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三人寄った  作者: sunnysing
10/12

三人寄った、エスニアの町 ③

「さて、と。まぁとりあえず一晩分の確保は出来たけど・・・困ったわね」


 スージーは顎に手を当てて考え込んだ。

 エリックとガロンも、眉を寄せて神妙な顔つきをしている。


「明日ここにまた泊まれるお金はないわ。稼いでる時間もないし。町中を廻らなきゃならないんだもの。となると・・・明日中に調べ終えて、すぐ発たなきゃいけないわよね。でも食料ないし、買うためのお金もないし・・・あーっ!もうっ!」


 スージーはごろんと床に仰向けになった。


「駄目だわ。計画性が無さ過ぎる。もうちょっと・・・」


 もうちょっとお金を持ってくれば良かった、と心底思った。訂正、銀か。

 ガロンとエリックも同じような見解になったらしく、三人揃って大の字に横になった。

 しばしの沈黙が訪れる。だがそれを破ったのは、エリックだった。


「スージーさんは、エスニアにどういった御用で来たのですかー?」

「私?」


 スージーはふっと笑みを浮かべた。


「母さんを、探しに来たの」

「母さんを・・・」


「そう。父さんはずっと前に家出て行っちゃったきり。母さんと私の二人で、ずっと生きてきたの。でもね、それでもどうしてもお金が足りなかったから、母さん、他の町に行っちゃった。稼いでくるねって。しばらくは仕送りも届いたんだけど、でもある日、それがぷっつり途絶えちゃってねー。その頃にはもう、私一人でもなんとかやってけたから良かったんだけど」


「母さんに、問いただすんですかー?どうして連絡しなかったんだって」

「そんなこと聞かないわよ」


 心底驚いたように、スージーは起き上がり、エリックを見返した。


「恨んでるんじゃないの。心配だから。働きすぎて、どこかで倒れてるかもしれない。重い病気に掛かって、連絡しようにも出来ないのかもしれない。だから、私から会いに行くって決めたの」


 その横顔は、どこか大人びていて。

 エリックは思わず目を逸らした。


「そうなんですかー」

「俺はなぁっ、未来の勇者となるために、現在進行形で勇者やってる人のところに弟子入りすんだぁっ!」


 ガロンがいきり立ち、筋肉のついた腕を天井に突き上げた。

 その瞳はきらきらと輝いている。


「あんたには誰も聞いてないわよ」

「町娘なんぞには分からねぇだろうがなぁ、俺は絶対絶対、この世界のどこかにいるっていう伝説の勇者、ソーマ様を見つけて、弟子入りすんだ!」

「誰それ」


 いつもならここでガックリとうな垂れるはずのガロンは、逆に勢いを増し、身を起こすとスージーに食って掛かった。


「ソーマ様を馬鹿にすんじゃねぇぞ。あの人はなぁ、悪いドラゴンを倒して、冥土の王様の乱心を静めて、今じゃ何してるか知らねぇが・・・と、とにかく!すっっっげぇお方なんだからな!」

「僕、知ってますよー」


 エリックが相槌を打った。いつの間にか立ち上がり、小さな窓から夜空を見上げている。

 だからその顔は、二人には見えなかった。


「昔、たくさん本を読みましたからー。その中の御伽噺にいましたー。伝説の勇者だって」

「伝説・・・」

「いや、いるんだ!ソーマ様は現実に絶対いる!」


 白い目で見るスージーに、ガロンは再び言い返す。その頬は、いつのまにか赤くなっていた。


「はいはいっと。ま、玩具みたいな剣使ってる“未来の勇者”さんには、先の長い話よね。で、」


 スージーは、背中を向けているエリックを見た。


「エリックは?どうして旅をしようと思ったの?」


 ぴくりと、エリックの肩が震えた。だが返って来た答えは、予想以上に簡潔なものだった。


「好きな人に、会いたいからですー」

「・・・えぇっ?!」

「なっお前みたいなちっこい奴が、いっちょ前にこっこっこっ恋っ?!」

「はいー」


 ここで初めて、エリックは振り返った。その顔は、いつものように笑っていた。


「大好きな人なんです。この世で一番、誰よりも想ってしまうんですよー」


 二人は、身体中の力が抜けたような脱力感に包まれた。


「エリックが恋、ねぇ・・・。アイドルが恋・・・。駄目よ、アイドルに恋はご法度よ・・・」

「俺もいつか、べっぴんな姉ちゃんと運命的な大恋愛をして、挙句の果てに姉ちゃん守って戦って死んで・・・え、駄目じゃんそれ。勇者じゃねぇよ全然」


 ツッコミどころの多すぎる二人に微笑みかけながら、エリックは首を傾げた。


「僕達三人とも、誰かに会いたいんですねー」

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