいた。

「どうだい。あたいがあんたの願いを叶えてやるよ」

「ああ?」

 男はパンチパーマの、所詮不良だった。彼はペチャンコの鞄を右手に持って、やたらと目付きの悪い顔で、ゼニスを睨み付けていた。

「俺の願いは金だ。金が欲しいんだよ」

「ふふ、その願いをあたいが叶えてやるよ」

 ゼニスは男の眼前に手の平を向けると、黒い煙を男の顔に吹きかけた。

(見てろよミリー。今度はこいつを使って、お前をぶっ倒すからね)



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