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双葉、惚れられるッ!

 復讐とは何て甘美なる言葉なのだろう。双葉は自分に嫌がらせをした女子生徒を、授業中ずっと睨んでいた。

 4時間目が終わり、昼食の時間になった。双葉は待っていたとばかりに、弁当を取り出すと、早速、フタを取って、割り箸を二つに割って食べようとした。しかし、弁当の中身を見た途端に、彼女は箸を机に置いた。それを見た、女性生徒の何人かが、双葉を見て暗い笑みを浮かべていた。何と、双葉の弁当は、ご飯やおかずが、子供の泥遊びの後のように、グチャグチャにかき混ぜられていたのだ。犯人は分かっているし、いつやったのかも大体見当がついた。恐らく、先程、双葉がトイレに行くために席を外した時だろう。


「俺が、小便の仕方に手間取っている間に・・・・」

 双葉は震えていた。恐怖や悲しみからではない。そこにあるのはただの怒りである。そんな彼女を見兼ねたかのように、派手な金髪の髪の毛を掻き上げながら、西園寺勤が彼女の机の前に現れた。

「何だよ。俺を笑いに来たのか?」

 やさぐれている双葉の隣に椅子を持ってきた勤は、そこに腰掛けた。

「君は、僕のことをどう思う?」

 勤は爽やかオーラ全開で、フフフッと笑っていた。

「別に・・・・」

 西園寺勤を、双葉は、まだ自分が男性であった頃から認めていない。掃除当番を他の男子にやらせて、自分は女子と仲良く喋っている。そんな彼を双葉は大嫌いだった。


「おかしいな。僕ほどの美少年を見ても、何も起きないなんて。まさか君って、同性の人しか愛せないとか?」

「はん、自分がどんな女にもモテるとか思うなよな。俺の好みじゃないんだよ」

「ふーん」

 勤はどうでも良さそうに空返事をすると、双葉の前で、自身の弁当箱を開けた。見た目はまるで正月のおせち料理である。何層にも分かれた弁当箱に、伊勢海老やら、キャビアやら、その他、名前も知らないような高級素材が並んでいた。

「食べる?」

「いらね」

 そう言いつつも、双葉の眼はしっかりと食材を追っていた。


「何よ、あの娘」

 勤の取り巻きである女子達は、双葉のことを相変わらず嫉んでいた。勤と一緒にいるのも許せないが、彼女達が最も、不愉快に思っていたのは、双葉が勤のことをあしらうことだった。自分達の憧れの人を、適当にされると、自分達まで低俗な人間に思われているような気がして、腹が立つのである。


「ねえ、一口ぐらい食べてみれば?」

「一口?」

 勤は箸で、キャビアを少し取ると、双葉の口に持って行った。

「ほら、あ~ん」

「馬鹿、止めろよ。恥ずかしいだろ」

「良いじゃん。クラスメイトなら普通だろ?」

「そ、そっか。それなら」

 パクッと、勤の箸から直接キャビアを口に入れた。

「うわ、しょっぱ」

「あははは、これが良いんじゃないか」

「そうなの?」

「うん、ああ、そうだ。今、君さ、僕の箸に口を付けたよね。これって関節キスって言うんだよ。知らなかったかい?」

 勤はからかうように言うと、急に上半身を折り込んで、双葉の机に両手を突いた。そしてそのまま、丁度、鼻先が付くぐらいの距離で双葉をじっと見た。


「顔近いって・・・・」

「関節じゃないのをしてみようか」

 勤が眼を閉じて、双葉に顔を近付けた瞬間だった。双葉の拳が勤の顔のど真ん中に炸裂し、彼は椅子から転げ落ちた。同時に、双葉は立ち上がると、上から勤のことを散々に貶して、教室から出て行ってしまった。

「くそ、この気持ち悪いんだよ。お前なんか興味ないって言っただろうが」

 双葉はそのまま、屋上に上って行った。勤は倒れた椅子を元に戻すと、そのままそこに腰掛けた。

「フフ、結城双葉。僕の嫌いな男子の名前だ。しかし、どうしてだか、そいつと同じ名前だと言うのに、君の名前は特別美しく聞こえる。西園寺双葉。フフフ、似合っているじゃないか。こっちの方が。フフフ」

 勤は一人でブツブツと呟きながら、ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべていた。そんな彼を見て、周りの女子は、「考え事をしている西園寺君も素敵」などと言うのである。

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