129話 夢だったら何してもいいよね
こうやってベッドに寝転がっていると、なんだかこの前のことを思い出す。
俺の家に2人が来て、何故か横で寝始めた時の事だ。
あの時はびっくりした……いやまぁ、ラッキーといえばラッキーなんだけどな?
俺の理性がもっとちゃんとしていればあの時間を味わったというのに……残念だ。
あの時は危険な状態だったと言うのになんだか楽しかった。
それも全て、二人と居たからだ。
危ない状況で、普通に考えれば楽しいはずなんかない。
が、2人と会う前の一人でいた時と比べれば明らかに楽しいのだ。
「…………そうか、分かった」
俺はそれで気づくことが出来た。
俺は今、俺の体がどうなろうとも失いたくない、そんな存在がいるじゃないか。
俺がそんなふうに考えていると、俺の部屋のドアがガチャりと開く。
少し違和感のある光景だ。
この部屋に俺以外の人が入ってきたことなんてほとんど無い。
だが、そこへと入って来た2人にはそんな感覚よりもまず先に安心するように感じる。
部屋に入ってきた2人は俺の元へと駆け寄ってくる。
「さ、彩斗くん! 大丈夫だったの!?」
「っ、いきなり気絶して、それで、ほんとうに……む!」
「……っ、わ、私変な拭き方しちゃったよね、本当にごめん、これで死んじゃったら私……っ!」
2人はかなり取り乱しているような様子だった。
「大丈夫……では無いんだろうな、今は夢の中だからなんともないけど、現実だと俺は結構重症なんだろ?」
「そ、そっか、これ夢なのか……う、うぅ、じゃあやっぱり彩斗くんは…………!」
「まぁ、起きれはしないな」
俺がそう言うと2人は悲しみにくれた様子だった。
「やっぱり、私が拭いたから……」
「あぁ、いや、それは違うぞ」
俺はキッパリと否定する。
「多分、あの時の痛みは拭かれたから感じたんじゃなくて、あの紋様が時間差で俺にダメージを与えたんだと思う」
「…………ほんと?」
「あぁ、だから紫恵のせいじゃない」
「…………うぅ、良かったぁ」
紫恵はそういうといきなり俺に抱きついてくる。
うん、まぁ、夢だしね、うん、夢だからね。
「…………紫恵ちゃん、彩斗くん怪我してるんだからあんまそんなことしない方がいいよ」
「え? だけどこれ夢でしょ? じゃあ別にいいんじゃない?」
「…………じゃあ私も」
そう言って命も抱きついてくる。
…………いやぁ、夢っていいね。
幸せに浸りながらも俺はやらなければいけないことを思い出し、2人を引き離そうとする。
……が、一向に離れようとしない。
あれ、おかしいな、このふたりは言ってしまえば夢の中の住人で、夢を操作する力を持っている俺の行動に逆らう事なんて出来ないはずなんだが…………。
俺はもう一度引き離そうとするが、やはりどうやっても離れない。
………まさか、この2人、本物か?
いや、そんな訳ない、そもそも今は昼だし、そんな時に寝たりするはずがない…………いや、もしかすると気絶した?
俺は戦慄する。
まさか、また誰かが俺たちの元へ来て2人を襲ったんじゃ無いだろうか?
「二人とも、今どういう状況か分かるか!?」
「んぇ、彩斗くんに抱きついてるよ?」
命が不思議そうに聞いてくる。
「違う、夢の中じゃなくて、現実の話だ!」
「えー、夢の中なんだから現実なんて気にしなくて良くない? どうせ起きたらなんもなくなるんだからさ!」
「いやいや、そんな訳………あ、まさかお前ら、今俺が『ドリーマー』を使ってる事分かってないのか?」
「「…………」」
俺がそう言うと2人は固まった。
先程まで俺に抱きつくために少しとろんとしていたのにそれがいきなり氷のように固まり着く様はなんだかアニメなどの世界の表現のようでちょっと面白かった。
2人は少しばかり固まったあと、顔を真っ赤にしてスルスルと離れていく。
「あー、えっと、違うの夢だからなんか距離感がバグってたというか!?」
「そ、そう、私もそう」
「はぁ……分かったからとりあえず今の状態を教えてくれ…………まさかまた誰かが襲ってきたとかじゃないよな!?」
俺がそう言うと2人はキョトンとした顔をする。
「え? どういうこと?」
「別に、彩斗くんが気絶しちゃってからは何も起きてないよ? 普通にパトカーと救急車が来て、気絶してた彩斗くんとあの男を病院に連れてっただけだよ」
「だ、だけど、じゃあなんで2人は夢の中の世界に来てるんだ? 今はまだ昼じゃ…………」
昼に寝るとしてもあんなことがあった後に呑気に昼寝するとは考えにくい。
しかも事情聴取とかもされるわけだし、流石にその時に寝るとは考えられない。
しかし、2人は何を言っているか分からないと言った様子でこう返す。
「え? いや、今は普通に夜だけど…………」
「…………え? いやいや、俺が気絶したのは昼だろ、だったら今は昼のはずじゃ?」
「うーん、分かんないけど、私達は彩斗くんの寝息が安定してから寝たから…………もしかしたら『ドリーマー』もその時辺りから使われ始めたんじゃないの?」
「…………確かに」
よく考えてみればこの夢を見始めた時は本当の夢のように曖昧な状態が続いていた。
そうなれば、『ドリーマー』はある程度体が健常出ないと使えないということなのか…………ひとつ検証が出来たな。
『月面都市への歩き方』
https://ncode.syosetu.com/n8111kl/
短編書いてみました、良かったらぜひ。




