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物を基準とする能力で無双しようと思ったら、これラブコメの世界だったわ

作者: 私信
掲載日:2026/05/02

 オレはバトル漫画が好きだ。

 争いが好きなわけではないが、バトル漫画だと最強クラスの能力を持っている。

 まあ、ラブコメでも最強の能力でもあるが、ハーレム向けだしな。

 

 だからオレは、ラブコメではなく、バトル漫画が好きだ。


「ふぅ、なんとか逃げ切ったか……」

「よっ! 変成へんせい!」

「おっ、親友!」

天親あまちか友樹ともきな? てか、親友って略すのお前だけだぞ?」

「悪い悪い。今日はMy石マイストーンを忘れちゃってさ……」

「そうか、それは災難だったな」


 そう言うと、友樹は辺りを見渡し、適当な石を持ってきてくれる。


「ほらよ、石だ」

「ありがとう。……ふっ!」

「おっ、『凝視』か!」


 ……八、九、十!


「よし、これでリセットされたはずだ」

「たしか、眺めた物の好感度をコピーするんだったか? 能力者は大変だな」

「ああ。正確には、『十秒以上凝視した物体の好感度』のコピーな?」

「はいはい。ほら、はやく行こうぜ!」

「……おう」


 オレ、許斐このみ変成へんせいは能力者だ。

 能力は好感度の操作。


「バトル漫画だったら最強なのにな……」

「それいつも言ってるよな」


 そりゃあそうだろ。

 もし自分に特殊能力が目覚めてみろ。

 フィクションと比べるのは必然だろうが。


 なんて考えつつ、教室に入るオレ。

 

 だが、誰もオレに対して関心を持たなかったので、オレは安堵する。


「よかった、大丈夫そうだ」

「そうか、それじゃあな。ボクは別クラスだから」

「おう」


 友樹はいいやつだ。

 オレの『好感度操作』の対象外だからな。

 いつか、そんな女子が現れてくれればいいけど、それは無理だろうな。


 それに、能力は人前では極力控えるって、あのとき決めたんだ。

 そうして席に着くと、クラスメイトに話しかけられる。


「許斐くん」

「な、なんですか? えーと……」


 名前、なんつったっけな……?

 黒髪ロングだし、委員長をしてたはずだから……

 とりあえず適当でいいか……。


「い、委員長! なんですか、委員長?」

「あなたもしかして……ワタシの名前忘れているでしょう?」

「す、すんません……」

速応そくおう千速ちはやよ」

「はいはい、速応さんね。で、なんか用でも?」

「放課後お話があります。いいわよね?」

「は、はぁ……」


 なんだろう? いまのオレの好感度は石と同じだぞ?

 ……ま、告白ではないな。それだけは断言できる。

 いかにも真面目そうだし。



 それからも、スマホを凝視しすぎたり、色々事故が多発したものの、オレは放課後を迎えた。


「はぁ……今日も災難だったな」

「許斐くん、さっき言ってたことだけど……」

「あ、忘れてた! でも大丈夫。人との約束は守るから!」

「そう……」


 そういや、速応さんは反応が変わらなかったような……?

 

 そんなふうに考えごとをしていると、いつの間にか教室で速応さんと二人っきりになる。


「あの、呼び出した用件なんだけど、とある告白をしたかったの」

「え? ちょ、ちょっとタンマ! 十秒待って!」


 そう言って、黒板消しを凝視するオレ。


 もしかして石マニアだったとかか……?

 まあいい、これで変わったはずだ……!


「お待たせー。それで、続けて?」

「うん、それでね? じつはワタシ、能力者なの」

「あ、告白ってそっちね」

「なんだと思ったの? いや、間違ってはいないけど」

「……えっ?」


 おかしいな? 中学のときに能力者のクラスメイトは何人かいたけど、全員オレの能力が効いてたし……。


「話、続けるわよ?」

「あ、うん……」

「それで、『十秒以上想像していた物の速度をコピーする能力』なんだけど、キミもそうなんでしょ?」

「え? あ、ああ。オレは『十秒以上凝視していた物体の好感度をコピーする能力』。でも、なんで速応さんには効かないんだ?」


 そこが疑問なんだよなぁ。

 すると、速応さんは語り始める。


「じつはもう一つ告白したくて……ワタシ、惚れ症なの」

「惚れ症……? あの、惚れやすい性格的なやつ?」

「そう。ワタシの能力はイメージするから、回避するために人のことを考えるクセがあって……」

「あぁ、やっぱり生物は対象外なんだ」


 まあ、そこはいま重要ではないけど。


「……うん。でも、許斐くん。キミだけは例外で、普通は考えていてもフッと忘れるんだけど、キミのことが頭から離れないの」


 それはたぶん、オレの好感度を変える能力のせいかもな……。

 好感度が度々変わるから評価が安定しないとか、そんな感じだろう。

 

「そ、それでオレにどうしろと?」

「つ、付き合ってください……!」

「う――――ん……」


 どうしよう。

 物体マニアの可能性は薄いが、無くはないよな?

 それか、オレの好感度操作の代償かもしれん。


 ……断ろう。


 勘違いで好きになっているかもしれない。

 それにもし本当に好きだとして、誰がどうやって確認できるんだ?


「速応さんにはいい人がいるよ。ほら、オレと一緒だと目立つしさ。だから、さよなら!」


 そう言って、オレは速応さんをフッてやった。

 それから、隣のクラスで友樹を拾って下校する。


「どうかしたか変成? 少し浮かない顔してるな!」

「あ、ああ……。ちょっとな……」

「その感じ、告白か……? 相変わらず優しいな!」

「友樹にはお見通しか……。じつは、告白してきた女の子が……」


 そのことを話そうとすると背後から気配がしたので、振り返ると……


「……許斐くん、お話しない?」


 速応さんが高速で走ってきた。

 なので、急ぎ足になるオレたち。だけど、それでも速応さんを引き離せない。

 どんだけ速いんだ……?


