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【超短編】高給取りに密着

作者: おでん職人

おでんとは、世界のすべてである。この俺、おでん職人であるこの俺はおでんの残った出汁を飲むのが仕事だ。

 え?「なぜそんな仕事をしているのか」だって?そりゃあお前、割がいいからだよ。

 おでんの残り汁。あれな、めちゃくちゃもったいないだろ。だからあれを残さずに飲んでくれる人材が今キテルんだよ。っていうのをたまたま入った居酒屋のじじいに言われた。知らねぇよ。って感じだ。でもな、時給換算6000円。割が良かった、だから始めた。

「でもおでん職人とか語ってるくせに出汁飲むだけなんですね」

 こいつインタビュアーのくせして痛い所ついてきやがる。そうだよその通りだ。最初にこの職場に来たときはマジでびっくりしたよ。なんせ、募集要項がおでんを食べたことがない人。なんだから。そんでもって、その上で出汁だけ飲んどけってことらしい。具を食べたらだめな理由でもあるのだろうか。

「素人意見で恐縮ですが、職人語るんだったらおでんの具を食べてからにしてください。それじゃ職人語れませんよ。」

 職人か。そもそもおでん職人とか言い出したのうちの店主なんだよ。おれじゃない。だから俺もなんでおでん職人なのか自分でも分かってない。職人とかこっぱずかしくて自分から名乗れるわけない。まじで誰だよおでん職人とか言い出した輩は。そうだよ、店主だよ。

「では一度食べてみますか。今、ここで。おでんを。」

 こいつ、頼んでもないのにいきなりおでんの注文始めやがった。おでんなんて毎日飲んでる出汁で十二分に満足してる。これ以上俺に時間外労働させないでほしい。そもそも急に押しかけてきてインタビュー始めた挙句、おでんの具を俺に食わそうとしてくるのは一体どういう了見だ。反省しろ。そんで二度と面見せんなって追い返してやりたい。と、そうこうしてるうちに到着するおでん。

 「来ましたよおでんの具が。」

 いやだね食いたくない。そんなもん食っちまったら二度とおでん職人名乗れないじゃねえか。出汁だけ食ってるからおでん職人なんだよ。

「ほら、残飯処理職人さん。グダグダ言ってないで食べますよ。はい、あーん。」

 20分くらいごねても駄目だったので渋々食うことになった。

 ほうほうこれは……。この舌ざわり、食感、まるで熱々のたこ焼きを食べてるかのような熱さ。なるほど、これは人生初おでんに期待しすぎたな。うーん、いやなんだろう。なんかクソ微妙。暑すぎて味もよくわからん。

 別にまずいわけではないが、只々いつも飲んでる出汁の味がついた食材でしかなかった。

 「どうでしたか?私にあーんされて。」

 なんつーか……微妙だな。別に可もなく不可もなく、ただ俺が毎日のように飲んでる出汁が固体になったみたいな。

 ん?いや待てよ。これってつまりさ。おでんって結局出汁が全てで、実際のところおでんの具がおいしいわけじゃなくて、()()()()()()()()おでんが成り立ってるってことだよな。

 「普段食べてる出汁よりおいしかったですよね。ねえ。」

 おでんで真に重要なのは具などではない。そうだ、出汁だ。こいつがすべてだったんだ。

 今の俺の生活がおでんの出汁に懸かっているように、おでんにとっても出汁がすべてだったんだよ。

 そうか、だからか。だから俺は()()()職人なのか。この道三年でようやく俺自身が報われた気がした。かなり割の良い仕事なのに、充足することのなかった俺の三年間が一気に現実に追いついた感じだ。

 「だーかーらー!聞いてますか!?私の話!」

 おう、美味かったよ。いつもより。何倍も。

 おでんで火傷でもしたのだろう。女の顔は赤く染まっていた。

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[良い点] サクサク読める。 [気になる点] 恋の行方ときっかけ。 [一言] ブラボー......おお!ブラボー!!!!
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