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第一話 日常
「もう、いーだろ、帰ってくれ」
けだるそうに、吐き捨てた。バカな奴がやってきたのだ。両親のいないサイは村で唯一、一人で暮らしていて、学舎にも通っていない。本人はそれでいいと思っていたが、優等生のドンは耐えられないらしかった。
「だからー、今からでも遅くないんだ、僕だってもちろん字を教えてあげられるし、何より友達も増えるだろうし」
ドンは顔の筋肉をプルプルふるえさせ、真剣にサイに向き合っている。メリーア国には、四つの村と六つの都市がある。東南に位置するゾリナーカ村にドン、サイは住んでいる。サイの
金髪に光があたり、眩しかったのか、ドンは目を細める。サイは大きく首をふった。
「言いたいことは、分かるよ。けれど、俺はこのままで満足なんだ。狩りだって上手くなったし、畑だって収穫も増えた。これ以上何を望む?字が読めたからって俺の生活は変わらない」
ドンは家の事情を知っているだけに、強く言い返すことはなかった。ただ、またくると言い残し、帰っていった。