115話 女の子っぽい
その日の夜、俺は紫恵パパと、命は紫恵と寝る事になった。
流石に部屋は別れているみたいだし、男女別に分けた為順当といえば順当なのだ。
そう、紫恵パパは男なのだ。
どう見ても見た目はとても綺麗な女性だが、それでも身長は明らかに高い。
俺とは頭一つ分ほど身長が違うんじゃないかと思う程である。
別に身長が高い女性なんていくらでもいるし、紫恵パパが身長的に男性だとわかる訳ではい。
だが、寝巻きになり、少し体のシルエットが分かるようになると、その体が確かに男性のものということが分かるようになる。
「…………なんて言うか、彩斗くんは本当に男の子なんだよね?」
「えぇ、まぁ、そうですけど」
俺も彼と同じく見た目だけならどう見ても女の子だが、れっきとした男である。
「えっと……それはその自称男みたいな、えっとなんだっけ、その、性自認が男性とかそういうのではなくちゃんと肉体も男の子なんだよね?」
「……そうですよ、どうかしたんですか?」
失礼な、俺はちゃんと男だ。
というか、ちゃんと俺の体を見てみたら分かるだろう、俺だってあなたと同じく体はちゃんと男で…………。
「………いや、その、ね、僕にはその、彩斗くんの体って結構女の子っぽいように見えるから……」
「…………」
俺は無言で紫恵パパの部屋に置いてあった姿見の前に立つ。
そして、スルスルと服を脱ぎ、トランクス1枚になる。
…………あの、紫恵パパ、その手で目を隠しながらひゃーって言うのやめてください、可愛いんで。
というか、その隙間からこっち見てるのバレてんぞコラこのエロ親父が!?
俺はそれもあってか自然と自分の胸に手を当てて隠してしまう。
姿見に写っていたその姿は……ちゃんと女の子だった。
胸も無いし一応男性特有のあれも付いている。
だが、なんというかその体のしなやかさというか、曲線が女性っぽいのだ。
腹筋は割れているし、体には適度な筋肉がついているが、それも男性のようなごついものではなく、どちらかと言えばスレンダーという言葉が当てはまる感じであった。
「……………確かに女の子に見えなくもないですが、俺はれっきとした男ですよ……最悪あれを見せれば良いんですけど……そこまでは求めないですよね?」
「あぁ、うん、もうだいたいわかったから大丈夫だよ! 一応さ、いい年したおっさんが女子高生と寝るってなったら流石に色々とまずいから聞いただけだからさ…………ほら、いくら僕だとしても何も無いとは限らないからさ」
あの、それはこっちのセリフなんですけど。
どうやら紫恵パパはメイクで少し顔をカワイイ系に寄せているようで、それが外れた瞬間凛とした雰囲気を纏ったクール系美女に一瞬にて変貌したのだ。
これには流石に驚いたし、なんというか、どっちでもありだなと思ってしまった。
紫恵のお父さんということもあって年齢もそこそこいっているはず、というかさっき自分でも自分のことをおっさんと言っていたぐらいだしかなりの年齢のはずなのにその肌は非常にきめ細かく綺麗だし、メイクを落としてなおその美形さは一切衰えていない。
つまり何が言いたいかと言うと…………紫恵パパが何か変な気を起こしてしまう前に俺の理性がとんでしまうかもしれないということだ。
だが、それを面と向かって本人の目の前で言う訳にはいかない。
この前紫恵に変な事は絶対にしないと言っていたくせにここでそんな理性のなさを露呈させるような言葉を放つ訳にはいかないのだ。
よって俺は少し冷めたような回答をするしか無かった。
「はぁ、まぁ、別に男ですし、変な事とか言っても特に大丈夫ですよ、それにあなたがそんなことするような人だとは思ってないですしね。」
「………そうか」
紫恵パパは、俺の言葉に安堵したように小さく息を吐いて、ベッドに腰を下ろした。
「いやあ、、僕、最近は色々気にしなきゃいけない歳になってきたからさ……なんかあったら冗談抜きで訴えられそうだしね」
軽く笑いながらも、彼の言葉には妙なリアルさがあった。
大人の余裕というか、達観というか。
俺はそれに釣られて小さく笑う。
「でもまあ、安心してください、僕は結構強いんでね、何かあっても何とか出来ますよ」
「うん、それも助かる、っていうか彩斗くん、意外と筋肉あるんだね」
紫恵パパは俺の腕をツンっとつつく。
まだ俺が女の子なのかもと疑っているからなのか少しおっかなびっくりといった感じだった。
俺は自分の腕を少し力を入れてトントンと叩いてみる。
うん、昔と比べると見違えている。
「ま、少し鍛えてますからね」
「……鍛えててその体型なのか……羨ましいね」
紫恵パパは自分の体を見た。
「なんというか、僕はどうやっても男らしい体つきになっちゃうからさ……僕の理想とはちょっと違うんだよね」
「……そうなんですね」
どうしてそういう見た目をしているのか、それを聞いてみたかったが、流石にそれを聞くことは出来なかった。
そのまま俺たちは互いに少し緊張しながらも眠りについた。




