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♯8 トルトニスからの留学生


「カルロ・ヴァンの情報ね、いいわよ」


 学園の授業を終えた放課後、イスカは親友のカメリアとカフェテリアでお茶をしていた。

 カルロ・ヴァンの話題になったのは、カメリアがどこからか夜会の件を聞きつけていたからだ。

 本当に人の口は塞げないものだ。


 ――まぁ、カメリアがそういう情報の収集が得意、という事もあるのだが。


 念のために聞いてみれば、ほとんどの者達の間では、夜会の話題は出ていないと彼女は教えてくれた。

 つまりカメリアが普通ではないのだ。この情報収集能力の高さには、リブロやクルツも一目を置いている。

 カメリアは懐から手帳を取り出すとぺらぺらと捲り始めた。


「トルトニスからの留学生で、歳は十七。私達と一緒ね。好きな食べ物はチキンカレー、苦手な食べ物はレモンパイ、誕生日は六月七日。座右の銘は愛には愛を、逆には逆を」


 何だか嫌な座右の銘を聞いた気がする。

 解釈をすると人は鏡、みたいな感じだろうか。

 まぁそれはそれとして、カメリアは意外と細かいプロフィールまで把握しているようだ。


「あとはそうね。彼のお姉さんが、トルトニスのアーリヤ姫の侍女をやっているらしいわよ」

「アーリヤ姫の? なるほど……」


 そうなると先日の仮定が有力になってくる。

 アンジェリカを唆したのがアーリヤ姫のため、という辺りだ。


(けれども姉か)


 その場合、カルロの行動に三パターンほど考えられる事がある。

 一つ目はカルロの姉がアーリヤ姫に心酔していて頼まれたパターン。

 二つ目はカルロの姉がアーリヤ姫に脅されていて従っているパターン。

 三つ目は単純にカルロ自身に何かしら利があるから行動しているパターン。


(そのくらいかな)


 もっと細かく分ければまだ増えるが、大まかにはこの三つだろうか。

 出来れば二つ目の可能性だけは除外されれば良いなと他人事ながらイスカは思う。


「アーリヤ姫とカルロさんのお姉さんの仲は良いのかな」

「どうかしらね。その辺りは分からないけれど、前に来た時にも連れていたらしいわよ。あーあ、その時、直接見たかったわ」


 残念そうにカメリヤは言う。


「見たかったの?」

「ええ、そうよ。自分の目で見て調べて情報を精査する。それが情報屋の基本だわ」


(いつから情報屋になったんだろう)


 そう思ったが、よくよく考えてみれば、彼女から情報を貰う代わりにカフェテリアでお茶とお菓子をご馳走している。

 なるほど、確かに情報屋かもしれない。

 ついでに将来そう言う道に進みたいという話は聞いていたので、イスカはツッコミを入れるのをやめた。


「そうそう。一つ不確かだけど、ある噂は聞いたわよ」

「何?」

「アーリヤ姫に他の国から縁談が来ていて、それを嫌がっているって噂」


 イスカは、おや、と目を瞬いた。


「どこから聞いた噂話?」

「クラウンナッツのエリンさん」


 クラウンナッツのエリンと言えば、ノービリスで有名な貿易商の跡取り娘だ。

 イスカ達より五つ年上の二十二歳。かなりのやり手だと聞いている。


「君は本当に知り合いが多いね。助かるよ、ありがとう」

「いいのよ、私とイスカの仲じゃない」


 うふふ、とカメリアは微笑む。

 同い年だが、こうして笑うとちょっと妖艶な雰囲気もあって年上に見える。

 このくらいの大人っぽさがあれば、リブロとの仲の事も、もう少し言われなくなるかなぁとイスカは思った。


「それにしてもリブロ様は本当にモテるわねぇ。本人はイスカ以外にモテたくないところも含めて難儀だわ」

「リブロ様からどうしてこんなに好かれているのか、自分でもよく分からない時があるけどね」


 そう言ってイスカは小さく笑う。

 イスカはリブロの事が好きだ。

 最初に会った時は「顔が良いな」以外は特に何とも思っていなかったが、交流を深めて行く間に好きになったのだ。

 イスカは七歳の時からずっとリブロの事を見ている。

 優しいところも、嫉妬深いところも、年相応な感性を持っているのに第三王子という事でそれを出せずにいるところも。イスカは彼の色んな面を見て、触れて、そうして好きになったのだ。


 だがリブロはどうだろう。

 彼が自分を好いてくれる事は確かだ。それは分かる。

 けれどもあんなに真っ直ぐに、そしてやや重めの好意を向けられる理由やきっかけが、イスカには今一つ分からないのだ。


「あんた、それ絶対にリブロ様の前で言っちゃダメよ」


 するとカメリアが、がし、とイスカの肩に手を置いた。

 そしてとても真面目な顔でイスカに言う。

 おや、とイスカは首を傾げた。


「どうして?」

「リブロ様が傷つくだろうし、何なら変な風にこじらせるから。本当よ、ダメだからね?」


 さらに念を押されてしまった。ダメらしい。

 こじらせる――という辺りがよく分からないが、リブロを傷つけるのは本意ではないので「分かった」とイスカは頷いた。

 するとカメリアが大きなため息を吐く。


「これは一度、ちゃんと本人から言わせた方が良いな……」


 ついでにそんな事も言っている。

 ――よく分からないが、まぁ、とりあえず。

 カルロ・ヴァンの情報は得られた。なのでリブロのところへ報告に行こうと思いながら、イスカは紅茶を飲んだ。


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