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♯13 パウンドケーキに鑑定を


 それからもイスカはカルロに延々と絡まれる事になった。


「あ、イスカさん。お昼、一緒に良いですか?」


 とカフェテリアで向かいの席に座ったり。


「イスカさん、綺麗な花を見かけたので、良かったら」


 と薔薇の花束を渡されたり。


「イスカさん、トルトニスのお菓子を作ってみたんです」


 とココナッツを使ったパウンドケーキを渡されたり。

 まぁとにかく会うたび会うたびそんな調子だ。


(マメだなぁ)


 渡されたパウンドケーキの箱を見ながら、イスカはそんな風に思った。

 さて、それにしても、このケーキをどうしたものか。

 花はともかく、食べ物に関しては毒物を警戒して下手に口に入れられない。

 けれども食べ物を粗末にもしたくない。

 というわけでとりあえず異物や魔法が混入されていないかを調べて貰うために、放課後にイスカはクルツのところへやって来た。

 まぁ、いつも通り生徒会室である。

 今日は他に書記のミレナがいた。


「ほい、鑑定終わり。特におかしなもんは何もないな」

「それは何より。ありがとう、クルツ」

「いやいや。……しかし律儀だねぇお前も」


 鑑定の魔術を終えたクルツはそう言って苦笑する。


「食べ物は大事にしないとね。そこに手を出したら軽蔑するよ」


 食べ物を粗末にしない、それがイスカの信条だ。

 だから食事や飲み物に毒を混ぜたりする行為をイスカはとても嫌っている。

 もしカルロが何かしていたら……想像した瞬間イスカの目が冷たく光った。

 ひやり、と一瞬空気が冷える。

 クルツが、ひくっ、と頬を引き攣らせた。


「普通に怖いから急にそれ出してくるのマジでやめてくれ。普段が普段だから心臓に悪い」

「え~! そこがイスカ先輩のかっこいいところじゃないですか!」

「お前強いな……」


 元気にそう言うミレナに、クルツが若干感心したような目を向ける。


「だって食事をしている時のイスカ先輩、すっごくかわいいんですよ! 普段がかっこいいのに! ギャップ萌え最高!」

「うちの書記がリブロみたいな事を言い出した。ああいうのは一人で勘弁してくれ」

「フフ。……あ、そうだ。せっかくだし皆でこれ食べない?」


 そう言ってイスカはパウンドケーキを指さした。

 開けてみたら量が結構あったし、どうかなとイスカは聞いてみた。

 すると真っ先に手を挙げたのがミレナだ。


「はいはい! 私、食べたいです、先輩! トルトニスのお菓子って食べる機会あまりないし、興味があります!」

「俺も参考までに食べてみたいな。薬や魔法は何も入ってなかったし」


 そしてクルツも乗り気である。

 トルトニスは隣国ではあるが、その国の料理を頻繁に食べる機会はない。

 ノービリスにもトルトニス料理を出す店はあるが、そう言えばイスカは足を運んだ事がなかった。

 なので余計な心配を取っ払ってしまえば、カルロがくれたお菓子は嬉しい。

 

「それじゃあ切り分けよう。……そう言えば今日は他の人達はまだ来ていないんだね」

「ああ。ロマとスパーノは先生に呼ばれたらしいぞ」

「モニカちゃんは図書館に寄ってから来るって言っていましたよっ」


 ちなみにスパーノは二年、モニカは一年の庶務の名前だ。生徒会役員は彼ら合わせて六人で構成されている。

 

「皆、忙しいね」

「何だかんだでな。イスカもどうだい、生徒会。来年は俺とロマも卒業しちまうしさ。もう一員みたいなもんだろ」

「んー……考えておくよ」


 クルツに誘われイスカは少し考える。

 今の生徒会役員達とは仲が良いし、ここに所属して色々活動するのも楽しそうだ。

 けれども、もっとこう熱意がある人がいれば、その人がやった方が良いとも思う。

 それに自分が入れば「リブロが贔屓で入れた」と文句が出るかもしれないし、その辺りは、来年の様子を見ての方が良いだろう。

 なので今のところ返事は保留にしておいた。

 クルツも「おう、考えておいてくれ」と気楽な調子で返してくれたので、イスカはありがたく思った。


「せんぱーい! 切り分けましたよー!」


 そんな話をしている間に、ミレナがあっと言う間に七等分に切り分けてくれた。


「お、ありがとうミレナちゃん。手際が良いね」

「ふっふーん! お菓子屋の娘ですからね!」


 イスカが褒めるとミレナが胸を張ってそう答える。

 朗らかで元気でかわいい。見ていると自然と笑顔になれるような子である。


「ところで一緒にハチミツ入っていたけど、これかけちゃって良いんかね」

「良いと思うよ。……意外と量多いね?」

「たぶんですけど、これシャラーブってお菓子じゃないですかね。ハチミツとかシロップをひたひたに染み込ませて食べる奴だと思います」


 ミレナはそう言うと、三つだけ別のお皿に乗せて、箱に入っていたハチミツをとろりとかけた。

 そうして数秒待ってパウンドケーキにハチミツが染み込むのを待つ。


「……よし、たぶん良いと思います。それじゃあ先輩方」

「うん」

「おう」


 イスカ達はそれぞれフォークを手に持ち、キラン、と目を光らせる。


「いただきまーす!」


 そして元気にそう言うと、パウンドケーキを食べ始めた。

 南国のフルーツ特有の甘さに、ひたひたにしたハチミツの甘さがよく合う。

 もっと長時間ひたせば、噛む度にじゅわり、と染み出してきてそれもまた美味しそうだ。


「へぇーなるほど、なるほど。ノービリスのお菓子でも応用が出来るかも」

「結構甘いな。でも何か癖になりそう」

「カルロさん、お菓子作り上手なんだね」


 そんな話をしながら三人で食べていると、

 ブワン、

 校舎全体にそんな奇妙な音が響いた。


「あー、出た(・・)か」


 そう言うと、イスカは残りのパウンドケーキを口に放り込み、飲み込む。

 そして「ごちそうさまでした」と手を合わせる。


「それじゃ、ちょっと行ってくるね。リブロ様が生徒会室に来たら留めておいて」

「たぶん先にそっち行っちまう気がするが、分かった。それにしても前から結構空いたな」

「うん。念入りに遊んだからねぇ」


 にこ、と笑ってイスカは立ち上がる。

 そしてパン、と手を合わせ、


(――さて、私のお仕事をやりますか)


 と生徒会室を出た。


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