(人間界)聖女セシリア奪還作戦②
新年最初の更新です!今年もよろしくお願いします。
今日は他の作品も更新しているのでぜひのぞいてみてください~!
その頃、人間界。
王城の執務室には重苦しい空気が漂っていた。
絶望は何色ですか?今見えているのがそうですか???
第一王子ナイジェルは重い口を開く。
「聖獣の気配が消えたそうだ」
そう、セシリアを救い出すべく、永い眠りから目覚めてすぐに魔界のある方角へと向かっていった聖獣の気配が跡形もなく消え去ってしまった。
それはもう忽然と消えてしまったのだ。
聖獣の眠りを管理して、月の巡りを数える呪い師は聖獣の力を他の人間よりも強く感じ取ることができる。その呪い師も同じように気配を感じないと言っているので、これは間違いのない事だろう。
気配が消えたということは……聖獣の身に何かが起こったということ。
「くそっ、まさか、聖獣の力が及ばなかったというのか……!?」
本当は、力が及ぶ及ばない以前に、セシリアの張った結界のせいで死にかけにまで陥ってしまったわけだが、悔しそうに拳を執務机に叩きつけるナイジェルにはそんなことは分からない。
「どうしよう……魔族の天敵である聖獣さえすぐにやられたなんてと、どうすればセシリアを取り戻せるんだ……」
実際のところ、聖獣は無事も無事、戦うことすらなく、セシリアに飾ってもらった自慢の羽を魔族の頂点たる魔王に見せつけながら、今までにないほど生き生きとしているわけだが、そんなことを知る由もない魔法使いヘスは今にも泣きだしそうに俯く。
フォードは内心で苦笑した。
(いや、絶対絶対大丈夫だと思うな~~~。セシリア様、意外と動物お好きだし。自覚ないみたいだったけど。恐るべきなのは聖獣が死んだかどうかではなくて、セシリア様に手懐けられた聖獣が魔族側に取り込まれることのような気がするんだが)
フォードは古い記憶を思い浮かべる。
いつだったか、セシリアが王国内で傷ついた小さな魔獣を見つけたことがあった。
普通なら、すぐに討伐するべきだ。どれほど小さくとも、どれほど力がなさそうに見えようとも、それが魔獣、魔物であることには変わりないのだから。
しかし、セシリアが当然そうするのだろうと思っていたフォードは度肝を抜かれることになる。
「あら、とんでもなく弱そうで情けなくて可愛いわね」
「!?!?」
セシリアは小さく傷ついた子犬のようにも見える魔獣を前になんでもないことのようにそう言うと、徐に抱き上げ、しれっと連れ帰ったのである。
確かあの時は──
(そうだ、魔獣の存在は、その魔力を感じ取ることで気づくことができる。探知などはそうやって行うから、だからセシリア様は自分の自慢の結界の中に包み込むように魔獣を入れて、そのままの状態でしばらく飼ってたんだよな……)
結界の中に入ってしまえば、魔力さえも漏れないから。
もちろん、普通の結界ではそうもいかないが、そこは歴代最強の力を持つセシリアの結界である。
(……あ~~~~ますます嫌な予感するなあ~~~~~!!!)
フォードの頭の中で、セシリアが聖獣を結界に閉じ込めて捕獲し、動きを封じて笑っている妄想が繰り広げられていく。
そして、セシリアを知り尽くすフォードには、それがありえないことだとはどうしても思えなかったのだ。
ちなみにフォードは動揺のあまり、その結界をセシリアが魔界全体を包むように張ったことには思い至らない。セシリアは宣言もしていたし、人間界が守られていることは認識しているが、反対もそうであるだろうなどという可能性は、すっかり抜け落ちている。
なぜなら、そんなことは普通の人間にはとてもじゃないが出来るわけがないからだ。
セシリアが規格外すぎて、誰よりも彼女をよく知るはずのフォードですらわけわからんことになっている。
(もし俺の想像が当たっていたら、聖獣は無事だが、事態は思ったよりも最悪だぞ……!)
ここまできてもナイジェルとヘスに『セシリアを諦める』という選択肢がないこともまた、フォードにはよく分かっているのだから。
(セシリア様……あなたは確かにすごい人だし、何もかもを思い通りにしてきた人だ。ただ、二人のあなたに対する想いの大きさだけは見誤っているとしか言いようがない……!)
きっとセシリアは、命を助けて人類にしばらくの脅威がなく、人間界を守る結界も誰にも解けないとなれば、誰もがセシリアのことは諦め、セシリアの犠牲に涙を流しつつも、彼女がもたらした平和に感謝して大人しくしていると思っていたに違いない。
実際、セシリア抜きでは魔王どころか中堅どころの魔族にだって到底かなわないのだから、合理的なセシリアがそう考えるのも無理はないことだった。
ただ……ただ、恋とは、愛とは理屈ではないのだ。
そして、セシリアは、彼女自身が思うよりもずっと、愛されているのである。