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♯3 色々と危ない(主に人)


「……という事がありまして、皆さんからたくさんのプリンをいただきました。美味しかったです。今日は良い日ですね」

「イスカは物事の着眼点が少しずれている気がするよ」

「着眼点……今日のプリンは蒸しプリンでしたよ。リブロ様はプリンは蒸しの方がお好きでしたよね」

「そうなんだけど違うんだ。そう言う事じゃありません」


 放課後、イスカはリブロを訪ねて生徒会室を訪れていた。

 理由はリブロがこのノービリス王立学園の生徒会長だからだ。

 この学園に入学した王族は生徒会に入る事が義務付けられているのである。

 そして二年生からは必ず生徒会長を任される事になる。この辺りは王族への教育の一環らしい。


 けれども学園の授業の他に王族用の教育もあり、そこへ生徒会の仕事が追加である。

 その間を使ってイスカとの交流の時間まで持ってくれる。

 そうなるとリブロはいつ自分の時間を取っているのだろうか。

 リブロが過労で倒れないかと、さすがのイスカも心配になった。

 なので自分は生徒会の人間ではないが、たまにこうしておやつの差し入れを片手に、リブロの様子を見にお邪魔しているわけである。


「むしろ来てくれると会長のやる気が出て仕事が捗るのでありがたいです!」

「何なら毎日でも大歓迎です!」


 何て生徒会の人達から言って貰えているので、気兼ねなく来る事が出来てありがたい。

 最初の頃は「気を遣われているのでは」と思っていたがそうでもないのが分かったので、イスカもひょいひょいお邪魔している。


 さて、そうして持って来た差し入れだが、今日はプリンにしてみた。

 カフェテリアで昼食を終えた後に、何故か学生達がイスカにたくさんのプリンをご馳走してくれたのだ。

 学園のカフェテリアのプリンはちょっとお高いが美味しいと評判で、イスカには実に幸せなひと時だった。

 そしてその時これはぜひともリブロ達にも食べさせたいと思い、放課後に取りに来るのでと用意して貰ったのである。


「やったー! あたし達にまでありがとうございます、イスカ先輩!」

「カフェテリアのちょっと良いプリンじゃないですか、最高!」

「リブロ様が生徒会長になって一番良かった事がイスカさんの差し入れです。ありがとうございます、会長!」


 微妙に不敬な発言が混ざった気がするが、生徒会の人達はイスカの差し入れを喜んでくれた。

 イスカはリブロの顔の次くらいに、こういう笑顔が好きだ。

 なのでにこにこしていると、リブロが「うーん」と唸る。


「私に会いに来てくれた時よりも笑顔な気がする……」

「嫉妬深い男は嫌われるよ、生徒会長サマ」

「ぐっ」


 そして副会長クルツからツッコミを受けていた。

 仲が良くて何よりである。


「ハァー、それにしてもアンジェリカさんの事は困りましたねぇ」


 書記のミレナが、片手にスプーンを、片手にプリンを持ちながら、ため息を吐いて言う。


「確かに学園内でも会長とイスカさんは婚約を解消すべきみたいな話は出ているんですよ」

「そうか……よほど魔術セメントで口を固められたい生徒がいるようだね……」

「憂い顔で言えば何でも許されると思うなよオイ」


 ハァ、とクルツがため息を吐く。

 クルツはリブロの幼馴染かつ一つ年上という事もあって、彼に冷静にツッコミを入れられる貴重な人材である。

 イスカも彼との付き合いはそこそこ長い。

 ちなみにクルツは学園卒業後はリブロの補佐官になるらしい。


 まぁ、それはそれとして。

 クルツの反応を見る限り、リブロはこちらでも魔術セメント発言をしていたらしい。

 ただ言ってはいるがリブロは本気ではないだろう。

 彼が本気でそう思った時は、宣言をせずにやっているはずだからである。


(あれはリブロ様と出会った頃だったな……)


