69話 メルヘン粥
「ん、どうしたの?」
少し考え事をする俺を見て紫恵は不思議そうにする。
この紫恵は……本当に俺の夢の中の人物なのか?
『ドリーマー』の効果の中には他人の夢を操作出来る、と書いてあった。
それがもし他人を俺の夢の領域に取り込んでそこで操作することが出来る、という意味だったら…………ここに居るのは本物の紫恵だと言うことになる。
あれ、もしかして俺ちょっとまずいことをやってるんじゃないか?
さっきは夢だからと色々言ってしまっていたが、その夢だからというのは相手にはなんの影響も出ないから何をしても大丈夫という意味なのだ。
しかし、この紫恵に話していたことが現実の紫恵も確認することが出来るとしたら…………。
「彩斗くん? 本当に大丈夫? あ、そうじゃん、今夢だから…………んーと、どうすればいいんだろ?」
「あ、あぁ、俺は大丈夫、気にしないで」
「…………うーん、夢だし大丈夫だとは思うけど…………そうだ、きっと彩斗くんは風邪を引いてるんだよ!」
「え?」
紫恵は何かを思いついたように手を打つ。
何を言い出すかと思えば、俺は風邪なんて引いてないし、まずこの夢は俺の物なのだしそんな俺に悪影響が出る事なるてあるわけがない。
しかし、ふと体の様子を伺うと、確かにちょっと体がだるくて、喉も少し痛くなっているのに気づいた。
「え……? まさか、俺、本当に風邪引いてるのか?」
自分の体調を確認して驚いた。
微妙に熱っぽくて、喉がひりつく感じがする。
まさに風邪を引いているような感じだ。
「いや、なんで……おかしいだろ」
「あれ、本当に風邪引いちゃったの? しょうがないなぁ!」
紫恵がそういうと先程のように画面が切り替わるように風景が変わり、気が付くと俺は見知らぬ天井を見上げていた。
俺には無地の落ち着いたデザインの布団が掛けられており、頭には濡れタオルが乗せられている。
まるでアニメとかで見る病人のような感じだ。
「はーい、お粥作ってきたよー!」
声の方向を見ると、扉の奥から割烹着を着た紫恵が鍋を持ってこちらに来ている。
両手で鍋を持っているにも関わらず扉がまるで普通に開けたような感じに開いていったのが少し不気味であった。
「お粥って……俺は風邪なんか…………!」
「はーい、いいからいいから、ちゃんと寝ときなさい!」
起き上がって抗議しようとするも紫恵の手に押さえつけられて起きることが出来ない。
いやいや、今お粥両手に持ってんだろ、なんで押さえつけられるんだよ…………。
夢の中だから、と言えばそれまでなんだろうが、かなりカオスだ…………。
「はい! これ食べてね!」
「うっ……これは?」
紫恵が鍋を開けるとそこにはなんというか、メルヘンチックな色をしたお菓子がぐちゃぐちゃになった様なものが入っていた。
美味しそうには見えない。
「ほら、ちゃんと食べないと良くならないよ?」
「いや、けどこれは…………」
こんな毒々しい見た目のもの食えたもんじゃないんだが!?
俺は何とか回避するためにその場から逃げ出そうとする。
しかし、紫恵は俺の上に乗っかってきてそれを阻止する。
「好き嫌いはダメだよ? ほら、食べにくいなら食べさせてあげるからさ! ちょっと待ってね、今冷ましてあげるから!」
「いや、良いから!」
「ふー、ふー、ほら、いい感じに冷めたよ! 食べて!」
「絶対に嫌だ!」
俺は紫恵を押しのけて拘束をとこうとするが、うまくいかない。
く、このままではあのメルヘン粥を食わされてしまうっ!
俺が何とか逃げ出そうとしていると、急に紫恵は頬を染めた。
「あ…………分かった、口移しで食べさせて欲しいんだ?」
「はぁ!? ちょ、何でそうなる!?」
「だって、彩斗くんちょっとえっちだから…………」
「え、なんで!?」
別に紫恵にそういうことをした事は一切ないし、そういった素振りも一切見せていないんだが!?
というか、これが夢の中の紫恵という事はつまりこの紫恵が言っていることというのは夢の中で何か包み隠す必要も無い場所での発言のため、本音に近いのだと思う。
という事は………こいつ、俺の事そんな変態だと思ってんのか!?
ちょっとショックだぞ!?
だが、これで安心だな、流石の紫恵でも俺に口移しで食べ物を食べさせるほどの勇気は無いはずだ。
見た目が女の子とはいえ中身はゴリゴリの男なんだ、紫恵もそのことについては知っている訳だし、流石にそんな事をするのは躊躇われるだろう。
が、その期待は直ぐに打ち壊された。
「ふふ、しょうがないなぁ、こんな事してくれるの私ぐらいなんだからね? ほら、口開けて?」
「…………は?」
「ん? 食べさせてあげるから、ほら、あーん」
紫恵はそういうと口の中にメルヘン粥を含む。
あー、まずいまずいまずすぎる!
こんなの夢の中だとしても紫恵の心に深い傷が出来てしまう。
紫恵のためにも、そして俺の精神の為にもこれはなんとしてでも回避しなくてはならない。
そう、強く思った瞬間、俺はなんの抵抗も無く立ち上がることが出来た。
急に俺に立ち上がられた紫恵は少し驚きながらベットの上で尻もちを着いてしまっている。
……どうなっているのかは分からないが、チャンスだ。
俺は全速力で逃げ出した。




