01 俺は何も知ろうとしない。
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スラムと言うには大袈裟でドヤ街と言うと物足りないような町の傍ら、経済的弱者と揶揄されるようなもの達ですら嬉々として近寄ろうとはしない一角にその女は物乞いに似た何かをしていた。
いや、至って普通の光景だ。例えると飯を食って糞をするくらい普通の光景だ。
この辺にはこういう吐き溜めのさらに下みたいな人生初めから詰んじゃいました! みたいな事を平然と横行しているような場所だ。
ただ……一つだけだ。
俺は気になることをその女から見つけた。
「桜の花……だ」
☆
物乞いというのは見た目からは想像のつかないほど難しいものとなっているのはご存知だろうか?
一度は試して見て欲しいのだが、人通りの多いところでコップを置いて恵んでくれと頼み込んだところで1時間で溜まる金額など……運がよく行ったとしても精々自販機で売っている水くらいだ。
(1万5800円……だと……)
その女の前に立ちステンレス製の器に入れられた日本札をまじまじと見ると思ったよりかなりの高額が入っていた。
「お兄さん……良かったら楽にならないかい?」
死んだ目? いや、何か……違う。
女の目はどうにも腑に落ちない。
目はトロンと落ちているのにどこか満足しているように見える。まるで、わたしは救われているとでも言いたげな目だ。
「楽……とはなんだ」
「あぁ、お兄さんははじめてかい? 腰とか肩とか痛まないかい?って聞いてるのさ」
みょうな感覚だ。
これではまるで問診をされているようだ。
いや、問診と言うには……あぁ……いや
そんなことはいいんだ。
わたしは、恥ずかしながら勘違いしていたのかもしれない。体を売り生計を立てているのかと思ったが、まさか……ははっ肩もみで稼いでいたのかと思うと少しだけ頬が緩んだ気がする。
「それで、どうなんだい?楽になるかい?」
「あぁ……一度頼む」
そういい、女は俺の手に触れた。
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