10話 理容院に行ったら女の子になった件(?)
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髪:絶対に理容院に行った方がいいです
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ん? なんだこれ。
もしかして『ビューティーコンサルタント』が俺にアドバイスをしてきたのか?
ふむ、理容院に行った方がいいと?
そうは言いますがビューティーコンサルタントさん、ちょっと俺の経済状況も考えてくださいよ。
できるだけ多く超能力を獲得するためにももっとお金が必要なんですよ、その為にそんな所にお金をかけるなんて出来ないのですが…………。
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髪:格安の所ではあなたに未来はありません
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おいおい、格安の所馬鹿にすんじゃないよ。
確かに高い分理容院の方が髪を洗うサービスだったり顔剃りだったり色々してくれるらしいけどさ、別にちょっと髪を切ったりする位だったら安い方が良いだろうさ、別に技術的に下手なわけじゃないんだからさ。
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髪:理容院だと新たな扉が開けるのです
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…………ふむ、つまりどちらも悪いところでは無いが、理容院だとまた別のいい事があると、そういう事だね?
その後特に俺の頭に新しい情報が入ってくることは無かった。
沈黙の肯定と言うやつだろう。
はいはい、分かりましたよ、行けばいいんでしょ行けば。
とりあえず俺はさっきまで調べていた散髪屋ではなく、理容院について調べることにした。
まぁ、行くんだったら評判がいい所がいいだろう。
マップアプリで近所の中で1番口コミの良い理容院を探す。
…………ふむ、2980円か。
元々行こうとしていた場所の約3倍程の価格だ。
ま、超能力様がこっちにしろと言ってるんだ、本当に行っておいた方がいいのだろう。
今まで使った超能力は全て良い性能のものばかりであった、だからといってこの『ビューティーコンサルタント』が必ずしも良い性能だとは限らないが、少なくともある程度の信用はある。
かかると言っても百円の恵みで帳消しにできるレベルの金額だし、ちょっとくらい良いだろう。
しばらくして朝になり、俺は理容院へと向かった。
理容院の自動ドアが「ウィーン」と音を立てて開いた瞬間、独特なアロマの香りが鼻をくすぐった。
く、場違い感が半端ねぇぞこれ。
店内は明るく、観葉植物やおしゃれなインテリアが配置されている。
スタイリッシュなBGMがかかっていて、なんだかオシャレな空間に飲まれそうになる。
「いらっしゃいませ」
若い女性スタッフが笑顔で出迎えてくれるが、俺は妙に肩に力が入っていた。
予約していた名前を伝えると、すぐに案内される。
鏡の前に座ると、担当の理容師がやってきた。
長身の女性でとても綺麗な人であった。
少し低めの声をしていて、どこか落ち着いた雰囲気だ。
「こんにちは、今日はどうしますか?」
「あ、あの……えっと、その僕に似合う感じの髪型に何となくしてください、はい、文句は言わないので…………」
「……ふふ、かしこまりました」
そう言って、理容師は手際よく俺の髪をチェックする。
その間も、『ビューティーコンサルタント』からの新たなアドバイスが飛んでくるのではないかと、心の中で少しソワソワしていたが……特に何も無い。
カットが始まる前にまずは顔剃りから始めていく。
理容師さんの眉毛整えていいですか? の問いに間髪入れず、はい、お願いしますと答える。
温かいクリームを顔に塗られ顔中の毛を剃られていく感覚はなんだかとても気持ちが良かった。
カットが始まり、ハサミのリズミカルな音が耳に心地よい。
慣れた手つきで髪を整えていく理容師に、次第にリラックスしていく俺。
「うん、髪ですね、頭の形は良いので…………うん、こうすればきっと可愛くなりますね」
この理容師さんはかなりおしゃべりな方……というか独り言が多い方だった。
途中でシャンプー台に移動し、丁寧に頭を洗われると、これが思った以上に気持ちいい。
あれ、これ思ったよりもありかも?
そんな風に思っていた。
最後の仕上げが終わり、スタイリングまでしてもらうと…………。
鏡の中には、見違えた俺が映っていた。
「お、ぉお……?」
思わず声が漏れる。
綺麗にサラッとした後ろ髪。
眉毛と目の辺りで綺麗に揃えられた前髪。
「すごく似合ってますよ」
「あ、え、はい」
理容師の言葉に困惑しながら、俺は軽く会釈した。
俺は驚きのまま少し固まってしまっていた。
だって、鏡には…………。
女の子が映っていたからだ。
いや、まぁ、まだ中性的な感じの男の子にも見えなくは無い。
だが、少し伸びた髪を切るだけでここまで女の子っぽくできるものなのか!?
好きなようにしていい、文句は言わないなどと言ってしまった以上、俺が何か言える権利は無い。
だが、これは無いだろうと思い、さすがに何か言おうとするも、こんな明らかな陽のオーラを漂わせている人にそんな事を言う勇気なんか俺には無かった。
結局俺は何も言わずにお金を払って退店した。
ちなみに黒飛も髪長いです




