聖女、ペットを飾り付けて懐かれる
さっそくラフェオン様のところへ連れて行こうと思い、首根っこを掴んで持ち上げると、聖獣は弱々しくもうみゃうみゃ何やら言っている。なに?
「うみゃ……みゃおん……」
「うーん、これはもしや、私の態度に戸惑っているのかしら?」
独り言のつもりで呟いたのだけど、視界の端にいたノンナが何度も力強く頷いた。戸惑っているのだと思う!ってことらしい。
聖獣って確か、聖女のことが好きなのよね?『聖女を愛する聖獣』ってフレーズを何度かナイジェルから聞いた気がする。だけど、戸惑う聖獣を見ていると、別に聖女だからって無条件に愛しい気持ちが湧き上がるとか、そういうことはなさそうに思う。
首根っこを持ったまま、くるりとこちらに向けて、聖獣と目を合わせてみる。ナイジェルの話ぶりからすると、こうして目でも合わせればまるで魅了されたかのように聖獣は聖力規格外の最強聖女私にメロメロになるはず。じっと見つめ合って、そのうるうるの瞳の中に湧き上がる愛情があるかどうか探してみた。
うん。どう見ても『貴様、本当に聖女なのか……!?』って疑っている目だわ。
「なにこれ可愛い」
ぶらぶらと無抵抗のままぶら下げられてるのに、必死に反抗するような目がすごく可愛い。
よく考えたら今までゆっくり動物を愛でる機会がなかったから知らなかったけれど、どうやら私は動物が結構好きらしい。だって可愛い。
それに、本来なら魔族の天敵であり、この場所に聖獣がいることは魔族にとってこの世の終わり、絶望以外の何ものでもないはずなのに、こうして私に首根っこを掴まれてぶるぶる震えている姿は非常に庇護欲をそそるではないか。若干のいたずら心もそそるけど。
「うみゃっ!?う、うううみゃあおおおん!」
聖獣は突然必死に喚き始めるが、若干の怯えを隠せていない。そのせいでなんとも情けない鳴き方になっているではないか。
ふむ。恐らくこの子の器を私の聖魔力で満たしたために、なんとなーく私の思いが伝わっているみたいだわ。
「ばかね、本当に悪戯するわけないじゃない??だってお前は私のペットなのよ?」
それが心配なんだと言わんばかりに目で訴えられたが、そんなこと言われてもという気持ちしか湧かないので気にしない。
それでも信用ならないのか、抗議の声を上げる聖獣にふと違和感を覚える。
「あら?お前、よく見たら右の羽が少し剥げているのではない?」
「キュッ」
私の言葉に、なぜか息を詰まらせる聖獣。ふうん、なるほど?あまり指摘してほしくなさそうね?
ということは、何かしら。この羽の剥げている部分はこの子のコンプレックスだったりするのかしら?
