表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
周囲から婚約解消を迫られていますが、私達の仲はいたって良好です。  作者: 石動なつめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/30

♯16 意外と人気者


 翌日、イスカは雷虎を連れて学園に登校した。

 家に残しても良かったのだが、本人が食事と寝床の対価として協力すると言ったので、その関係だ。

 学園長と教師陣、騎士団などなど、各方面に許可を取って連れてきている。


 ちなみに雷虎に対しては封印しなければならない敵という認識にはなるが、彼自身の性格もあって、そこまで悪い関係ではない。

 何なら許可を取るために連れ歩いていた時に、年配の教師や騎士達が楽しそうに昔話に花を咲かせていた。

 不思議な関係である。

 気になったのでイスカが聞いてみると、


「雷虎って魔力が発散されないと、狂暴化するんですよねぇ」

「封印が解けた時はその一歩手前だから、やたらと好戦的なんだよな」


 という事らしい。

 定期的に魔力が発散出来れば雷虎も落ち着いていられるようだ。

 そして戦いで魔力を発散するのが一番手っ取り早いらしい。雷虎も戦いは楽しいと言っているので、それに落ち着いたのだろう。


(何か別の方法があれば、雷虎も常に封印しなくて良いんだろうな。何かあの雷を上手く使える方法は……)


「わあっ! イスカさん、その子どうしたの?」


 そんな事を考えながら自分の教室へ入り席に着くと、雷虎を見たクラスメイト達がワッと集まって来た。


「雷虎だよ。諸事情で小さくなっちゃっていてね」

「えー! この子が雷虎なの!?」

「やだ、かわいー! 子猫みたいだね」

「ふわふわしてる……」

「ねぇねぇイスカさん、この子を撫でても大丈夫?」


 イスカが説明をすると、クラスメイト達は小さくなった雷虎を見て、きゃいきゃいと楽しそうにはしゃいでいる。


(うん、かわいい)


 小さくなった雷虎もだが、クラスメイト達もかわいい。

 雷虎も、


『うむうむ、ぞんぶんに撫でて良いぞ~』


 とご満悦である。こうして見ると本当に子猫のようだ。

 雷虎も何だか優しい顔をしている。孫を見る祖父という言葉が一番合っているだろうか。

 大体いつも好戦的な顔しか見ていなかったので新鮮だ。

 なのでほのぼのとした気持ちで眺めていると、


「イスカさん、いらっしゃいますか?」


 と、誰かから呼びかけられた。

 顔を向けると教室の出入り口から、ひょいとカルロ・ヴァンが顔を出している。

 どこか心配そうな顔だ。


(これは雷虎の件っぽいな)


 そう思いながらイスカへ雷虎を視線を送る。

 雷虎はカルロの方を見て、その青い目を細めた後、小さな手でちょいちょいとイスカの腕を軽く叩いた。

 連れて行けという事らしい。言葉を発しなかった辺り少し警戒しているようだ。

 イスカも黙ったまま腕に雷虎を抱くと、席を立ってカルロの方へ向かう。

 人目があった方が良いと判断したので、イスカはそのまま教室の入り口で対応する事にした。


「こんにちは、カルロさん。どうしました?」

「こんにちは。……その、昨日の騒ぎの件を聞きまして。イスカさんが現場にいたと聞いて、いてもたってもいられなくて。大丈夫でしたか? お怪我はされていませんか?」

「ご心配ありがとうございます。ご覧の通り無傷ですよ」

「良かった……」


 カルロはホッと息を吐く。

 これが演技ならだいぶ上手いなとイスカが考えていると、腕の中の雷虎が『みゃーん』と鳴いた。


(子猫の鳴き声上手いな)


 気を惹くためだろうか。

 かわいらしい声で鳴く雷虎にイスカは目を丸くした。

 この雷虎、見た目に合わせて自分の魅力を上手く使いこなしている。


(これが処世術という奴だろうか)


 古い時代の生き物も大変だなとイスカは思った。

 するとカルロが雷虎に目を向けた。


「あ、かわいい子虎ちゃんですね。この子、どうされたんですか?」


(……子虎ね)


 ふむ、と思いながら、イスカは


「ええ。一時的にうちで預かる事になりまして」


 ひとまず、そんな曖昧な返答をする。

 カルロは「そうですか」と、にこっと笑って雷虎に顔を近づけた。


「初めまして、子虎ちゃん。仲良くしてくれると嬉しいな」

『…………』


 しかし雷虎はそんなカルロを見上げたあと、くあ、とあくびをして目を閉じる。

 今度は寝たフリだ。

 気を惹いておいてコレである。猫の気まぐれさをよく表現している。

 ――というのはまぁ置いておいて。

 雷虎はカルロと言葉を交わすつもりはないようである。


「あらら、嫌われちゃいましたかね」

「そんな事はないと思いますけれどね。気まぐれなんですよ、この子」

「そうだといいな。……あ、そろそろ次の授業だ。すみません、急に押しかけて」

「いえいえ。改めて、ありがとうございます」

「ふふ。それでは失礼します」


 カルロはそう言って軽く会釈をして帰って行った。

 周囲へのアピールかどうかは知らないが、相変わらずマメな人物である。

 こういう人物がモテるのだろう。

 そう思っていると腕の中の雷虎がぱちりと目を開けた。


『行ったか?』

「うん。君の事、子虎って言っていたね」

『うむうむ。なかなか良い目(・・・)をしているではないか』


 含むように言う雷虎。褒めているような口調だが完全に嫌味である。

 ああ、これはカルロを嫌っているなとイスカは思った。


(雷虎の封印が解けたのは昨日。元の雷虎の姿は、それなりの学生達が目撃している)


 だから雷虎が現れた事は、その時ノービリス王立学園にいたほぼ全員が知っている。

 けれども、その後は近づいて怪我をしないようにと、教師達によって人払いがされていた。

 だから小さくなった雷虎の姿を見た者は、ごく一部を除いていないはずなのだ。

 それをカルロはひと目見ただけで「子虎」と断言した。

 クラスメイト達だって最初に見た時は「子猫みたい」と言っていたのに、だ。

 ひと目で判断出来るのは動物や魔獣に詳しい人間か、どこかで情報を仕入れていたか、昨日の騒動を実際に見ていたかの何れかの理由になる。

 先ほどの彼の発言だけでは断定は出来ないが、


(あの炎の魔術……)


 雷虎はあれを恋の神――トルトニスの人間の魔術だと言った。

 カルロ・ヴァンはトルトニスからの留学生である。

 となると、三択の中で一番可能性が出てくるのは三つ目のアレだ。


「雷虎、どうだった?」

『ああ。恋の神の加護持ちの匂いがしたのう。甘ったるくて我は好かん。後は何かで魔術を使わせる事が出来れば、一発なんじゃがな』

「魔術か……」


 雷虎の言葉にイスカは考える。

 仮にカルロが炎の魔術を使えたとしても、よほどの事がなければ人前で行使はしないだろう。

 とすると、恐らく使えるであろうもう一つの魔術を使わせるのが一番だろうか。

 けれども。


「うーん。方法はあるんだけど」

『どうした?』

「リブロ様の機嫌が悪くなりそうだなと思って」


 魔術セメント対策しないとかなぁと思いながら、イスカは自分の席へと戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