「うおっ!? すげぇぞ変成! この子、全力疾走のボクたちと早歩きで並走してるぞ!」

「あの……オレ、キミのことフッたよね? つーか足速いな!」

「自転車をイメージしたから……っていうか、あれってフラれてたんだ? また明日って意味かと思ってた」

「すっげぇポジティブ!?」

「いや、よくズレてるとは言えるんだけど……それより、一緒に帰らない?」

「いや、もうすでに一緒に下校してるよね!?」

「あ、ホントだ」


 それより、好感度を変えなければ……!

 オレは立ち止まり、電信柱を見続ける。


「六、七、八、九……よし」

「おっ、発動したみたいだな。ボクには効かないけど」

「……あのー、ワタシにも効いてないみたい。ずっと許斐くんを好きなままだよ?」


 もしかして、速応さんも友樹と同じタイプなのか?


「おい、やったな変成! これで彼女が……」

「いや、オレは……」


 でも、もうあのときと同じことを起こさないためにも、


「悪い、先帰るわ。速応さんもまたな」


 とまあ、こうやってやんわりと避けることしかできなかった。



 それから毎日、速応さんがオレの視界にチラチラと映り込むことになる。

 好感度が変わろうと変わらなかろうとお構いなしだ。


 それでも、オレは速応さんを避けた。

 ……理由は、小学生の頃のトラウマから来ている。


 それから数日後、速応さんの方から直接理由を訊かれることになる。

 

 それは奇しくも告白されたときのように、二人っきりで放課後の教室だった。


「あのさ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない? ワタシを避ける理由」

「じつは、小学六年生の頃……」


   ◆◆◆


 あの頃のオレはバカだった。


「もしこの紙幣と同じ好感度になったら、どうなるかな!?」


 そう思ってからは早かった。

 家で一万円札を凝視した後に、公園のベンチに座ってみたのだ。

 すると……


「ボク? おじさんと一緒に来てくれよ」

「いや、私と来てもらおう」

「この子はあたしのものよ!」


 とまあ、だんだん奪い合いになったんだ。

 それだけならまだしも、殴り合いにまで発展する事態になる。


 そして、オレは人が多すぎるせいで、家に帰ろうとしても帰れず、冷たいベンチの上でじっとしていることしかできなかった。

 それでも、検証のために好感度は変えなかったがな。


 だが、それが裏目に出てしまう。


 結果だけ言えば、オレが公園に来て三時間が経過した時点で、大人や少年少女含め、軽傷者が三十六名、重症者は十四名の大事件になっていた。 

 死んだ人がいなくてよかったが、オレは自分の能力がこんなにこわいとは思わなかった。

 

 ……だから、オレは人に好かれることがこわくなったんだ。


   ◆◆◆


「……それ以来、オレの能力は使わないことにしたんだ」

「そっか。何も知らないのに、追いかけてごめんね」

「速応さんは、そういうのないの?」

「……あるけど? でも、そこまで重い過去ではないから」

「そっか……」


 まあ、どんな過去だろうと、オレの好感度は変わらないだろう。


「速応さんはさ、なんでそんなオレに必死なの? 別に、惚れ症なんだし、別の人でもいいんじゃない?」

「いやいや、そんなこと関係ないよ! えっと、そうだな……。キミのことが好きだから……かな? やっても飽きないゲームとか、何回も読んじゃう漫画あるでしょ?」

「あ、ああ。あるけど……?」

「ワタシにとって、キミはそれと一緒なの。どんなに価値がない物と扱われても、ワタシが価値を見出してあげるから!」

「そっ……か」


  

 そうか、この子は……速応さんは、『ありのままのオレ』を見てくれてた人だったのか。

 そう考えると、オレの能力が効かないのもうなずける。


 そう思った瞬間、なんだか世界が揺れた気がした。


「気が付かなかった。速応さん、逃げててごめんね」

「えーと……何が?」


 そして、気持ちから逃げててごめんなさい。


「もう逃げない、向き合う!」

「うん? よくわからないけど、ありがとね。許斐くん」

「それじゃあ早速言うけど……」


 オレは胸が高まる。

 こんな感情は初めてかもしれない。

 オレと向き合ってくれた、初めての女の子なんだ……!

 

 あ、女の子か……

 なら、オレの言うべきセリフは……!


「お、オレと……オレと友達になってください!」

「えっ……?」

「いや、オレは友達が少ないから、速応さんにも友達から始めてほしいなってね。大体、お互いの好みも知らないのに付き合うのも違うと思うし……」

「……そっか! なら、千速ちはやって呼んで?」

「あ、うん。よろしく、千速……さん」

「うん。必ずキミを好きにさせてみせるからね! 変成くん!」

「やれるものならやってみなよ? 千速さん?」

「えへへ、なんかいいね? こういうの!」

「だな。ラブコメ世界も悪くない、か……」

「えっ? なんの話?」

「こっちの話! それより、友樹になんて言う?」

「そうだな、『ワタシ、変成くんと友達になっちゃった!』……とか?」

「ははっ……じゃあ、それにしよっかな」


 そして、この翌日からは千速さんがオレを抱えて逃げたり、千速さんを友樹に紹介したり、いろんな出来事が待ち受けているのだが、それはまた別の話だ。


「でも、ラブコメ世界も大変だなぁ……」


 千速さんと関わっていると、オレはつい、そう思ってしまうのだった。

読了ありがとうございます。

「物体を対象とする能力者」をベースに、ラブコメに落とし込みました。

この二人の話はまだ広げられるので、反応があれば続きを書くかもしれません。

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