三人寄った、エスニアの町 ③
「さて、と。まぁとりあえず一晩分の確保は出来たけど・・・困ったわね」
スージーは顎に手を当てて考え込んだ。
エリックとガロンも、眉を寄せて神妙な顔つきをしている。
「明日ここにまた泊まれるお金はないわ。稼いでる時間もないし。町中を廻らなきゃならないんだもの。となると・・・明日中に調べ終えて、すぐ発たなきゃいけないわよね。でも食料ないし、買うためのお金もないし・・・あーっ!もうっ!」
スージーはごろんと床に仰向けになった。
「駄目だわ。計画性が無さ過ぎる。もうちょっと・・・」
もうちょっとお金を持ってくれば良かった、と心底思った。訂正、銀か。
ガロンとエリックも同じような見解になったらしく、三人揃って大の字に横になった。
しばしの沈黙が訪れる。だがそれを破ったのは、エリックだった。
「スージーさんは、エスニアにどういった御用で来たのですかー?」
「私?」
スージーはふっと笑みを浮かべた。
「母さんを、探しに来たの」
「母さんを・・・」
「そう。父さんはずっと前に家出て行っちゃったきり。母さんと私の二人で、ずっと生きてきたの。でもね、それでもどうしてもお金が足りなかったから、母さん、他の町に行っちゃった。稼いでくるねって。しばらくは仕送りも届いたんだけど、でもある日、それがぷっつり途絶えちゃってねー。その頃にはもう、私一人でもなんとかやってけたから良かったんだけど」
「母さんに、問いただすんですかー?どうして連絡しなかったんだって」
「そんなこと聞かないわよ」
心底驚いたように、スージーは起き上がり、エリックを見返した。
「恨んでるんじゃないの。心配だから。働きすぎて、どこかで倒れてるかもしれない。重い病気に掛かって、連絡しようにも出来ないのかもしれない。だから、私から会いに行くって決めたの」
その横顔は、どこか大人びていて。
エリックは思わず目を逸らした。
「そうなんですかー」
「俺はなぁっ、未来の勇者となるために、現在進行形で勇者やってる人のところに弟子入りすんだぁっ!」
ガロンがいきり立ち、筋肉のついた腕を天井に突き上げた。
その瞳はきらきらと輝いている。
「あんたには誰も聞いてないわよ」
「町娘なんぞには分からねぇだろうがなぁ、俺は絶対絶対、この世界のどこかにいるっていう伝説の勇者、ソーマ様を見つけて、弟子入りすんだ!」
「誰それ」
いつもならここでガックリとうな垂れるはずのガロンは、逆に勢いを増し、身を起こすとスージーに食って掛かった。
「ソーマ様を馬鹿にすんじゃねぇぞ。あの人はなぁ、悪いドラゴンを倒して、冥土の王様の乱心を静めて、今じゃ何してるか知らねぇが・・・と、とにかく!すっっっげぇお方なんだからな!」
「僕、知ってますよー」
エリックが相槌を打った。いつの間にか立ち上がり、小さな窓から夜空を見上げている。
だからその顔は、二人には見えなかった。
「昔、たくさん本を読みましたからー。その中の御伽噺にいましたー。伝説の勇者だって」
「伝説・・・」
「いや、いるんだ!ソーマ様は現実に絶対いる!」
白い目で見るスージーに、ガロンは再び言い返す。その頬は、いつのまにか赤くなっていた。
「はいはいっと。ま、玩具みたいな剣使ってる“未来の勇者”さんには、先の長い話よね。で、」
スージーは、背中を向けているエリックを見た。
「エリックは?どうして旅をしようと思ったの?」
ぴくりと、エリックの肩が震えた。だが返って来た答えは、予想以上に簡潔なものだった。
「好きな人に、会いたいからですー」
「・・・えぇっ?!」
「なっお前みたいなちっこい奴が、いっちょ前にこっこっこっ恋っ?!」
「はいー」
ここで初めて、エリックは振り返った。その顔は、いつものように笑っていた。
「大好きな人なんです。この世で一番、誰よりも想ってしまうんですよー」
二人は、身体中の力が抜けたような脱力感に包まれた。
「エリックが恋、ねぇ・・・。アイドルが恋・・・。駄目よ、アイドルに恋はご法度よ・・・」
「俺もいつか、べっぴんな姉ちゃんと運命的な大恋愛をして、挙句の果てに姉ちゃん守って戦って死んで・・・え、駄目じゃんそれ。勇者じゃねぇよ全然」
ツッコミどころの多すぎる二人に微笑みかけながら、エリックは首を傾げた。
「僕達三人とも、誰かに会いたいんですねー」