夕暮れの空の下、私は
秋の空は綺麗だけど、どこまでも高く突き抜けた空は、どこか己の矮小さを思い知らせてくるように思える。
「…はぁ」
誰もいない橋の上、欄干に寄りかかって吐いた溜息も、高い空に溶け込んで消えていくよう。
「何やってるんだろ、私」
いくら幼馴染とはいえ、私は随分ひどいことを言った。きっと、彼を傷つけてしまった。
慰められたことに悔しくなって、口をついて出てしまった言葉。
“あんたに、私の何が分かるの?”なんて。
“分かりもしないのに、知ったような口を利かないで”なんて。
なんて…なんてわがままで、理不尽な言葉だろう!
そして彼に言われた言葉。“勝手にそう思ってればいいだろ”って。
言われて私は逃げ出した。その間際に、彼の、辛そうな瞳を見た。
謝らなくちゃ。そう思いながら家に帰り、母に頼まれた買い物を済ませて、今に至る。
抱えた紙の袋をそっと抱きしめて、また一つ溜息をついた。
俯くと、長い髪が顔を隠す。そう、もっと隠して!
泣き顔なんて、道行く顔も名も知らない人にだって見られたくないから。
このままいっそ、この高く澄んだ空に融けて消えてしまいたい―
そう、更に顔を深く俯けた時だった。
「…あっ」
紙袋から零れ落ちた、一つのりんご。舗道で軽く弾んで、転がっていく。
泣いていることも忘れて袋を置き手を伸ばすけれど、届くことなくりんごは橋の下、幼いころ彼とよく遊んだ、細かな砂の敷かれた河川敷へと落ちた。
大変、拾わなくちゃ。
袋の持ち手をつかんで階段を駆け下りて、そこには。
彼がいた。
いつの間にかすっかり夕暮れの色に染まった空と、空を映してオレンジ色に輝く川を背に、りんごを手にした彼が立っていた。
目を丸くして、長身を包む長いコートを風に揺らして。
こちらを向いた彼の表情は陰になってよく見えなかったけど、声に優しい笑みを含ませて彼は言った。
「これ、お前の?」
「う、うん。そうなの。落としちゃって」
ぎこちない返事を返して、袋を置いて駆け寄る。
「はい」
「ありがとう」
「さっきはごめんね」「さっきはごめんな」
二人そろって目を丸くして、顔を見合わせてくしゃくしゃに笑った。
なんだ、私たちは結局、同じ事考えて、同じように悩んでたんじゃないか。
きっと今だって、私たちは同じものを見てる。
彼の頬には、夕暮れの光を受けてオレンジ色に光る筋が一つ。