93話 炒飯
お料理回がやりたいのです
さて、今回は俺が密かに練習していた料理を披露しようと思う。
「……え、彩斗くん料理できるの?」
「うん、この前食べさせてもらった時は普通に美味しかったよ」
まぁ、前回はそこまで練習もしていないし、しょうがないとは思う。
しかし、今回の俺は違う!
俺は日々廃棄飯ばかりを食べている。
だが、こればかりではやはり飽きが来るのである。
そこで俺がよくやるのが……味チェンだ!
廃棄でよく出るのはやはりおにぎりである。
このおにぎり、味はまぁまぁ美味しいが、それでも毎日食べていて飽きないか? と言われてしまえばまぁ飽きるのだ。
味も結構濃いし、ずっと食べ続けるというのは少しきつい。
そこで俺が行うのは簡単な事だ……加熱だ。
なんだって加熱をすれば一気に味が変わる、香ばしさが増し、電子レンジでは出せない加熱したもの特有の温もりを出すことさえ出来るのだ。
つまり、加熱をすることによってそのものはかなり美味しくなるのだ!
ま、これはそのおにぎりを飽きる程まで食べまくった人間の言うことだからぶっちゃけ普通に食べた方が美味しいと思う人も居るだろうが、今ここにおいてはその食べ飽きた人が過半数なのである。
つまりマジョリティーこそ正義!
という事で、今日は俺が料理をさせてもらいます。
「…………彩斗くん、それは料理なの?」
紫恵が俺がいきなり取り出した鮭おにぎりとツナマヨおにぎりを指して訝しげな表情をする。
「まぁ見てろって、こっからまじで美味しい炒飯が出来るからよ!」
「炒飯…………卵使う?」
「あぁ! 使ってもいいか?」
「うん、良いよ、私廃棄無い時はいっつもゆで卵食べてるから卵はいっぱいあるし」
「………それは、大丈夫なのか?」
なんか人間として最低限度の生活を送っているような気がしてならないんだが…………。
俺でも流石にもうちょっと食べてるぞ?
炒飯とか炒飯とか………あと炒飯とか。
いや、俺も大概炒飯しか食ってないな。
だってしょうがないじゃないか、炒飯は割と誰にでも美味しくつくれるし、その上ご飯と卵と少しの調味料だけあれば作ることが出来る。
廃棄でご飯物がよく出る俺からすればかなり作りやすいものなのだ。
同情するなら何とやらだ。
「まぁ、使わせてもらうことにするよ」
俺は命から卵を受け取り、それを手早くかき混ぜる。
卵を混ぜる音はいつ聞いても心地よい。
箸と器が擦れる音と、卵のちゃぷちゃぷという音がまだ焼いてすらいないのに美味しい感じを演出する。
「まずは、これだ!」
俺が取りだしたのはマヨネーズだ。
そう、マヨは全てを解決するのだ。
炒飯にコクを出してくれるだけでなく、油としても非常に優秀である。
炒飯の美味しさは油で決まるとかテレビで見たことがあるが、その通りなのだろう。
普通のサラダ油を使うよりもこっちを使った方が数段美味いものができる気がする。
次に俺は一気に火力を上げ、フライパンを急激に熱する。
そうすると少しづつマヨネーズが焦げてくる。
そこへ勢いよく溶き卵をぶち込む。
最高の音色を奏でる卵はすぐさま固まり、それをかき混ぜると少しずつ小さくなっていく。
「そこにこれだ!」
俺は先程出していたおにぎりの袋を全力で開け、フライパンの中へと入れる。
鮭とツナは炒飯に合うのか? と思うかもしれないが、これが思ったよりも合うのだ。
魚のあの独特の旨みとおにぎり特有のしょっぱさが合わさり、炒飯にとても良い味を出してくれる。
そこに中華調味料(俺の家から取ってきた)をぶち込む。
これは炒飯には欠かせないものだ、というかこれが無ければ炒飯とは言えないだろう。
牛や各種野菜の出汁を存分に閉じ込めたそれはそれだけで全ての料理を中華に変貌させるパワー味を持っている。
それを入れるだけで一気に美味しそうな匂いが漂ってくる。
ヘラを使いおにぎりを砕き、それらの調味料と混ぜ合わせていく。
特別なものはいらない、元々のおにぎりについている味と、これらがあればもうそれは立派な炒飯なのだ。
それから仕上げに塩胡椒と香り付けの醤油を垂らし、水分が飛ぶまで炒めると………完成だ!
「漢の炒飯、いっちょあがりだ!」
「………その姿で言われても違和感すごいんだけど」
「………うん、普通に見た目女の子だから」
「いいから、誰がなんと言おうとこれは漢の炒飯なんだよ!」
皿にに盛り付けるとぶわっと中華の匂いがしてくる。
「うわー、けど美味しそうだね!」
「うん、すごい光って見えるよ………もしかして腕上げた?」
「あぁ、最近結構練習していたのさ……ほら、冷めないうちに食べなよ」
「うん……」
「じゃあ……」
「「「いただきます!」」」
俺達は一斉にその炒飯を食べる。
「……うん、美味しい」
「んー、こういうジャンキーなのあんま食べないから、新鮮でいいねぇ!」
俺の作る炒飯は美味しかった。
美味しかったのだが…………まだ普通だった。
お店で出てきても違和感が無い程度の美味しさではあるが………それでも感動するレベルでは無い。
「次は……もっと上手く作るからなッ!」
捨て台詞を残して俺は炒飯をガツガツと食う。
俺の炒飯道はまだまだ続くのであった。




