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神社の学校  作者: 碧蜜柑
1/7

学校へ行こう

東北地方の比較的温暖なとある県のとある町に、その学校は存在する。


神社横のフリースクールである。



愛子(あいこ)、またなんか変なのくっついてるぞ。」


「おはよう狐鉄(こてつ)。挨拶くらいしてよ・・・。」


ツンツンとしたオレンジ色の髪をした猫目の少年は、愛子の背中のほうをちらりとのぞき込むと、呆れたような、面倒くさいような顔をした。


「おはようはいいけどさ、あれどうするの?」


”あれ”とは、愛子の後ろをついてくる、黒のおかっぱ髪の少女だ。ちなみに、愛子も黒のおかっぱ髪だ。


「どうするって言われても・・・私は何もできないし・・・。」


愛子は困った顔で狐鉄を見る。狐鉄も愛子に、だよなぁ・・・というような困り顔を返す。


「とりあえず、走るか!」


「わぁ!?」


狐鉄は愛子の右手をつかむとダーッと走り出した。愛子は突然で驚いたものの、それしかないよね~と考えながら、必死に両足を動かした。後ろのおかっぱ娘も愛子の後をすごい速さでついてくる。


愛子と狐鉄が走る先には鳥居があった。その鳥居をくぐり、そのまま山道を駆け上がった。息を切らしてたどり着いた先には、歴史を感じさせる神社があった。


二人は息を整えながら、後ろを振り返った。おかっぱ娘は鳥居をくぐれない様子で、鳥居の周りをうろうろしている。


「よかった・・・。追いつかれなくて・・・。」


狐鉄はほっとした様子で、愛子を見た。愛子は死にそうな顔で必死に息を整えようとしている。狐鉄は申し訳なさそうな顔をした。


「あ・・・愛子・・・ごめんね・・・俺つい本気で走っちゃって・・・。」


愛子は、ゼイゼイと息をしながら、狐鉄の顔を見た。


「だ・・・だいじょう・・・。」


愛子は必死に狐鉄に心配をかけまいと声を出そうとするが、息が上がってうまく話せないでいた。その様子に狐鉄がまた動揺し、心配しながら、愛子の周りをごめんと言いながらぐるぐると周っている。


