神の子
その娘は、生まれ出る瞬間光を放ったという。
そんな戯言を語る両親に、その少女は絶望していた。
家の中に閉じ込められ、外に出ることもかなわず、たまの外出は、仰々しく派手な装束に身を包み、大勢の大人たちに傅かれる。
うんざりしていた。すべてに。
周りの大人たちは、到底話が通じない。
ただ、少女には話し相手がいた。
暗闇の奥に光る眼玉が二つ。
それと話す時だけが、少女の心の癒しだった。
二つの目玉は、少女に、言葉、世の中の出来事、様々な目の前にいる大人たちが教えてくれないことを教えてくれた。
少女は、その存在を「先生」と呼んでいた。
ある日、少女の家に今まで見たことのない大勢の大人が入ってきた。
大騒ぎする両親や周りの大人たちを取り押さえ、少女は、外の世界に連れ出された。
生まれて初めて、病院、という場所に行った。
先生に教えられて、存在は知っていたけれど、親たちから言われていた、悪魔の所業が行われる場所だとは到底思えなかった。
そこにいる大人たちは、とてもやさしく、少女を子供として扱ってくれた。
少女は初めは戸惑ったが、周りの子供たちが、泣いたり笑ったり怒ったりして大人たちに甘えてるのを見て、これが「普通」なのか・・・と気づいた。
ある日、一人の女性を紹介された。
「どうも、田中雪子です。これから、私があなたの親代わりになります。」
色白の眼鏡の優しそうな若い女性だった。
初対面なのに、なんだかとても懐かしい気持ちになった。
少女には、名前がなく、神の子と呼ばれていたので、便宜上、神子と呼ばれることになった。
戸籍上の名前は、今は、こゆきということになっている。
田中こゆき、それが少女に初めてつけられた名前だ。
大人になったときに、変えてもいいといわれた。
だが、こゆきは、はじめて、もらった名前を変えたいとは思わなかった。
田中雪子の子でこゆき・・・単純な名づけだけれど、親子という感じがして、とても好きだと感じた。
初めて手を引かれて、歩いた町は、初めて歩くのに、とても懐かしいにおいがした。
きゃはは!あはははは!
昼休み、フリースクールでは、子供隊が走り回って遊んでいる。
神子は一人、教室で本を読んでいた。
「神子は一緒に遊ばなくていいの?」
田中先生が声をかけた。
「うん、ちょっと読みたい本があったので。」
神子は本当は、こうして、田中先生が声をかけてくれるのを待っていた。
家族になったとはいえ、なかなか、うまく田中先生に甘えられないでいた。
田中先生がふっと神子の頭を撫でた。
神子は照れて、本で顔を隠した。
田中先生にあこがれて、おかっぱにした、神子の白髪は、光に当たってキラキラと輝いた。
その顔はかつて暗闇の中で絶望に震えた小さい子供から、未来をつかむ「普通の」少女の顔になっていた。




