三人寄った、エスニアの町 ④
空気が止まった。三人が三人、納得する時間が静かに流れた。
スージーは、行方をくらませた母に。
ガロンは、伝説の勇者ソーマに。
エリックは、愛してやまない人に。
それぞれ、会いたいのだ。
目的は違えど、達成したいことは同じ。会いたい人がいる。
「なんか、すごい偶然ですねー」
エリックがふにゃりと笑う。何故だか体の力が抜けて、スージーもガロンも、いつの間にか頬を緩めていた。
「本当ね。三人揃えば、一晩分の宿賃も集まっちゃうし」
「三人寄ればサバイバル生き延びるための知恵、だろ?だから俺達も・・・」
「文殊の知恵、ですねー」
エリックがやんわりと突っ込む。スージーは小馬鹿にしたように笑い、ガロンは顔を真っ赤にした。
「んなっ!エリックはまだしも、町娘に笑われるのは許せねーっ!」
「ことわざの一つも知らなくて、今までよくやってけてたわね。私だってちょっとしか学校行ってないけど、その分働くために自分で覚えたわよ。あ、分かった。そっち方面がてんで駄目だから、暴れる系に走ったんだ?」
“フフフ”
「くあーっ!何が可笑しいっ!!」
ガロンは悔しがって地団太を踏む。エリックがそれを宥め、スージーは未だお腹を抱えて爆笑中。
「まぁまぁ、もう夜も遅いですし、ゆっくりと寝ることにしましょう」
“明日は明日の風が吹くって言うしね”
「三人で町を廻って、すぐに次の町へ出発したら何とかなりますよー」
いつの間にか、三人行動が基本となっている。だが敢えて突っ込むと、せっかくの雰囲気が台無しになるような気がして、スージーもガロンも同意に徹した。
それぞれ布団を敷き、横になる。一番スイッチに近いスージーが灯りを消すと、部屋は突如暗闇に襲われた。
真っ先に眠りに落ちたのは、意外なことにスージーだった。すぐさま彼女の一発目の鉄拳が飛び、うとうととまどろんでいたガロンの顔面に激突する。
「うおぉぉ・・・」
痛みのあまり声も出ず、ガロンは鼻を押さえて呻いた。とりあえず、鼻血の心配はなさそうだ。
「ガロンさん?大丈夫で・・・」
ゴッ、と鈍い音がして、エリックの声が途絶える。ガロンが暗闇の中目を凝らすと、男として最も大切な場所を押さえ、ぴくぴくと痙攣している黒い影が判別できた。同じ男として、ガロンは深く同情した。
「・・・お前こそ、大丈夫か?あ、そうだ。なんか違う話したら気ー逸れっかもな。教えてくれよ、さっきの言葉の意味。あれもことわざだろ?」
ガロンにしては気を遣った。しかも、勉学に励む精神まで見せた。個人的にはかなり譲歩している方だから、エリックはきちんと丁寧に答えてくれることだろう。
そう、思ったのだが。
「あー、あれですか。あのことわざは、平凡な人たちも三人集まれば、すごい力を発揮できる、という意味ですよー」
「それは知ってる」
ガロンは唸った。
「そうじゃなくて、その・・・えっと、明日の風は明日だ、みたいな・・・なんだっけな?」
「はいー?」
エリックが横になったまま、首を傾げる布ずれの音がした。ガロンは眉をひそめる。
俺は何か、変なことを言っただろうか。
「忘れたのか?お前が言ったんだろう。そりゃ確かに今の説明じゃ分かりにくかったかも知れねぇが・・・」
「僕が言ったのは、『三人寄れば文殊の知恵』だけですよー?」
「え・・・」
ガロンは、血の気がすぅっと抜けていくのを感じた。ひんやりとし夜気をひしひしと感じる。
エリックは未だに、ガロンの言葉の意味を解釈しようと頭を捻っている。
となると、さっきのことわざはガロンの空耳だったのだろうか。
いや、それはない。一応三人の中では一番旅の経験が豊富で、五感も体力も並以上に鍛えてあるのだ。聞き間違いなど、あるはずがない。
スージーに至っては声も出ないほど笑っていたのだ。
となると、残る可能性は・・・
“明日は明日の風が吹く、ね。世の中何とかなる、って意味よ”
第三者。それも、肉体を持たない――
――幽霊だ。