「狐っていうより、犬みたいね。」


二人の背後から、鈴虫の鳴き声のような声が聞こえた。


長い黒髪をたくわえた、美しい少女だった。


龍姫(たつき)!俺は犬じゃねえ!」


龍姫と呼ばれたその美少女は、狐鉄を無視して、愛子の背中をさすりながら、声をかけた。


「おはよう。愛ちゃんだいじょうぶ?また狐鉄のバカが、愛ちゃんを振り回したんでしょ?かわいそうに・・・。」


狐鉄は龍姫に言い返したかったが、本当のことでもあるので、言い返せずにぐぬぬ・・・と悔しそうな表情をした。


「おはよう三人とも・・・。喧嘩はダメだよ。特に悪口は。玉が濁るよ。」


正面から、大人しそうな少女が現れた。この少女も黒髪だが、愛子や龍姫よりもずっと薄い色、茶よりは灰色に近いアッシュ系の髪色だ。


「おはよう神子(かみこ)!朝から愛ちゃんが狐鉄に走らされたみたいでつい・・・。」


龍姫は、年下の少女に注意されて照れくさそうに笑った。


「たぶんあれのせい・・・。」


「ん?」


神子は鳥居の入り口を指さした。先ほどのおかっぱ娘がまだいた。


「私が来たときはいなかったけど?」


龍姫は、怪訝そうにおかっぱ娘を見た。


「龍姫ちゃん相手じゃ無理そうだから、隠れてたんだと思う。」


「なるほどねぇ・・・。」


龍姫は妙に納得し、愛子の背中をさすりながら、もう片方の手で愛子を支えた。


「龍姫には敵わないけど、俺には勝てると思われたのかな・・・。」


狐鉄は、しょんぼりした顔でうつむいている。


「ば・・・バカだね狐鉄は!私の力じゃなくて、後ろ盾のことだよ!」


龍姫は慌てて、狐鉄を励ました。龍姫は、愛子に無理をさせる狐鉄を心配して叱るだけで、けして嫌いなわけではないのだ。


それに実際、力は狐鉄のほうがはるかに強い。


「龍姫ちゃん、悪口、ダメ。」


神子が龍姫を注意する。龍姫は、困った顔をする。狐鉄へのバカ呼ばわりは、どちらかと言うと、龍姫なりの愛情表現というか、しつけみたいなものだった。


実際、龍姫は狐鉄を愛子の飼い犬のように感じている。


「ほらそこの(わらべ)たち、早く中にお入り。」


神社の中から、白い髪の美しい青年が現れた。


「先生おはようございます。」「おはようございます。」「おはよう、せんせい!」「お、は、よ、ございます・・・。」


先生と呼ばれた青年は四人を神社の中へ招き入れると、引き戸を閉め、ゆっくりと鳥居の前まで下りて行った。


「うちの弟子たちに何か用かな?それとも、うちの弟子たちって知らずについてきた?変化した子狐がぴったりついてるの、変に思わなかったのかな?」


本来なら、この立場の存在が近づいてきたら、この類の何かは恐れて逃げるものである。しかし、逃げるのが遅かった。力のある子供たちが集まっている時点で、何かを察知していれば逃げられたかもしれない。


そもそも、子狐が()いている子を狙わなければ、あるいは・・・。


しかし、死んだ時点で、(うつつ)(とど)まったのがそもそもの間違いだった。現に留まった霊は、だんだんと理性も記憶も失い、失うと同時に何かを求めるようになる。


「おかあ・・・さん。」


そう言い残して、霊は光の柱に吸い込まれていった。消えたのではない。ただ、送られた。本来あるべきところへ。


「そうか、愛子は母親と仲がいいからね。だけど、人のものを欲しがってはダメだよ。玉が濁るからね。」


先生は、天を仰ぎ少女の霊を見送った。



「久しぶりに見たけど、やっぱり神様ってすごいね。」


龍姫は、感心して言った。


「龍姫ちゃんの旦那さんもあんな感じなのかな?」


愛子の言葉に龍姫は苦い顔をした。


「いや・・・。わかんない・・・。人型(ひとすがた)はまだ見せてもらってないからさ。それに、お嫁に行くのは、もう少し引き伸ばしたいし、となると顔合わせはもっと後になるんじゃないかな?」


「ふーん。」


神子は関心がなさそうである。


「なあそれって断れないのか?」


狐鉄は不思議そうに龍姫に尋ねる。


「人間が、神様のお申し出を断れると思う?」


龍姫は、困り顔で答えた。


「断ったらどうなるんだ?」


「国が亡ぶ・・・。」


狐鉄の質問になぜか神子が答えた。狐鉄は震え上がった。ちょっと涙目である。


「オレゼッタイセンセイニサカラワナイ。」


「まあ、国が亡ぶまでは言いすぎでしょうけど、村一つ、町一つ分くらいは消えるかもしれませんね。」


「そうだよね。」


「だからなるべく、先生の言うことをよく聞いて玉を磨いてほしいです。」


「それが実は一番難しいんですけどね。」


「俺勉強嫌い。」


「狐鉄君もそのうち人間世界の勉強をしてもらいますよ。」


「はーい・・・って田中先生!?」


気が付くと、四人の間に、スーツ姿の黒髪ボブ(要はおかっぱ)で眼鏡の大人の女性がしゃがんで混じっていた。


「田中先生、急にいたらびっくりします・・・。」


神子がそう言う横で龍姫が「気配がしなかった気配が…」とブツブツつぶやいている。硬直して固まった表情の愛子に狐鉄が怯えてしがみついている。


「人間のお勉強の時間なのに、誰も来なくて、田中先生悲しいです・・・。」


眼鏡の女性こと、田中先生は、たびたびこういうことがあるのか、とても苦労人の顔をしている。色白で薄顔の整った顔立ちだが、クマが目立つ、唇の色も薄い。


「いやでも結界が・・・あれ?」


先ほど、先生と呼ばれた白髪の青年が子供たちを守るために結界を張っていた。


「結界ならとっくに外したよ。」


神社の入り口を先生が開けた。


「え、でも入り口ここだけですよね、田中先生はどこから・・・。」


龍姫が見まわそうとすると、田中先生の笑顔が視線を遮った。笑顔とはいえとても圧がある。


「ここ、僕のお家だから、あんまり見ないでほしいな///」


他の子供たちもキョロキョロしていたが、すぐに、姿勢を正して、見るのをやめた。子供たちの頭の中で(国が亡ぶ)という言葉が繰り返されていた。


「先生、お邪魔しました。人間の子供たち、連れていきますね。」


田中先生は、子供たちを連れて、神社の外に出たあと、先生に、恭しく(うやうや)頭を下げた。


「お邪魔しました。」


子供たちも、先生に頭を下げると、神社の隣の公民館に歩いて行った。先生は、狐鉄と並んで、子供たちを見送った。


途中、愛子が振り返って、狐鉄に小さく手を振り、(またあとで)の口をした。狐鉄は照れくさそうに手を振り返した。


先生は、まぶしそうに、その様子を見ていた。


つづく




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