恋人
最近寝ても寝ても眠気が抜けません。
私は外に出た。
まさかとはおもったがドアをすり抜けられた。
私はもう死んでいる。
それを実感させられざる得ない人間界。
気が滅入ってしまいそうだ。
外に出るとジリジリと日差しの強い太陽が顔を出していた。
通勤や通学の人であふれている駅。
子ども達がはしゃぐ公園。
カップルに人気な海岸。
「何も、変わってないんだね」
あたりまえか、と一人つぶやく。
私は16年間生きてきた町並みを少し見て回ることにした。
死んでから見る風景は胸の内が熱くなるような感情で埋もれる。
幼稚園、小学校、中学校、高校。
高校は県内公立で1ヶ月あまりしか通えなかったがそれ以外、ずっと同じ街で過ごしてきた。
一番思いでがあるのはやはり中学生の時で。
部活に勉強、友達もたくさんいた。
そして、恋もした。
私には付き合っている彼氏がいる。
その彼に、私は会いに来たのだ。
「歩・・・」
あゆむ。今日まで生きていたら付き合って3年と1ヶ月目。
歩が大好き。
歩と一緒にいるときが一番幸せだった。
「ごめんね・・・」
きっと歩にも私の姿は見えないだろうな。
なんで死んじゃったんだろう。
なんで私なんだろう。
神様は意地悪だ。
もう終わったことをどうこう言っても何かが変わる訳じゃない。
私は深いため息をつき、彼の家へと向かった。
「どうしよう・・・」
家の前まで来てみたはいいものの・・・
どうやって入ろう。
とりあえず、チャイムでも鳴らすか・・・
あ、私触れないんだった。
でも、壁すり抜けて家の中に入るなんてプライバシーの侵害が・・・
「ハヤトぉ・・・」
『はい』
「助けて」
『これはご自分で解決できるでしょう・・・』
「無理だもんっ!」
『じゃあ、壁すり抜けて中入れ。』
「なっ・・・」
『それでは、また』
プツンッ
クソっ。逃げられた。
しかもなんか偉そうだ。
「はぁ~。まぁ、仕方ないか・・・」
私はおそるおそる玄関のドアに近づいた。
そして、手を伸ばし徐々に全身を家の中へと潜り込ませた。
玄関に入ってすぐふわっとした歩の匂いがした。
その匂いは直ぐさま会いたい彼への思いをかき立てた。