35話 幻星
バイト中もやはり俺は上の空になってしまっていた。
『ゲーマー』という超能力がどんなものなのか、それだけを考えるあまりその他の仕事が疎かになってしまっていた。
おばさんにも好きな子にでも振られた? とからかわれてしまうくらいだった。
入れようとしていた幻星はダウンロードする為にはかなりの時間がかかるらしく、コンビニが無料で使えるようにしているWiFiを使ってダウンロードさせてもらっている。
通信料金を抑えるために格安のプランに入っているためあまり外でギガを使うことが出来ないので、せめてバイト時間を有効活用する為にもバイト中にダウンロードしているのだ。
なんだかんだ言ってゲームとかそう言ったをプレイするのは初めてだから、なんだか楽しみだ。
高校生になってやっと自分でお金を稼ぐことが出来るようになってから俺には娯楽が増えた。
スマホの登場である。
中学生の頃はスマホなんて買って貰えなかったし、ゲーム機なんかも一切買って貰えなかった。
貸してもらう友達も居なかったから、ただ、毎日何もせずに過ごしていた。
ゲーム、興味がなかったと言うよりは興味を持つことが出来なかったというのが正しいのかもな。
ただ、今は自分でお金を多少ながら稼ぎ、性能がいいとは言えないが型落ちのスマホを購入することができた。
今までその思考に至ってはいなかったが、ゲームを始める、という行動に出るのは至って自然なことなのかもな。
バイトが終わり、スマホを確認すると、幻星は無事ダウンロードされており、もうすぐに遊べる状態になっていた。
すぐにでもやりたかったが、流石に歩きスマホでゲームをやるとか言うのは常識的ではないと考え、家に帰ってからやることにした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
さて、感想を述べようか。
…………なんだあれすげぇ。
幻星は広大なマップを旅するロールプレイングゲームであり、多彩なキャラクリエイトや知らない人と出会い、一緒に共闘したり、逆に戦ったりすることが出来るのが魅力のゲームである。
画面の中のキャラクターは、俺が適当に選んだ見た目と装備を身につけ、広大なフィールドを駆け回る。
風が草原を揺らし、遠くには巨大な城がそびえ立っている。
NPCたちはそれぞれの役割を持ち、プレイヤー同士のチャットが画面の端で流れていた。
「すげぇ……こんな世界があったのか……」
俺は自然とゲームの中にのめり込んでいった。
チュートリアルに従って基本操作を覚えていく。
最初のうちは移動方法や攻撃方法を学び、弱い敵を倒してレベルを上げたりしていく。
レベルが上がるとステータスが上昇する。
ステータスというのはそのキャラの能力値の事で、それが上がることによって攻撃力や防御力が上がっていく。
画面の向こう側で、俺の分身とも言えるキャラクターが剣を振るい、スライムのような敵を斬りつける。
手応えのあるヒットエフェクトとともに、敵の体力ゲージが削られ、やがて霧散した。
ゲームの中でとはいえ、初めての戦闘で勝利を収めた達成感に、自然と頬が緩む。
経験値が入り、画面の端にはレベル2の表示が浮かんだ。
ステータスが少し上昇し、俺はさらに強くなったらしい。
ステータスが上がれば更に強い敵に挑む事が出来、更に強い敵は更に多い経験値を持っているため、それを倒すことによってレベルアップは加速する。
ただ、そうやってどんどん強くなっていくことがこのゲームの目的では無いようだった。
やっているとよく分かるのだが、このゲームは所謂異世界という要素を大切にしているらしい。
その為、その異世界で過ごす人々や食べ物、道具などが非常に綺麗なグラフィックで表現されており、そういったものを楽しみ、非日常感を感じるというのがこのゲームの目的であるようだった。
そして最後に、俺はゲームの説明文にも書いてあった、フレンドというものを作ろうと思った。
フレンド……日本語訳で友達だ。
友達なんか現実世界には居ない、だが、この異世界ではそこら中に友達になれるかもしれないプレイヤーが溢れている。
このゲームが初心者である俺はこのゲームについて教えてもらう為にもフレンドが欲しかった。
ゲームの世界でなら、俺にも友達ができるかもしれない……そんな期待を抱きながら、俺は画面を操作し、街の広場へと向かった。
「えっと……フレンドってどうやって作るんだ?」
ゲーム内のメニューを開くと、フレンド申請の項目があった。
適当に誰かに申請を送るのもアリかもしれないが、どうせなら話しかけてみたい。
そう思いながら周囲を見渡していると、ひときわ目を引くキャラクターがいた。
…………渋い。
…………渋すぎる。
プレイヤーのほとんどがファンタジーらしい派手な見た目をしている中、その男はシンプルな革のコートを羽織り、片手に煙草のようなものを持っていた。
銀髪混じりの短髪、無精髭、そして片目に黒い眼帯。年齢的には四十代後半といったところだろうか。
まるでベテラン傭兵のような雰囲気を漂わせている。
「……なんか、めちゃくちゃ強そう」
俺は思わずそう呟いてしまった。
俺は興味本位でそのプレイヤー近づいていく。
『ん? 坊主、新入りか?』
彼はゲームのチャット機能を使ってそう話しかけてきた。
『あ、えっと……はい。今日始めたばかりで』
『なるほどな』
『俺はクロガネ。しがない傭兵だ。お前、名前は?』
『あ、俺は……アヤです』
クロガネさんはいかにも渋そうな文章を送ってきた。
どうやらこの人はキャラになりきる感じの人のようだな。




