子狐の子守歌
ある、小さな村の山奥に、それは生まれた。
三匹の狐のうちの一匹。その一匹は、普通の狐の何倍もの霊力を持っていた。
母狐もそれに気づいたが、可愛いわが子を大事に大事に育てた。
あの日までは・・・。
その日、いつものように母狐が狩りをして帰って来ると、子狐たちのうちの一匹が怪我をしていた。
そして、そこに、大猪が血を流して倒れていた。
母親が子狐に駆け寄り傷口を舐めたが、傷口はとうに塞がっていた。
怪我をした子狐の後ろで、もう一匹子狐が震えていた。もう一匹を探そうとした母狐は、本能的に危機を察知し、逆毛を立て、唸り声をあげ、大猪の背後を睨みつけた。
大猪の後ろのそれは、ガサガサ、と音を立てて、走り去った。
母狐は、走り去るそれがわが子の後ろ姿だと気が付いたが、他の二匹を置いたまま追いかけることはできなかった。
母狐は、ひどく後悔した。
「狐鉄、狐鉄、大丈夫かい?」
狐鉄の目の前には、先生がいた。狐鉄は、神社横の森のねぐらで丸まって寝ていたはずだが、月夜の中で、先生の膝に抱かれていた。
「うなされてたみたいだね。よしよし。」
先生は、狐鉄の背中を撫でると狐鉄はもう一度眠りについた。
「まったく、もう四歳だというのに、いつまでも子狐みたいな子だね。」
先生は大昔の子守歌を歌った。今はもう、誰も忘れてしまった子守唄を。常世の子守歌を。
ふと何かの気配を感じた。
「おや、珍しいお客さんだね。」
そこには一匹のメスの狐がいた。
「巣立ち前に手放したからって、もう、この子は四歳だよ。良い加減子離れしなさい。」
メスの狐は目を閉じ、頭を下げるようなしぐさをすると、スーッと森の中へ消えていった。
「他の兄弟はとうに巣立たせただろうに、毎年見に来るんだから過保護だね。」
先生は、狐鉄を撫でながら、また、常世の子守歌を歌った。常世の子守歌を聞いている間は、狐鉄が起きないことを知っているから。
先生に隠れながら、母狐がどこからでも狐鉄の様子を見られるように。ゆっくり何度も、子守歌を歌った。
つづく




