物を基準とする能力で無双しようと思ったら、これラブコメの世界だったわ
オレはバトル漫画が好きだ。
争いが好きなわけではないが、バトル漫画だと最強クラスの能力を持っている。
まあ、ラブコメでも最強の能力でもあるが、ハーレム向けだしな。
だからオレは、ラブコメではなく、バトル漫画が好きだ。
「ふぅ、なんとか逃げ切ったか……」
「よっ! 変成!」
「おっ、親友!」
「天親友樹な? てか、親友って略すのお前だけだぞ?」
「悪い悪い。今日はMy石を忘れちゃってさ……」
「そうか、それは災難だったな」
そう言うと、友樹は辺りを見渡し、適当な石を持ってきてくれる。
「ほらよ、石だ」
「ありがとう。……ふっ!」
「おっ、『凝視』か!」
……八、九、十!
「よし、これでリセットされたはずだ」
「たしか、眺めた物の好感度をコピーするんだったか? 能力者は大変だな」
「ああ。正確には、『十秒以上凝視した物体の好感度』のコピーな?」
「はいはい。ほら、はやく行こうぜ!」
「……おう」
オレ、許斐変成は能力者だ。
能力は好感度の操作。
「バトル漫画だったら最強なのにな……」
「それいつも言ってるよな」
そりゃあそうだろ。
もし自分に特殊能力が目覚めてみろ。
フィクションと比べるのは必然だろうが。
なんて考えつつ、教室に入るオレ。
だが、誰もオレに対して関心を持たなかったので、オレは安堵する。
「よかった、大丈夫そうだ」
「そうか、それじゃあな。ボクは別クラスだから」
「おう」
友樹はいいやつだ。
オレの『好感度操作』の対象外だからな。
いつか、そんな女子が現れてくれればいいけど、それは無理だろうな。
それに、能力は人前では極力控えるって、あのとき決めたんだ。
そうして席に着くと、クラスメイトに話しかけられる。
「許斐くん」
「な、なんですか? えーと……」
名前、なんつったっけな……?
黒髪ロングだし、委員長をしてたはずだから……
とりあえず適当でいいか……。
「い、委員長! なんですか、委員長?」
「あなたもしかして……ワタシの名前忘れているでしょう?」
「す、すんません……」
「速応千速よ」
「はいはい、速応さんね。で、なんか用でも?」
「放課後お話があります。いいわよね?」
「は、はぁ……」
なんだろう? いまのオレの好感度は石と同じだぞ?
……ま、告白ではないな。それだけは断言できる。
いかにも真面目そうだし。
それからも、スマホを凝視しすぎたり、色々事故が多発したものの、オレは放課後を迎えた。
「はぁ……今日も災難だったな」
「許斐くん、さっき言ってたことだけど……」
「あ、忘れてた! でも大丈夫。人との約束は守るから!」
「そう……」
そういや、速応さんは反応が変わらなかったような……?
そんなふうに考えごとをしていると、いつの間にか教室で速応さんと二人っきりになる。
「あの、呼び出した用件なんだけど、とある告白をしたかったの」
「え? ちょ、ちょっとタンマ! 十秒待って!」
そう言って、黒板消しを凝視するオレ。
もしかして石マニアだったとかか……?
まあいい、これで変わったはずだ……!
「お待たせー。それで、続けて?」
「うん、それでね? じつはワタシ、能力者なの」
「あ、告白ってそっちね」
「なんだと思ったの? いや、間違ってはいないけど」
「……えっ?」
おかしいな? 中学のときに能力者のクラスメイトは何人かいたけど、全員オレの能力が効いてたし……。
「話、続けるわよ?」
「あ、うん……」
「それで、『十秒以上想像していた物の速度をコピーする能力』なんだけど、キミもそうなんでしょ?」
「え? あ、ああ。オレは『十秒以上凝視していた物体の好感度をコピーする能力』。でも、なんで速応さんには効かないんだ?」
そこが疑問なんだよなぁ。
すると、速応さんは語り始める。
「じつはもう一つ告白したくて……ワタシ、惚れ症なの」
「惚れ症……? あの、惚れやすい性格的なやつ?」
「そう。ワタシの能力はイメージするから、回避するために人のことを考えるクセがあって……」
「あぁ、やっぱり生物は対象外なんだ」
まあ、そこはいま重要ではないけど。
「……うん。でも、許斐くん。キミだけは例外で、普通は考えていてもフッと忘れるんだけど、キミのことが頭から離れないの」
それはたぶん、オレの好感度を変える能力のせいかもな……。
好感度が度々変わるから評価が安定しないとか、そんな感じだろう。
「そ、それでオレにどうしろと?」
「つ、付き合ってください……!」
「う――――ん……」
どうしよう。
物体マニアの可能性は薄いが、無くはないよな?
それか、オレの好感度操作の代償かもしれん。
……断ろう。
勘違いで好きになっているかもしれない。
それにもし本当に好きだとして、誰がどうやって確認できるんだ?
「速応さんにはいい人がいるよ。ほら、オレと一緒だと目立つしさ。だから、さよなら!」
そう言って、オレは速応さんをフッてやった。
それから、隣のクラスで友樹を拾って下校する。
「どうかしたか変成? 少し浮かない顔してるな!」
「あ、ああ……。ちょっとな……」
「その感じ、告白か……? 相変わらず優しいな!」
「友樹にはお見通しか……。じつは、告白してきた女の子が……」
そのことを話そうとすると背後から気配がしたので、振り返ると……
「……許斐くん、お話しない?」
速応さんが高速で走ってきた。
なので、急ぎ足になるオレたち。だけど、それでも速応さんを引き離せない。
どんだけ速いんだ……?
