卒業パーティーに出なかったら?
「お嬢様、そろそろお出かけの準備を……」
そう言われ私ソフィア・グーラントは卒業記念パーティーに出席する為に着替えを始めた。
「殿下は迎えに来るかしら?」
私の問いにメイドは何も答えない、というかどう答えるべきか困っているみたいだ。
「意地悪な質問してごめんなさいね、でもね迎えに来ないと思うのよ」
「それは……」
「今までが今までだから、例え迎えに来たとしてもそれは義務であってそこには私に対する感情なんてこれっぽっちも無いわ、そして私も殿下に対する愛情はとっくに枯れてしまっているわ」
私と婚約者であるフレデリック・ミレアルバ王太子との関係は出会った時から破綻していた。
なんせ開口一番浴びせられたのが『こんなちんちくりんが婚約者なんて嫌だ!もっと可愛い子が良い!』という罵声だ。
まぁ、国王様にゲンコツを叩き込まれたのはいい気味だったけれども精一杯のおめかしをしてきた私の心はズタボロだ。
そんな最悪な印象をフレデリック様は覆そうとはしなかった。
月に一度の交流会は嫌々ながらも参加していたが次第にドタキャンするようになるし年に一回の私の誕生日にプレゼントは貰った事なんて一度もない。
私は私でなんとか歩み寄ろうとしたけど向こうが拒否してきたらこちらだってやる気なんてなくなる。
更にフレデリック様は貴族学院に入ってからはとある男爵令嬢にお熱の様で一緒にいる所を何人もの生徒達に目撃されている。
おかげで私は『仮面の婚約者』と裏で呼ばれ嘲笑われている始末。
両親には何度か婚約を解消したい、このまま結婚しても良い関係にはならないし幸せにはなれない、と進言した。
両親も流石にこのままではいけない、と思ったらしく国王様にお話ししたけど何故か断られてしまう。
王族は私の事なんてどうでも良いのか、と軽い嫌悪感が芽生えている。
そんな日々を過ごして今日だ。
刻々と時間は過ぎていくがフレデリック様が来る気配は全く無い。
「……そろそろ行かないとパーティーには間に合わないわよね?」
「え、えぇもうそんな時間ですね」
「迎えに来ないのであればパーティーに行かなくてもいいんじゃないかしら? だってパーティーには婚約者同伴であると決まっているんだから」
「しかし、成績優秀で表彰されるお嬢様が行かないのは……」
「今更1人で行っても笑い者にされるだけだしそもそもパーティーの出席は義務じゃないから行かなくてもなんにも問題は無いわ、それより本当に私の事をお祝いしてくれる人達と一緒にいる方が嬉しいわ」
「お嬢様……、そうですよね! 私も前々から殿下の態度は気に入りませんでした! 私達はお嬢様の味方です! すぐにコックに伝えてご馳走を用意いたしましょう!」
メイドはすぐに部屋を出て行った。
私もドレスは脱いで部屋着に着替えた。
暫くしたらメイドが迎えに来て私は食堂へと向かった。
そこには屋敷内で働いているメイドや執事、使用人達が集まっていた。
更に先に会場にいた両親までいた。
「あれ? 会場で待っていた筈では?」
「あぁ、あの王太子、例の男爵令嬢と一緒に会場に入って来てな頭に来て帰ってきた」
「婚約の白紙撤回を宣言して場合によっては訴える、と言っておいたから安心していいわよ」
「ありがとうございます、お父様お母様」
外でなんと言われても私にはこれだけの味方がいる、それだけで私は幸せだ。
その日、我が家は無礼講の大騒ぎとなった。
翌日から国王からの使者がやって来たけど我が家は無視を決め込んだ。
お父様は私と王太子の婚約の白紙撤回、その原因である王太子の処分を求めた。
「今まで蔑ろにされてきたんだ、もう卒業したし1人の大人としての対応を求めるのは当たり前だろ」
そんな事を爽やかな笑顔で言うお父様も相当腹に色々抱えていたのだろう。
王家からは話し合いの場を、と手紙が来たが『話し合いの時間は既に過ぎている、娘への正式な謝罪があるまでは我々は如何なる対話も拒否する』と宣言した。
そして卒業パーティーから1か月後、王家は白旗を出した。
フレデリック様の王太子の座を剥奪、王族からの永久追放を発表した。
そこで漸く私達は登城した。
待っていたのは国王様の土下座だった。
「ソフィア嬢には申し訳無かった、まさか幼い頃からの態度が現在まで続いているとは思っていなかったのだ、フレデリックからは『順調だ』と聞いていたから……」
「確かめようとは思わなかったのですか?」
「すまん、そのまま鵜呑みにしていた……、王妃もフレデリックを援護していたからな」
「そういえば王妃様は?」
「最後まで処分に反対してな、今部屋に軟禁している。……どうも怪しい感じがしてな、調査をするつもりだ」
「フレデリック様は何故私をあそこまで嫌いになったんでしょうか?」
「最初は反発心だったらしいが王妃が余計な事を言ったらしい」
「そういえば王妃は妻の事をライバル視していた事がありましたな」
「私も王太子妃候補の1人でしたからね、まさか今も続いているとは……」
え、その話初耳なんですけど。
後でお母様に聞いたら最終候補まで選ばれていたらしいけど王妃様が裏で色々動いたらしくて結局選ばれなかったらしい。
更にその後、フレデリック様は国王様の血を継いでいない事が発覚、どうやら王妃様が他所で作った子だったらしい。
国王様は激怒してフレデリック様と王妃様を処刑すると決断。
ギロチンの餌食になったのでした。
まさか、パーティーを欠席したらこんな事になるなんて思っていませんでした。
私はその後、別の誠実な方と結婚して子供も出来て幸せに暮らしています。