 ふと昔の事を思い出す。

 イスカがリブロと出会ったのは、今から十年ほど前の事。二人が婚約したばかりの七歳の頃だ。

 とあるお茶会に参加した時に、リブロの婚約者の座を狙う家の子が魔術で、イスカに頭上から水をかける悪戯をしたのである。

 ずぶ濡れになればイスカは帰るだろうと浅慮な作戦を立てたのだ。その場にいたメイドたちが青い顔をしていたので、後でとても怒られた事だろう。

 替えの服なんて持ってきていなかったイスカは「まぁいっか」と帰ろうとしたところ、


「じゃあ皆ずぶ濡れになれば、別にイスカだけが帰らなくてもいいよね」


 とか何とかリブロが言って、同様の魔術を使って自分を含めた参加者全員をずぶ濡れにしたのである。

 ちなみにその水はイスカと同行していた護衛だけは避けていた。実に器用な事である。

 その後はもちろんリブロも含めて怒られたのだが、


「リブロ様、あなたは一体、何をなさっておいでですか!?」

「ごめんね……。でも私はイスカだけが帰ってしまうのは悲しくて……。こうしたら私もイスカに付き添えるかなって……」


 彼は憂い顔を浮かべてそんな理由を述べていた。

 その時は婚約者と離れたくないかわいらしい理由だし、そもそも最初に魔術を使った子の方が問題であったので、軽い注意だけで済まされたが。

 ちなみに大人達が事情を聞き終わった後で、


「ねぇねぇイスカ。君の服をびしょ濡れにさせてしまったお詫びに、一緒に服を買いに行かない? 時間も出来てしまったし。あ、そうだ、私が見立ててあげるね」


 なんて笑顔で言って来たので、イスカにはあれは絶対に仕返しをしただけだと分かった。

 そもそもイスカをびしょ濡れにしたのはリブロではないのだが。


(しかし素晴らしい。やられたらやり返すを地で行くところがとてもお顔も含めてとても素敵。でもたぶんリブロ様は外交には向いていない)


 当時七歳のイスカはタオルで髪を拭きながら、冷静にそんな事を考えていた。

 ちなみにそのタオルがふわっふわで手触りが最高だったので、それ以降イスカは家族の分も含めてずっとそこのメーカーにタオルを注文している。


 さて少し話が逸れたが、そういう感じでリブロは本気で『やる』と決めたらやる人間なのだ。

 なのでまだやっていない所を見ると、まだ冗談半分で留めている――のだとイスカは思う。

 リブロにもちゃんと理性はあるし、この国で私刑は罪である。

 なのでたぶん魔術セメントで口を固めるなんて事はしないと思う。

 たぶん。


「っていうかね、そんな事をしたらイスカとはマジで婚約解消になるからな? やるなよ? 絶対にやるなよ?」

「期待しているところ申し訳ないのだけど、それが嫌だからやらないんだよ」

「何で俺が期待している話になってんのかなっ? いいぞやれやれなんて言った?」


 クルツは半眼になってリブロを睨む。

 まぁ、いつものやり取りである。

 イスカがくつくつ笑いながらそれを見ていると、


「イスカがリブロの婚約者でいてくれて良かったよ。イスカのおかげでリブロの犠牲者が確実に減ってると思う」


 とクルツから感謝された。

 予想外の事で褒められてしまった。


「それは何より。この国に生きる人間はすべからく宝だからね」


 胸に手を当てにこりと微笑と、


「この発言が何で王族(リブロ)から出ねぇんだ……」

 

 クルツはそう呟いていた。

 まぁリブロも言う時には言う気がする。


「でも気を付けた方が良いですよ。アンジェリカさんというか、ライト家はずっと会長の婚約者の座を狙っているんでしょう?」


 そうしていると会計のロマが、頬に手を当てておっとりとそう言った。


「アンジェリカさんは分かりやすいから良いですけれど、彼女の親族が何かしてくると危険です。…………あちらの親族の身の安全が」


 そしてちらりとリブロを見ながら、そう続ける。リブロはにこっと微笑んでいた。

 ……まぁ、確かに危険である。

 しかしライト家もそこまで考え無しではないので、大丈夫だろうなとは思うのだが。

 けれども心配してくれた気持ちが嬉しい。


「ありがとうございます、ロマさん。その時は私で完結出来るようにしますね。大丈夫、何か仕掛けて来た人は無事には返します」

「やめて! そういうんじゃないから! 何で変なところ似ているんだこの二人っ!」


 きりっとした顔で言うイスカに、クルツが堪えきれなくなったようにツッコミを入れたのだった。


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