「うおっ!? すげぇぞ変成! この子、全力疾走のボクたちと早歩きで並走してるぞ!」
「あの……オレ、キミのことフッたよね? つーか足速いな!」
「自転車をイメージしたから……っていうか、あれってフラれてたんだ? また明日って意味かと思ってた」
「すっげぇポジティブ!?」
「いや、よくズレてるとは言えるんだけど……それより、一緒に帰らない?」
「いや、もうすでに一緒に下校してるよね!?」
「あ、ホントだ」
それより、好感度を変えなければ……!
オレは立ち止まり、電信柱を見続ける。
「六、七、八、九……よし」
「おっ、発動したみたいだな。ボクには効かないけど」
「……あのー、ワタシにも効いてないみたい。ずっと許斐くんを好きなままだよ?」
もしかして、速応さんも友樹と同じタイプなのか?
「おい、やったな変成! これで彼女が……」
「いや、オレは……」
でも、もうあのときと同じことを起こさないためにも、
「悪い、先帰るわ。速応さんもまたな」
とまあ、こうやってやんわりと避けることしかできなかった。
それから毎日、速応さんがオレの視界にチラチラと映り込むことになる。
好感度が変わろうと変わらなかろうとお構いなしだ。
それでも、オレは速応さんを避けた。
……理由は、小学生の頃のトラウマから来ている。
それから数日後、速応さんの方から直接理由を訊かれることになる。
それは奇しくも告白されたときのように、二人っきりで放課後の教室だった。
「あのさ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない? ワタシを避ける理由」
「じつは、小学六年生の頃……」
◆◆◆
あの頃のオレはバカだった。
「もしこの紙幣と同じ好感度になったら、どうなるかな!?」
そう思ってからは早かった。
家で一万円札を凝視した後に、公園のベンチに座ってみたのだ。
すると……
「ボク? おじさんと一緒に来てくれよ」
「いや、私と来てもらおう」
「この子はあたしのものよ!」
とまあ、だんだん奪い合いになったんだ。
それだけならまだしも、殴り合いにまで発展する事態になる。
そして、オレは人が多すぎるせいで、家に帰ろうとしても帰れず、冷たいベンチの上でじっとしていることしかできなかった。
それでも、検証のために好感度は変えなかったがな。
だが、それが裏目に出てしまう。
結果だけ言えば、オレが公園に来て三時間が経過した時点で、大人や少年少女含め、軽傷者が三十六名、重症者は十四名の大事件になっていた。
死んだ人がいなくてよかったが、オレは自分の能力がこんなにこわいとは思わなかった。
……だから、オレは人に好かれることがこわくなったんだ。
◆◆◆
「……それ以来、オレの能力は使わないことにしたんだ」
「そっか。何も知らないのに、追いかけてごめんね」
「速応さんは、そういうのないの?」
「……あるけど? でも、そこまで重い過去ではないから」
「そっか……」
まあ、どんな過去だろうと、オレの好感度は変わらないだろう。
「速応さんはさ、なんでそんなオレに必死なの? 別に、惚れ症なんだし、別の人でもいいんじゃない?」
「いやいや、そんなこと関係ないよ! えっと、そうだな……。キミのことが好きだから……かな? やっても飽きないゲームとか、何回も読んじゃう漫画あるでしょ?」
「あ、ああ。あるけど……?」
「ワタシにとって、キミはそれと一緒なの。どんなに価値がない物と扱われても、ワタシが価値を見出してあげるから!」
「そっ……か」
そうか、この子は……速応さんは、『ありのままのオレ』を見てくれてた人だったのか。
そう考えると、オレの能力が効かないのもうなずける。
そう思った瞬間、なんだか世界が揺れた気がした。
「気が付かなかった。速応さん、逃げててごめんね」
「えーと……何が?」
そして、気持ちから逃げててごめんなさい。
「もう逃げない、向き合う!」
「うん? よくわからないけど、ありがとね。許斐くん」
「それじゃあ早速言うけど……」
オレは胸が高まる。
こんな感情は初めてかもしれない。
オレと向き合ってくれた、初めての女の子なんだ……!
あ、女の子か……
なら、オレの言うべきセリフは……!
「お、オレと……オレと友達になってください!」
「えっ……?」
「いや、オレは友達が少ないから、速応さんにも友達から始めてほしいなってね。大体、お互いの好みも知らないのに付き合うのも違うと思うし……」
「……そっか! なら、千速って呼んで?」
「あ、うん。よろしく、千速……さん」
「うん。必ずキミを好きにさせてみせるからね! 変成くん!」
「やれるものならやってみなよ? 千速さん?」
「えへへ、なんかいいね? こういうの!」
「だな。ラブコメ世界も悪くない、か……」
「えっ? なんの話?」
「こっちの話! それより、友樹になんて言う?」
「そうだな、『ワタシ、変成くんと友達になっちゃった!』……とか?」
「ははっ……じゃあ、それにしよっかな」
そして、この翌日からは千速さんがオレを抱えて逃げたり、千速さんを友樹に紹介したり、いろんな出来事が待ち受けているのだが、それはまた別の話だ。
「でも、ラブコメ世界も大変だなぁ……」
千速さんと関わっていると、オレはつい、そう思ってしまうのだった。
読了ありがとうございます。
「物体を対象とする能力者」をベースに、ラブコメに落とし込みました。
この二人の話はまだ広げられるので、反応があれば続きを書くかもしれません。




