8話 『柔軟の恵み』
そんなこんなでこの1ヶ月間で超能力について色々なことを知ることが出来た。
案外超能力を手に入れたとしてもすぐに使いこなせる訳でもないので、これくらいの時間が開いてくれるというのは悪くない事なのかもしれない。
ATMでお金を下ろした俺は歩いて家に帰っていた。
ここは雪国北海道、この時期になると少しづつ雪が降り積もっており、自転車で移動しようとするとある程度良い自転車でなくてはいけないのである。
もちろん俺の自転車は安物。
中古で買って5000円程のものだ。
そんな自転車で雪が少しだけでも積もった道を走ろうものなら危なくてしょうがない。
なんなら学校の自転車置き場が閉鎖されているくらいだ。
ただ、今はこの歩く時間すら楽しい。
今後どんな超能力を手に入れることが出来るのか、出来れば生活に使えるものやお金が手に入るようなものが良いなと思いながら歩けばどんな道であろうと楽しみに溢れていく。
家に着き、早速超能力を買う。
変化した画面にはこう書かれていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『柔軟の恵み』
身体の柔軟性を倍増させ、筋肉痛や疲労の蓄積を半減させる力。
どんな動きも、あなたの味方に。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ふむ、これは超能力なのか?
なんか想像する超能力というものよりかはどちらかと言えば身体能力とかそういったものに感じるのだが…………。
まぁ、気にしたら負けだ、使えるもんなんだったらなんでもいいさ!
とりあえず俺は検証を始めることにした。
「……よっ!」
俺は立ち上がり膝を曲げずに手を地面につけようとした。
すると、なんと手のひらが地面に着いたのだ!
ちょっと前までは俺の手のひらは地面に付けることは出来なかった。
なんなら手の先が脛に着くかも怪しいレベルであった。
長座体前屈だって20cm程度しかできなかったし、体は硬い方であった。
だが、『柔軟の恵み』を得た瞬間に、これほどまでの柔軟さを手に入れられるとは!
すごい、凄すぎる!
だが…………。
うん、正直いってあんま使わん!
柔軟さがあったからってなんなんだ、俺は別にスポーツをやっている訳でもなければそこまで捻挫などをするような人間でもない。
あって不利益になる事なんて無いが、本当ならもっと有用なものが来て欲しかった。
こんなん、言ってしまえばハズレの超能力だ。
出来れば、もう一度違う能力が欲しい…………。
…………なぁんで思っている時期が僕にもありました。
はい、全て言葉を撤回いたします。
『柔軟の恵み』様、最高でございます。
何がすごいって、まずいちばんすぐに感じたのが肩こりが良くなったことだ。
高校生で肩こりなんてあるわけないと思うかもしれないが、そんなことも無い。
悪い姿勢でスマホをいじったりゲームをしたりしている現代っ子はもうみんな肩こりに悩まされていると言っても過言では無い。
そんな肩こりがすぅーっと無くなっているのだ。
そして、姿勢も良くなっているように感じる。
今日バイトに行ってそうそう命にも言われたのだ、なんか姿勢良くなった? と。
猫背とストレートネックがこの能力だけでかなり改善したのだ、最高と言わずなんと言おう。
しかも、それだけでは無かった。
バイト終わり、俺はある事に気がついた。
全然疲れていないのだ。
コンビニバイトは体力がミジンコレベルしかない俺にはかなりの重労働なのである。
他の労働に比べると幾分か楽かもしれないが、それが俺に取ってかなりの疲労を引き起こしていたのだ。
だが、本日働き終わったあと、すぐに全然疲れていないことに気がついた。
やべっす、レベチっす。
えー、『柔軟の恵み』様、先ほどまでの無礼な態度を謝りたいです、本当に申し訳ありませんでした。
先程の言葉は訂正させていただきます。
あなたは、間違いなく、あたりの超能力でございます!
そんなわけで、俺は帰り道もずっとテンションが高かった。
夜の冷え込みも、滑りそうな雪道もまるで気にならない。
むしろ、軽やかにステップでも踏めそうなほど身体が軽い。
「いやー、これマジで革命だわ……!」
思わず独り言も漏れる。
いつもなら家に帰ったら即ベッドに倒れ込み、スマホを眺めてから寝落ちする流れだが、今夜は違う。
家に着くなり、俺は鏡の前でいろんな動きを試していた。
「うお、これヤバいな……!」
足を大きく開いて前屈したり、ブリッジや開脚、昔ですらできなかった柔軟体操も難なくできる。
「はは、もうアスリートじゃん、これ……!」
いや、まぁ、全然そんなことはないのだか、今までの出来なさとの対比で自分がとんでもない高みにでもいるような感覚に陥る。
今日こんなにいい超能力が手に入ったのだから、明日はどんな超能力が手に入ってしまうのだろうとワクワクが止まらなくなってくる。
ひとつ、試してみたいこともあったのでいつもならもうちょっとしたらすぐに寝てしまうところを今日は起きている事にした。




