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♯12 最近やたらと積極的


「おはようございます、イスカさん」

「おはようございます、カルロさん」

「ふふ、イスカさんは今日も素敵ですね」


 あれから数日後。

 イスカが登校するとカルロ・ヴァンからやたらと声を掛けられるようになった。

 しかも妙に親し気だ。

 今までほとんど交流がなかったのは嘘のように、カルロはイスカに近付いて来る。


(これはまた不自然だこと)


 やはり先日のアレは魅了かその類の魔術だったのかもしれない。


(ただ、それにしては慎重さが欠けている)


 アンジェリカの方はまだ調査中だが、もしカルロが実際に魅了か何かの魔術を使っていたとして。

 これまでは周囲に気付かれないように、慎重に立ち回っていたように思える。

 けれども今はどうだ。ここまで大胆に行動をしているとなると、どういう心境の変化があったのだろうか。

 そんな事を思いながらイスカは話を合わせる。


「いえいえ。いつも通りですよ。ですがカルロさんからそう見えるのであれば幸いです」


 にこり、とついでに微笑んでもおく。

 するとカルロの笑みが深まった。

 エキゾチックな雰囲気を持つ彼の笑顔に、近くにいた学生達から「きゃあ」と華やいだ声が上がる。

 カルロはそのままイスカの手を取ると、


「素敵ですよ。あなたに婚約者がいなければ、私が申し込んでいたところです」


 そう言って手の甲にキスをした。

 そのまま彼はイスカの顔を見上げて来る。その目がまた一瞬、違う色に光って見えた。

 とたんに、ぞわわ、と悪寒が走る。

 顔に出そうになったのでイスカは何とか笑顔を固定した。


「ご存じであれば、そういう事は仰らない方が良いですよ」

「この国の方は思慮深いですね。トルトニスでは想いは心に秘めず言葉にしなさいと教わるのです」


 カルロはイスカから手を離すと、そのまま胸に手を当てて言う。

 それから少し眉を下げた。


「ですが、その……ご不快であったら申し訳ありません」

「いえ、お気になさらないでください。国によって文化の違はありますから」

「ああ……ありがとうございます。イスカさんは本当にお優しい方だ」


(……何だかこの微妙な会話のズレ感、アンジェリカさんと近いものを感じる)


 それに今の発言でどうして優しいという評価が出るのかイスカには謎だ。

 謎だが、カルロがイスカの感情を動かそうとしているのだろうな、というのは伝わって来た。

 友情か恋愛感情かは分からないが、そういうものを自分に向けさせようとしている風に感じる。


 まぁイスカにはそちら方面もまるで効かないのだが。


 リブロがイスカを想ってくれているように、イスカもリブロの事を想っている。

 同じだけの気持ちを返せてはいないが、それでも婚約した時からずっとイスカもリブロ一筋だ。

 万に一つでも気持ちが揺れる事はない。

 なのでだいぶ冷静な目で今の状況を見る事が出来ていた。


「そうだ、良かったら今度お茶でもいかがですか?」

「そうですね……。リブロ様も一緒でしたら」

「ふふ、そうですね。……出来れば僕はあなたと二人きりの方が良いですけれど」


(これまた堂々と攻めてくる)


 うーん、とイスカは心の中で唸る。

 こういう時にどういう態度を取るのが一番だろうか。

 そう考えて、


「――――し、失礼します」


 少し動揺したフリをして、その場を後にする事にした。

 くるりと踵を返し、すたすたと足早にその場を離れる。

 背中にカルロの視線を感じながらしばらく歩き、サッと廊下の角を曲がると足を止め、


「カメリア、私の演技はどうだった?」

「なかなか良い感じよ、イスカ。いつものあんたを知っている人間からすれば、ちょっと笑いが出そうになっちゃうけどね」


 そこにいた親友はニッと口の端を上げた。

 ふう、と息を吐いてイスカは彼女と並んで再び歩き出す。


「っていうか、イスカは私が見ている事にいつから気付いていたの?」

「カルロさんに手を取られたあたりかな。楽しんでいるような視線を感じたよ」

「あら、失敗したわね」


 カメリアは楽しそうにくすくす微笑む。


「でも私で良かったわね。リブロ様が見ていたら、ちょっと大変な事になっていたわよ」

「そう? 見ていてもリブロ様は勘違いはしないと思うよ」

「しないだろうけど、嫉妬心は別なのよ。面白くないと思うんじゃないかしらね」


 愛されているわね、とカメリアは言う。

 その言葉に少し気恥しくなって、イスカは指で頬をかいた。カメリアの眼差しが優しくなる。


「それにしてもカルロさんは積極的ね」

「私でもちょっと嫌かなと思うくらいだよ。他の生徒に対してはどう?」

「優しいけれど、もう少し控えめね。さすがに急にああ(・・)はならないわ。……まぁ、恋に落ちたとでも言うんじゃない?」

「ちょうど良い理由があったって事ね」


 夜会の事を思い浮かべてイスカは言う。

 カメリアも軽く頷いた。


「そうね。ま、どこまで計画通りか分からないけど」


 そのままカメリアはイスカの方へ目を向けて、


「でも、気を付けなさいよ。あいつがどうってわけじゃないけど、人はそういう(・・・・)噂が大好きだから」


 と忠告をしてくれた。

 その目に心配そうな色が宿っているのを見て、イスカはフフ、と微笑む。


「ありがとうカメリア。リブロ様が暴走しないように気をつけるよ」


 そう言うと、がくっ、とカメリアがよろけた。

 彼女はこめかみを押えながら、


「そうだけど、そうじゃないのよ。まぁイスカは自分の身は自分で守れる子だけどさぁ」


 なんて困ったように言う。

 よく分からずイスカが首を傾げていると、


「カルロさんと二人っきりになる状況は避けなさい。いいわね?」


 カメリアは、びしり、と人差し指を立てる。

 とりあえず彼女の言葉の意図自体は分かるので、イスカが「分かった」と頷くと、


「……分かったようで分かっていないわね、コレは」


 と呆れたように言われてしまったのだった。


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