30話 コンビニの寿司ってあんま美味しくない、特に廃棄
街はクリスマスという祭りから一変し、和風の物が立ち並ぶThe日本といった雰囲気へと早変わりする。
所々に残っているクリスマスの残滓もお正月という日本人にとって非常に大切なものによって飲み込まれていく。
俺にとって色々なことが起こったクリスマスから数日、世間は既にお正月ムードとなっていた。
この時期はやれクリスマスだやれお正月だと本当に大変だと思う。
世間はそんなふうにわちゃわちゃしているみたいだが、俺にはもっと重要なことがある。
そう、給料日である!
給料が入るという事はそれ即ち超能力が買えるという事である!
「さて、今回はどんな能力が来るのか………」
まだ買っていないにも関わらず、ワクワクが止まらなかった。
俺の電子決済アプリ内にはもう既に2万円と少しの電子マネーがチャージされている。
つまりすぐにでも超能力が買えるということである。
…………しかし、俺はスマホを切り、着替えを始めた。
本当は今すぐにでも買ってその能力を試したい、そう思いながらも俺は必死に耐えながら外へと出る。
目指すは俺のバイト先であるコンビニである。
時刻は既に昼勤のバイトが始まる時間は過ぎてしまっている。
…………そう、俺は今日も夕勤に出るのである。
特に人は来ないし、荷物も無いからということで今日はワンオペである。
人は来ないと言ってもたまに結構来たりすることもあるし、何かトラブルが起きてしまえば対処することは出来ない。
普通ならどんな時であろうと二人はいるべきなのである。
しかし、大晦日の時は本当に人が来ず、二人分も給料を払うのは無駄だし、まず入ってくれるという人も限られてしまうのでこういった方法を取っているらしい。
さて、それじゃあわざわざどうして俺が夕勤に入るのかと言うと…………飯だ。
もっと詳しく言うとすると、寿司だ。
いやー、前回はケーキの為に夕勤に入っていた。
そのため俺の事をかなりの甘党だと思った人も居るかもしれないが、それは間違いである。
確かに甘いものは大好きだ、しかし…………それと同様にしょっぱいものも好きなのである!
というか、普通にご飯を食べるのが好きだ。
コンビニの寿司と言うとあまり美味しいという評判は聞かないが、俺みたいな金の無い人間からすれば無料で食べれる寿司以上に美味い寿司は無いのである。
と、言うことで今日も今日とてバイトをすることにしました。
いつも以上に人が居ない店内で俺は1人、寿司と超能力のことを考えながらぼーっとレジに立ってした。
俺はふと髪についているあるものに触れてみる。
これは、この前貰ったヘアピンだ。
前々回、この場所で命と一緒に働き、その帰りに貰ったものである。
「…………もしかして、俺に気があったりとか…………いや、無いか」
勘違いをしそうになる頭に全力で自惚れるなと吐き捨て、その思考を消し去るように尽力する。
多分、命からすればあれは普通のことなんだと思う。
命は可愛いけれどパッと見は大人しそうな女の子だ、だから一見男性経験とかはないように見える。
しかし、人は見た目じゃない。
もしかしたら普通に彼氏がいたりとかするかもしれないし、なんなら結構やることもやってるかもしれない。
「…………うっあっあうあぁ」
だ、だめだ、その考えは絶対にダメだ、脳が破壊される…………。
1人だからどれだけ独り言を呟いても構わない、お客さんが来た時だけ黙ればいいだけだ。
傍から見ればヤバいやつだが、構わない。
命がそんな何処の馬の骨とも知らんやつとそんな……そんな事になるなんて、絶対に、絶対に許せないんだ、ちょっとぐらいうっあっあぁしてもいいだろう。
そもそも命はそんな事………。
「いらっしゃいませー」
今後色々と楽しみなことが起こると分かっているからか俺のテンションはかなりおかしくなっていた。
やる事が全然ないバイトはいつもよりも少し長く感じられた、が、その時間を何とか耐え抜き、バイトが終わった。
今日は夜勤は無く、夕勤が終わればもう店を閉めるらしいので、店長から貰った鍵を使って戸締りをしていく。
店内の事務所へ続く扉を覗いた全ての扉に鍵をかけた後、俺は事務所に入った。
机の上にはお待ちかねの寿司が乗っている。
巻き寿司もあれば、オーソドックスな握り寿司の詰め合わせもある。
「……最高だな」
誰に言うでもなく、俺はそう呟いた。
仕事終わりの寿司…………これ以上のご褒美があるだろうか?
俺はさっそく箸を手に取り、まずはマグロの握りを口に運ぶ。
マグロの旨味が口いっぱいに広がり、思わず目を閉じて味わう。
コンビニ寿司とはいえ、空腹と達成感が合わさると格別な味に思える。
「……うん、うまい」
寿司は非常に美味かった。
美味かったのだが…………何かが違った。
その時、俺はこの前のときを思い出す。
あの時…………あのケーキ、ザッハトルテだったか、あれを食べてる時はもっと満足感のようなものがあった。
高級感のあるケーキではあったし美味しいのは当たり前なんだが、なんと言うか…………とても…………。
そこで、俺は一つのことに気がついた。
今あってあの時ないもの…………それは、命だと。
そうか、俺は寂しいのか…………。
その事に気付いたあとの寿司は、なんだか少し味気なくなったような気がした。
※タイトルは個人的感想です




