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俺だけ使える1万円で超能力を買える怪しいサイトを見つけたら人生が変わった件  作者: 黒飛清兎
第一章 『1日1回1万円で超能力が買えるサイト』
55/129

55話 理由




「ねぇ、彩斗くん」

「…………なんだ?」


夜の街を2人で歩いていると唐突に命から話しかけられた。

紫恵の家を出てから何も話さずに時間が過ぎていたからてっきり話したくないのかと思っていた。


「この前の事、話そうと思うんだよね」

「っ! ほ、本当か?」

「うん」


命は一見なんでも無さそうにそう話した。

だが、なんというかただならぬものをその奥に感じた。


「今日……楽しかったからさ、もう、良いかなって」

「……分かった、今から命の家に行けばいいのか?」


命は無言で頷く。

俺の少し前をつかつかと歩いていく命の顔は見えない、それでもその顔が何となく歪んでいるような気がして、俺は胸が締め付けられるような思いだった。


今は元々命の家に向かうつもりで歩いていたからそのまま歩いていけば命の家に着く。

俺達はそのまま冷たい風に吹かれながら歩いていく。


歩くたびに靴底が雪の上を擦る音が妙に響く。

風が吹くたびに命の髪がなびき、その小さな背中が頼りなげに揺れた。


俺の胸の奥に、言葉にできない不安が渦巻いている。


「……本当に、大丈夫なのか?」


気づけば問いかけていた。

命は立ち止まることなく、ただ肩をすくめるような仕草を見せた。


「……わかんない。でも、話すって決めたから」


その言葉には、妙に重みがあった。

何を話すつもりなのか。それを聞いてしまって、本当に良いのか、俺は踏み込んでいいのか……。

胸の内でぐるぐると巡る思考を振り払うように、足を速める。

俺のその足をを感じ取ってか、命も少し足を速める。


命の背中が、遠く見える。

たった数歩先なのに、やけに遠い。


俺たちの間に吹き抜ける風が、ますます冷たくなった気がした。


家の前に立つと、命は少しの間、玄関の鍵を取り出したまま動かなかった。

白い息が静かに夜の闇に溶けていく。

俺も何も言わず、その横顔を見つめる。


「……入って」


かすれた声でそう言うと、命は鍵を回し、ゆっくりとドアを押し開いた。


玄関に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌にまとわりつく。

少しの間家に誰もいなかった為か暖房も付いていなく、部屋の中も外と変わらないくらい寒かった。


「適当に座って」


命はそう言うとキッチンに向かい、棚の中からマグカップを取り出す。

湯を沸かす音だけが静かに響いた。


「……飲む?」

「いや、大丈夫」

「そっか」


短い会話の後、命は湯気の立つカップを両手で包み込み、ソファの向かいに座る。

そして、小さく息をついてから、ぽつりと呟いた。


「……ねぇ、彩斗くん」

「ん?」

「聞いてくれる?」


命の指がカップの縁をなぞる。

その仕草が不安を紛らわそうとしているように見えた。

俺は少し息を整えて、彼女の目をまっすぐ見る。


「……あぁ、聞くよ」


その言葉を受けて、命は少しの間目を伏せ…………そして、静かに口を開いた。


「……私、彩斗くんのこと、避けてたでしょ?」


命はカップの縁をなぞりながら、ぽつりと呟いた。


「……まぁな」

「……ごめんね」

「いや、それは大丈夫」


あの時は少し取り乱してしまったが、今冷静になって考えてみれば、命も何か考えがあっての事だったんだろう。

俺の返答に命は少し安心したような表情を見せた。


「……私、少し前に炎上したんだ」

「炎上……?」


突然の言葉に、思わず聞き返してしまう。


「うん。私、シンガーソングライターなんだよね、そんな売れてない。 でも、ある日、好きなアイドルグループの曲をカバーして動画をアップロードしたの。そしたら、思った以上に再生されちゃって……そのアイドルグループの公式よりも伸びちゃった」


カップの中の湯気が静かに揺れる。


「最初は嬉しかったんだ。でも、すぐに……そのグループの一部のファンから、酷いことを言われるようになって……」


命の指がぎゅっとカップを握る。


「『オリジナルを超えたつもりか』『調子に乗るな』『お前なんかに歌われたくなかった』……そんな言葉ばっかり。最初は気にしないようにしてた。でも、どんどんエスカレートして……SNSは荒れるし、嫌がらせのメッセージも届くし……果てには私に直接あって嫌がらせをしてくる人まで居た」

「……そんなことがあったのか」


俺は思わず拳を握る。命がそんな目に遭っていたなんて、知らなかった。


「それだけなら、まだよかったんだ、私が我慢すればよかっただけだったから。でもね……」


命がゆっくり顔を上げる。その瞳には、どこか怯えたような色が宿っていた。


「彩斗くんにも、迷惑がかかるかもしれないって思ったの」

「俺に?」

「うん。私と仲がいいってバレたら、彩斗くんにも嫌がらせがいくかもしれないって……だから、避けたの。でも……」


命はカップをテーブルに置き、小さく息を吐いた。


「今日、すっごく楽しかった。この前のクリスマスも、それより前に話してくれた時も……だから、もう、逃げるのやめようって思ったんだ」


その言葉に、俺の胸の奥がぎゅっと締め付けられる。


「……なんで、もっと早く言わなかったんだよ」


気づけば、少し低い声が出ていた。


「言えなかったんだよ……怖くて……」


命の肩がわずかに震える。俺は一歩、彼女に近づいた。


「……バカだな。そんなの、俺が気にするわけないだろ」


そう言うと、命は驚いたように俺を見つめた。


「お前が何をしたって、俺はお前の味方だ。そんなの、当たり前だろ?」


沈黙の中、命はふっと力を抜き、涙を滲ませながら小さく笑った。


「彩斗くんならそう言ってくれるって思ってた…………うん、だから言えなかったのかも」

「…………え?」

「だって、私がこの事を話したら、彩斗くんは優しいからきっと……助けようとしてくれちゃう」

「そりゃもちろん…………」

「けどね、私はそれで彩斗くんが傷付いたりしちゃう事が……いや、それで私の事を嫌いになっちゃうのが怖かったんだ、だからもう会わなくなれば嫌われることも無い、だからもう会わないようにしようって思ったんだ」

「…………バカだな」


その言葉に、命は少しムッとしたような表情を見せた。


「っ…なんで」

「だってそんなの、本末転倒だろ、誰も幸せになれない」


命は口を閉ざしたまま、気まずそうに持っていたカップを携え直した。

その手がふるえていることが、変に気になって、俺は思わずにその手を握った。


「この前も言ったけど、俺は、命と一緒に居たい」

「でも…」

「でもじゃない」


その言葉に、命は苦虫を噛み潰したような顔をし、すぐにくしゃっと歪めて顔を伏せた。


「あーもう、だめだ」

「え?」

「泣いちゃうじゃん…」


涙の湧いた瞳を手の甲で何度も拭くが、それでも尚涙は流れ出る。

命はすこしだけ身を前に倒し、俺の胸にそっと頭を依せた。


「…ありがと。」

「何のことだよ。」


そんな様子を見て俺は自然と手が伸びる感覚に陥るが、咄嗟にそれを止める。

が、そこで少し考える。


……この手は素直に伸ばしてもいいよな?



長い葛藤の末、俺は命の美しい髪をそっと撫でた。





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