56話 被り
あの後流石にあの状態で帰る訳にもいかず、命の頭を撫でながら少し待っていると、何と命は寝てしまった。
俺は普通に昼勤のバイトもあるし、命も学校があるのでずっとこのままダラダラとしている訳にも行かない。
本当はこのままずっと居たかったのだが、朝になった段階で俺は命の事を起こし、俺は一旦帰宅した。
さて、理由は聞けたわけだが、だからといって何か問題が解決したのかと言われればそういう訳では無い。
命はあの話を聞いている限りでは今も尚嫌がらせを続けられているみたいだ。
それが何とかできない限りは命はずっと辛い思いをし続けることになってしまう。
いくら俺が励まし続けようと、それは変わらない。
「…………そうだ、超能力」
俺の人生を変えてくれたこの力達、これを使えばもしかしたら何か解決策が見つかるかもしれない!
そう思い、俺は自分の超能力を思い出していく。
しかし、どう考えても役に立ちそうなものは無い。
「…………これは、もうまた買うしか無い…か」
もう超能力に割けるお金は残っていない。
生活費や学費の為の貯金なども合わせればもう1万円も用意することは出来ないのだ。
だが…………今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ?
いつかなんとなく行った方が良いかな位の気持ちで行こうとしている大学のお金なんかより、今、命を救う為のお金の方がずっと重要度が高い。
今溜まっているお金は35万円だ、これだけあれば何なら1ヶ月ずっと引き続けることだってできる。
これさえあれば、命を救う事が出来るかもしれないんだ、迷ってなんか居られない。
「………命、待ってろよ」
俺はバイト前、お金をおろし電子決済サイトに入金した。
一日に何回も引けるのならもしこれで外れたとしても何度でも引き直して使えそうな超能力が手に入るまで引くなんて事も出来るんだが……まぁ、そう簡単なものでは無い。
超能力というものが手に入るだけでも破格の性能なのだ、文句は言わないさ。
とりあえず一旦整理しておこう。
命はシンガーソングライターとして活動しており、ある時他の人の曲をカバーして投稿しそれがバズって本家を超えてしまう。
そのせいでその人のファンから嫌がらせを受けるようになってしまい、それが俺にも及んでしまうと考え俺から距離を取った、ということだ。
命は髪をかき上げていればサブカル系の美少女って感じだし、その感じで動画にも映っていたのだろう。
こういう髪の人なんてそんなにいる訳でも無いから特定されてしまい、リアルにも影響を及ぼしてしまったのだろう。
つまり、このリアルでの影響という所を何とかしなければいけないのである。
超能力にどんなものがあるのかは分からないが、今まで出てきたものは多種多様なものばかりだったので、もしかしたらドンピシャなものが出てくるかもしれない。
この前俺が手に入れた『好印象の恵み』のような人からの印象を上げて嫌がらせなどを受けないようにするという超能力を命に付与出来たりするだとか、その命に嫌がらせをしているヤツの記憶を改ざんする事が出来る能力とか、そういったものが出てくれれば何とかすることが出来るだろう。
それに、最悪…………人を殺してもバレない超能力とかが手に入ってくれても何とかなりそうだ。
とにかく、命が嫌がらせされないようにすることが出来る超能力が出てくれれば良いのだ。
俺は、もう命のあんな顔は見たくない。
クリスマスの時に見たようなあの美しい笑顔、あんな顔をずっと見ていたいんだ。
「…………頼む、頼むぞ?」
俺はスマホに向かって意味が無いとは分かっているものの、念を押すのをやめられなかった。
指が少し重い。
これに命の笑顔がかかっているからなのか、それとも絶対に使わないと決めていたお金を使ってしまっていることに対しての罪悪感なのか分からない。
俺はその指を無理やり動かし、スマホを操作する。
超能力サイトはいつも通り奇妙な音楽を垂れ流している。
俺は過去一ドキドキしながら超能力を購入した。
変化する画面を食い入るように見つめる。
「…………は?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまう。
何度も、何度も目を擦ってみるが、その表示は一切変わらない。
そこに書いてあったのは…………。
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『百円の恵み』
毎日百円が手に入る
財運を宿し、確実なる利益を、恵みを積み重ねる。
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俺が一番初めに手に入れた、俺の人生を変えるきっかけとなった超能力であった。
俺はこの能力に助けられ、今のこの生活があると、そう思っている。
何度も、何度も感謝した能力だ。
だが、今はもうダメだった。
「かぶ……った?」
まさか、こんな時に起こってしまうのか!?
初めての現象に俺は戸惑いながらも、その超能力がどうなるのか分からず、サイトを見回る。
するとその時、俺の頭の中にある情報が飛び込んできた。