よく考えると、結界で傷ついた体を治癒してあげたのにこの部分が剥げたままになっているということは、恐らくこの子の羽は生まれつきこの状態だったということだろう。
見ないでほしい!と言わんばかりに羽を丸め、目を泳がせる聖獣。オドオドしていてはせっかくの可愛さが台無しじゃあないの。
それにこのようにいかにも自信がありません!なんて様子を見せてしまえば、ラフェオン様に気に入ってもらえないかもしれない。
そう思った私は一度部屋に戻り、羽を飾り付けてやることにした。
「ふふふ、剥げているのが気になるなら、剥げていてよかったと思う程そこを美しく飾ってあげるわね!」
「キュキュウ……?」
それにしても、みゃあみゃあと猫のように鳴いたと思ったら、キュウンキュウンと子犬の様にも鳴くなんて、なんとも器用な声帯だこと。
今の状態でも羽を使って飛べるということは、バランス的にはそう悪くないはずなのよね。もしくは生まれてずっとこの状態だったから慣れているのか。
どちらにせよ、あまりに重さが変われば飛べなくなってしまう危険性もある。
「ということは宝石は却下ね。そもそもいかにもお金をかけたという煌びやかさは聖女様のペットとして相応しくないもの。ここは可愛さアピールで花にしましょう」
キャムを呼び、イメージする花を調達するようにお願いする。
それをこうして……時間を止める魔法で枯れないようにして……こうして……あら、なかなかいい出来ではないの。
「私ったら、センスまで良くて困るわね」
自画自賛していると、ノンナもキャムもデイミアンも聖獣を囲んで囃し立てる。
「まあ!聖獣をこんな風に可愛らしくするなんて、さすがセシリア様です!」
「セリーヌ様に言われたとおりに集めた花がとっても似合っていますね!さすがセシリア様!」
「なんとも神々しい!全て揃った羽もいいんでしょうが、こうして不揃いだからこそ引き立つ美!こんなこと、セシリア様にしかできませんね!」
目をキラキラさせる3人に、最初は驚き戸惑っていた聖獣も、キョトン顔から徐々ににんまりとしたにやけ顔に変わっていく。
それにしても聖獣を褒めているのか私を褒めているのか分からないけれど、まあいいでしょう。
なぜなら、さっきまでオドオドと落ち込んでいた聖獣が、たちまち自信をつけてドヤ顔をしはじめたのだから。
「これで私やラフェオン様に相応しくなったわね!」
それではさっそくお披露目よ!
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「ラフェオン様!おはようございます好き!」
「お前か」
どこか呆れたような視線を向けたラフェオン様は、目が合ったとたんに少しだけ目を丸くして固まった。
あら!そんなお顔もとっても素敵だわ!
どんな時でも、どんな表情でも素敵だなんて、ラフェオン様ってば存在が罪深すぎる。
そんな風にうっとりしていたら、ラフェオン様は戸惑いを隠しもせずにこちらを──聖獣を指さした。
「お前、それ、まさか」
「お気づきになりましたか!そう、聖獣です!」
「嘘だろ……」
「大丈夫です、私の聖魔力で抑えているので、自由に大きくはなれませんし、魔族への脅威にもなりません。というかならせません。ということでペットにしましょう!」
「待て待て待て」
あら?ラフェオン様、あまり嬉しそうではないわね……。
「ペットにするのは気に入りませんか?」
「いや、気にいるも何もまさか本気で聖獣をペットにしようとするとは思わんだろうが!」
ふむ。つまり、ラフェオン様は動物があまりお好きではないということよね。
私はしょんぼりしながら抱いていた聖獣をそっと下に降ろす。
「ラフェオン様が要らないって。お行き」
「みゃっっ!?!?」
聖獣は信じられないものでも見たような目で振り返った。あら、そんな顔もなかなか可愛いじゃない。
だけど、ラフェオン様がいらないならペットにはできない。なににおいても第一優先はラフェオン様なのだから。
しかし、諦めることができないのか、聖獣はゴロンとお腹を見せてウルウルの上目遣いをこちらに向けたり、縋りつくように私に前足をかけてキュウキュウと鳴いてアピールしてくる。
「ごめんなさいね、ダメなものはダメ」
「キャウウウウン!?!?」
絶望顔の聖獣に言い聞かせていると、特大のため息が聞こえてきた。
あら!ラフェオン様お疲れですか!?聖女マッサージなんていかがかしら。
「……飼ってやれ」
「え?聖獣をですか?でも」
「ああ、もう!飼ってやれ!とても可愛い!気に入った!」
「まあ!」
「みゃおおおん!」
どこか投げやりのようなラフェオン様の言葉に、聖獣は大喜びでラフェオン様に飛びついて、甘えたように美麗なお顔をぺろぺろ、ぺろぺろと……。えっ……。
嘘でしょう……私なんて、まだ手も握ったことないのに……顔を……舐める……?
「やっぱりボロボロにして人間界に送り返そうかしら……」
「キュッ!?」
本気で追い出そうか迷ったけれど、ラフェオン様に止められたのでやめました。
ふん!ラフェオン様に庇われるなんて、いいご身分だこと!