2話 『百円の恵み』
それを見て、まず最初にやってきたのが疑問だ。
そして、それをS波が如くどでかい感情である恐怖が飲み込んでゆく。
俺はバイトの給料と学校の支払い以外に銀行口座を使っていないため、それ以外の入金があるのはおかしい、故に俺はどこかからか情報が漏れていることを疑った。
学校はもちろん、バイト先も大手であるためそう言った情報が漏れ出ることは無いように思える。
それ以外となると、頭をよぎるのは海外の動画などでよく見かけるATMに仕掛けられる情報を抜き取る機械だ。
俺は急いでいつも使っているATMにそういった類のものが付いていないか調べた。
もちろんペンチやドライバーといったものは持ち合わせていないし、そもそもそういったものを使って変な疑いをかけられるのも嫌なのでそこまで大袈裟な仕草はせずに優しくだ。
もしそういったものが着いているのなら犯人も取り外しが簡単なように緩く付けられているはずなのでこの程度でも外れるはずだ。
俺は近辺の自分が使っていたATMを調べ尽くした。
しかし、どこのものもそういった細工がなされている所はなかった。
…………このカードは数年間変えたりはしていない、遠出はそこまでしたりする人間ではないが、それでも多少はする。
そういった所を全て回るとなると…………うん、不可能だ。
一旦家に帰り、安物のベッドにダイブする。
なんというか、疲れた。
とりあえず俺は1度ネットを開いた。
「銀行口座、流出で検索すればいけるかな?」
こういう場合にどういったことをすればいいかなど分からないため、とりあえずネットに頼ろうと考えたのだ。
現代っ子の鑑である。
検索エンジンを開くとすぐに読んでいた小説サイトのページが開かれた。
あー、そうだ、前回はこれを読んでいたんだったな。
いちいち開き直してどこまで読んだか分からなくなるのも面倒なので、とりあえず俺はタブを変えて調べる事にした。
その時、あるタブが目に付いた。
真っ黒いタブだ。
このタブは他のものと比べて明らかに異色な雰囲気を醸し出していた。
俺はまさかと思いそのサイトを開く。
その瞬間、俺の頭にあの時の光景が鮮明に流れ出す。
毎日入金され続ける100円にこの前のサイトに書いてあった能力、全ての点が結びつく。
いや、まぁ、1万円も払ったものの事をここまで忘れていたということには驚きだが、この際一旦それは置いておこう。
肝心なのは、俺の情報がこのサイトにバレているということだ。
一体どんなルートで俺の情報を得たのか分からないが、危険な事に変わりは無い。
俺の手元には一応全額おろしておいた給料がある。
給与明細と比較しても間違いは無い、いや、毎日100円ずつ入金されているため少し増えているくらいだ。
…………あれ、もしかしてこれこの口座に入金しなければ無限に金が増え続けるのでは?
口座にお金さえ入れておかなければ特に被害にあったりすることは無い。
俺は一旦、冷静になるために深呼吸をした。
「いやいや、さすがにそんなうまい話があるわけ……」
そう思いつつも、もしこの仮説が正しいなら、俺は一種の不労所得を得た事になる。
…………まずは実験だ。
俺の口座には銀行で下ろすことの出来ない数百円のみが入っている、これでまた100円が振り込まれ続ければ実験は成功だ。
いつ無くなるかは分からないが、少なくともあのサイトの運営者が気づくまでは毎日何もせずに100円を得ることが出来る。
念のため、もう一度ネットで「銀行口座」「流出」「不正入金」などのワードで調べるが、それらしき情報は出てこない。
…………翌朝
期待と不安を抱えながら口座の残高を確認した。
100円。
やはり入金されている。
「マジかよ……」
口角が上がるのを感じる。
こうなると、これはほぼ確定だ。
もしこれを利用できるなら、生活がめちゃくちゃ楽になる。
100円という額は少ないが、塵も積もれば山となる。
年間にすれば36,500円だ、たかが100円、されど100円。
特に学生の身分である俺からすれば尚更だ。
俺はもう一度あのサイトを開く。
真っ黒な画面に『超能力、使ってみたくないですか? 1万円払えば、超能力をプレゼントします!』という文言、そしてその下にこういったものが書かれている。
・恵みの百円
そこをタップしてみると、昨日みた通りの内容が現れた。
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『恵みの百円』
毎日百円が手に入る
財運を宿し、確実なる利益を、恵みを積み重ねる。
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確実なる利益…………それが百円ということか。
俺の口座の情報が漏れていたというのは怖いが、最悪それは違う銀行の口座を作れば解決する話ではある。
現に大学費の貯金の為に別の銀行で口座を作り、そこに月5万円ずつ入金を続けている。
高校に入学した次の月からバイトを始め、それから1ヶ月研修をした時の給料を除いた分の給料である25万円がそこに入っている。
なので、この100円が入金され続けている銀行口座はそれ用にしてまた新しい銀行口座を作れば金が増え続けるというわけだ。
…………どうやら、俺はとんでもないサイトを見つけてしまったらしい。