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三人寄った  作者: sunnysing
11/12

三人寄った、エスニアの町 ④

 空気が止まった。三人が三人、納得する時間が静かに流れた。


 スージーは、行方をくらませた母に。

 ガロンは、伝説の勇者ソーマに。

 エリックは、愛してやまない人に。


 それぞれ、会いたいのだ。


 目的は違えど、達成したいことは同じ。会いたい人がいる。

 

「なんか、すごい偶然ですねー」


 エリックがふにゃりと笑う。何故だか体の力が抜けて、スージーもガロンも、いつの間にか頬を緩めていた。


「本当ね。三人揃えば、一晩分の宿賃も集まっちゃうし」

「三人寄ればサバイバル生き延びるための知恵、だろ?だから俺達も・・・」

「文殊の知恵、ですねー」


 エリックがやんわりと突っ込む。スージーは小馬鹿にしたように笑い、ガロンは顔を真っ赤にした。


「んなっ!エリックはまだしも、町娘に笑われるのは許せねーっ!」

「ことわざの一つも知らなくて、今までよくやってけてたわね。私だってちょっとしか学校行ってないけど、その分働くために自分で覚えたわよ。あ、分かった。そっち方面がてんで駄目だから、暴れる系に走ったんだ?」


“フフフ”


「くあーっ!何が可笑しいっ!!」


 ガロンは悔しがって地団太を踏む。エリックがそれを宥め、スージーは未だお腹を抱えて爆笑中。


「まぁまぁ、もう夜も遅いですし、ゆっくりと寝ることにしましょう」


“明日は明日の風が吹くって言うしね”


「三人で町を廻って、すぐに次の町へ出発したら何とかなりますよー」


 いつの間にか、三人行動が基本となっている。だが敢えて突っ込むと、せっかくの雰囲気が台無しになるような気がして、スージーもガロンも同意に徹した。


 それぞれ布団を敷き、横になる。一番スイッチに近いスージーが灯りを消すと、部屋は突如暗闇に襲われた。

 真っ先に眠りに落ちたのは、意外なことにスージーだった。すぐさま彼女の一発目の鉄拳が飛び、うとうととまどろんでいたガロンの顔面に激突する。


「うおぉぉ・・・」


 痛みのあまり声も出ず、ガロンは鼻を押さえて呻いた。とりあえず、鼻血の心配はなさそうだ。


「ガロンさん?大丈夫で・・・」


 ゴッ、と鈍い音がして、エリックの声が途絶える。ガロンが暗闇の中目を凝らすと、男として最も大切な場所を押さえ、ぴくぴくと痙攣している黒い影が判別できた。同じ男として、ガロンは深く同情した。


「・・・お前こそ、大丈夫か?あ、そうだ。なんか違う話したら気ー逸れっかもな。教えてくれよ、さっきの言葉の意味。あれもことわざだろ?」


 ガロンにしては気を遣った。しかも、勉学に励む精神まで見せた。個人的にはかなり譲歩している方だから、エリックはきちんと丁寧に答えてくれることだろう。

 そう、思ったのだが。


「あー、あれですか。あのことわざは、平凡な人たちも三人集まれば、すごい力を発揮できる、という意味ですよー」

「それは知ってる」


 ガロンは唸った。


「そうじゃなくて、その・・・えっと、明日の風は明日だ、みたいな・・・なんだっけな?」

「はいー?」


 エリックが横になったまま、首を傾げる布ずれの音がした。ガロンは眉をひそめる。

 俺は何か、変なことを言っただろうか。


「忘れたのか?お前が言ったんだろう。そりゃ確かに今の説明じゃ分かりにくかったかも知れねぇが・・・」

「僕が言ったのは、『三人寄れば文殊の知恵』だけですよー?」

「え・・・」


 ガロンは、血の気がすぅっと抜けていくのを感じた。ひんやりとし夜気をひしひしと感じる。

 エリックは未だに、ガロンの言葉の意味を解釈しようと頭を捻っている。

 となると、さっきのことわざはガロンの空耳だったのだろうか。

 いや、それはない。一応三人の中では一番旅の経験が豊富で、五感も体力も並以上に鍛えてあるのだ。聞き間違いなど、あるはずがない。

 スージーに至っては声も出ないほど笑っていたのだ。

 となると、残る可能性は・・・


“明日は明日の風が吹く、ね。世の中何とかなる、って意味よ”


 第三者。それも、肉体を持たない――


 ――幽霊だ。

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