39話 餌付け
こいつは…………もしかして『ビューティーコンサルタント』か?
俺がジムに行こうとした瞬間、ジムに行くならエステに行けと頭の中に表示された。
俺が少し困惑していると、更に情報が追加されていく。
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おいおい、なんでだよ、ジム行こうぜジム。
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えっと、これは『ボディートレーナー』か?
話し方が明らかに違うし、俺をなんとしてでもジムに連れていこうとしている。
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ダメです、今ちょうど可愛くなってきたところなんですから、筋肉なんて要りません
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なんだと!? てめぇ、筋肉は全てを解決するんだぞ!? 力こそパワーなんだよ!
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おうおう、待ってくれ、俺の頭の中で喧嘩すんなよ!
音として聞こえている訳では無いのでうるささとかは感じてはいないが、頭の中に情報としてその文字達が浮かび上がっているので騒がしいことに変わりは無い。
俺がそう心の中で叫ぶと、御二方はピタッと喧嘩をやめた。
…………まぁ、言ってしまえば超能力は俺の能力なので、その命令を聞くのは当たり前だ。
ただ、害があったりしてもその能力の消し方が分からない以上どうしようも出来ないんだけどな。
さて、一旦整理しよう。
まず薄々気づいていたのだが、『ビューティーコンサルタント』と『ボディートレーナー』には人格のようなものが宿っているようだ。
そして、『ビューティーコンサルタント』は俺を可愛くしたいからジムに行かせたくない、そして『ボディートレーナー』はジムに行かせたい、この両者の意見の対立が先程の喧嘩を産んだようだった。
ただ、まぁ、俺としてはジムに行くつもりだ。
理由としては、先程『ボディートレーナー』にも言われた通り、俺はかなりヒョロい。
確かに細い方が女の子のような見た目の子は可愛く見えるのかもしれないが、まず俺は男なのだ。
俺の容姿は今現在ほぼ女の子だが、それは髪型による影響が大きい。
顔面だけを見てみれば割と中性的な顔立ちをしていて、例えるなら幻星でのキャラメイク前のあのハゲみたいな感じだ。
多分俺も丸坊主にすればあんな感じになると思う。
ただまぁ、男らしい感じの顔では無いしゴリマッチョみたいな体型は似合わないと思うし、まずそこまでの体型になれるまで鍛えられるとも思っていない。
運動不足なのは否めないし、程よい運動は健康にもいいという。
色々面倒だしちょっと避けてきていたのだが、こういうことを機に始めてみるというのも悪くないだろう。
「お前ら、それでいいよな?」
俺はそう2人に呟くのだが、返事は無い。
うーん、こいつら話す時は話す癖に俺から話しかけたら全然喋んねぇのな!
まぁ、騒がしくないのは良い、その恩恵を受けることが出来るのならそれでいいさ。
少しいじけながらも俺はスマホで他の人の筋力がどんなものなのか見てみることにした。
すると、普通の高校生の平均がだいたい20~30、運動している人なら40~50、アスリートなどは80を超えたりすると言った感じのようだった。
うん、やっぱ俺の筋肉はカスなんだな。
まぁ、そんなことは分かりきっていたことだ、落ち込んでもしょうがない。
まぁ、とりあえずバイトだ。
時刻はもうそろそろ家から出た方が良い時間に近づいていく。
本当は少し早めに出てまた命と話したかったんだけど、まぁ仕方がないだろう。
「……そういえば、この前はなんかすごい積極的だったけど………なんだったんだろう?」
クリスマスの時以来俺たちが会うことは無かったので、それ以降の命の様子は一切分からない。
だけど…………前回のあの様子から考えて結構心を許してくれたのかなとも思う。
いきなりあそこまで心を許してくれた理由などは全然分からないが……あ、もしかしてチョコか?
あの日、バイトの時チョコをあげるまではいつも通りあまり話せてはいなかった。
しかし、チョコをあげたあと辺りから結構喋ってくれるようになったような気がする。
それに、一緒にケーキを食べた後もかなり喋っていた。
つまり、俺が考えるに、あの時俺は餌付けに成功したんじゃないだろうかと思う。
ケーキにつられて夕勤に出るくらい甘いものが好きなのだから、甘い物をくれた俺に心を許したと考えて良いと思う。
「…………今日はチョコを買っていってあげようかな」
決してこれ以上仲良くなってもうちょっとお近づきになっていい感じになりたいとかそういう下心は一切無い。
そう、無いけれど、チョコをあげることによってもっともっと心を許してくれれば嬉しい。
今までは喋ってなかったけれど、喋ってみるとやっぱりその可愛さが引き立っていた。
あんな子ともっと仲良くなることが出来るならちょっとチョコを買うくらいのお金は出してもいいさ。
…………よし、急ぐか。
今からでも急げば少しくらいなら命と話す時間は稼げる。
俺は急いで家を出た。




