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聖女、ペットを手に入れる

 


 最近私の離宮はにぎやかだ。


 正式に私の専属メイドになったノンナは、クールで無表情だけれど私のことがかなり好きらしく、


「他の魔族はまだ信用できませんから、この先どんな有能なメイドがやって来たって信用しないでくださいね。セシリア様のお世話はアタシが全部しますんで」


 なんてツンと言いながらも見えない尻尾がブンブンふれているのが見える気がするほど懐いている。なかなか可愛いじゃあないの。


 料理人のデイミアンは日々、


「これは魔王陛下が口にされた時、いつもよりほんのわずかに口角がキュッと上がった味付けのソテーです」


 とか、


「普通、この肉は濃い味付けで食されるものですが、魔王陛下はあっさり召し上がるのがお好みのようです」


 なんて、普通であれば料理の詳細を説明してくれるような場面でラフェオン様のリアクションを添えてくれる。有能だ。好感が持てるわ!


 庭師の少年キャムは、


「魔王陛下はあまり花にご興味がないようで……お役に立てずすみません……その代わり、魔王陛下の執務室から見える庭園の花を、一面セシリア様を彷彿とさせる銀や白、青い花で埋め尽くしておきました!」


 なんてことを親指をぐっと立てながら目をキラキラさせて報告してきた。うんうん、悪くないアイディアよ!刷り込み効果というものは単純であればある程効果があるものよね!ついでに私の離宮を囲む花は一面黒薔薇に植え替えられていた。なるほど、こちらはラフェオン様のお色というわけか。趣味がいいわ!


 すっかり怪我が治り健康になった3人は本当によく働いてくれている。ノンナは私が何かを望む前に差し出してくるし、デイミアンは料理を作るとき以外は護衛よろしく側に控えている。キャムはなくしていた右手が魔力の核だったらしく、魔力を取り戻すと変身魔法を使うようになり、鳥や小動物に変身してはラフェオン様の日常を報告してくれるようになった。有能だ。私、有能な者はとっても好きよ。


 一人で何でもできるから、使用人は特に必要ではないのだけれど。私の役に立ちたいと頑張っている姿はなかなか可愛い。それに快適であることは間違いないので、結果的には現状に大満足だわ。


 そんなこんなで、一日最低一度はラフェオン様の元へ突撃しつつ、毎日楽しく暮らしていた。

 今日も今日とてノンナの淹れた≪最近ラフェオン様が好んで飲んでいるお茶(情提供元:キャム)≫と≪先日ラフェオン様が二口も口にした焼き菓子(作成・情報提供元:デイミアン)≫を前に優雅なティータイムを楽しんでいると、バチン!と何かがはじけ飛ぶような大きな音が聞こえてきた。


 これは──。


 ふむ、とひとつ頷いて、私は音のした方──人間界と魔界の境界近くに向かうことにした。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



「グ、グルルルル……!」


 ──虎だ。白くて小さい虎。小虎が唸っている。

 ついでにいうと、小虎の背中にはどうも羽が生えているように見えるわね。羽が生えた小虎がべしゃりと地面に平伏していた。


 動けないようで、ぶるぶると体を震わせながらも、恨めしそうにこちらを見ている。


「聖獣じゃあないの!そういえばもうすぐ目覚めるって言っていたわね」


 それにしても、なぜ聖獣がここに?おまけに、本来聖獣は私が見上げるほど大きいはずなのに、今はまるで猫ほどのサイズの小虎になっている。どうしたどうした。


「セシリア様!?それ、聖獣なんですか!?」

「まさか、我々魔族の天敵と言われるあの聖獣……?」

「その割には、僕でもやっつけられそうに小さいけど……」


 ちゃっかりついてきたノンナ・デイミアン・キャムが口々に声を上げて首を傾げている。


「どうやら、私の張った結界に引っかかってしまったようね」


 チラリと視線を上げると、何者も通さないはずの結界に突き破ったような穴が空いているのが見えた。


 私はナイジェルやヘス、フォードをレクセル王国に転移させるさいに結界を張るって言ったけれど、あれは嘘じゃない。

 ──ただ、厳密にいうとあの時言ったように「人間たちの大陸は魔族の脅威に晒されない」とともに、「人間たちも魔界にはそう簡単に踏み込めない」ような、人間も魔族もどちらも弾く特別仕様の結界だったのだ。


 これからどういう展開になっても私が動きやすいようにそうしたわけだけれど、ラフェオン様が平和主義ならますますこの判断は正しかったわよね。魔族が人間界に行けないようにした影響で、ついでに魔界に住む魔物もこの結界を通ることができなくなっている。つまり、小さないざこざさえも起こりえない状況になったというわけだ。


 とはいえ……。


 さすが聖獣、通れちゃったのね〜。だけどこの私の力には及ばず、突き破って通るのが精一杯でこうして息も絶え絶えに転がっているというところかしら。伝説の聖獣すら私の力の足元にも及ばないだなんて、強すぎるって罪ね。うふふ!


「そうだわ!」


 いいことをひらめいた!私はすかさず聖獣に治癒魔法をかける。みるみる癒されていく聖獣……けれど、あえて聖獣の枯渇した聖魔力の『器』を私の持つ聖魔力で満たし、自由に体の大きさを変えられなくしてみた。


「ふう、これでよし。大きい聖獣も可愛いと思うけれど、魔族は多分びっくりしちゃうものね。小虎の姿で連れて行きましょう」


「セシリア様……?その聖獣、どうするおつもりですか?」


 怪訝な顔のノンナに向かって、私は満面の笑みを向けた。


「もちろん、ペットにするのよ!」


 私の結界に穴をあけるほどの力を持つんだもの。私の──そして、愛するラフェオン様のペットに相応しいわ!うふふふふ!


「シャーーーッ!」


 私の不穏な考えが伝わったのか?聖獣は抱き上げると私に向かって威嚇した。

 あらあら、仕方のない子ねえ。


「よーしよし、大丈夫でちゅよお。ほーら、あなたの大好きな聖女の聖魔力をたくさんあげまちゅからねえ~~」

「シャ、シャー……」

「よしよし、秘儀、聖女ナデナデ!」


 具体的には聖魔力を纏わせた手のひらで優しーく撫でてあげるのだ。猫ちゃんって、優しく撫でられるとママ猫に舐めてもらっているのと同じ感覚になるっていうものね。そこに聖魔力が加わるんだからきっと極上の気持ちよさでしょう。


「キュ、キュウウウ~ン」


 抵抗しようとしていた聖獣も、あっというまに陥落して甘えた声で頭を擦りつけてくるようになった。偉大なる聖獣と言えども、私の前ではちょろくて可愛くて子猫も同然ね!


 なぜだか絶望顔のフォードが頭を抱えるイメージが浮かんできたけれど、とっても見慣れた光景だったので全然気になることもなくすぐに忘れた。


「さあ、ラフェオン様の元へ新しいペットを紹介しに行かなくちゃ!!」




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